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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第4章 反成果主義

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第32話 中間報告

2055年(恒平9年)11月7日 日曜日


「どうも、虻輝様おはようございます」


 その日は透き通る声で、朝のまどろみから引きずり出された。


「あっ! あなたは……! 済みません失礼しました。今の今まで寝ていました……」


 なんとこの悪夢の一件に誘い込んだ張本人でもある特攻局の仁科さんだった。

 一瞬で眠気が吹き飛ぶとともに、背筋を思わず伸ばした。時間はなんと6時前だ。


「ははは、いえ。休日ですから問題ないです」


 今気づいた。日曜日だ。僕にはすっかり休日というものが消え去った――まぁ、元々プロゲーマーに平日も休日もないんだけど(笑)。

 それにしても、何かゲーム以外での他のノルマに拘束されている時間が圧倒的に増えた。


「い、いったい休日にどのようなご用件でしょうか?」


 仁科さんの声は大変朗らかだが、緊張が更に走った。とんでもないことを言われそう


「ええ、まだ2日ではありますが、どうにも虻輝様が苦戦されているようですから私のほうから手助けをして差し上げようかと。よろしければ、ご自宅までお伺いしたいのですが」


「あ、そうでしたか。実を言いますと情けない話ですが、潜入班の2人と連携がうまくいっていないんです……」


「ちょっと私のほうから動くのは怖がさせてしまいますかね?」


「いえいえ、そんな仁科さんはとてもお人柄がよく、2人も歓迎してくれると思います」


 正直言って仁科さん――というより特攻局は全く信用できない。ただの社交辞令だ。

 どのみち強制的に来ようという魂胆なのだろうからこちらから積極的に招き入れたほうが得策だ。


「では早速ですが今日の朝10時からお願いいただけますか? できれば皆さんお揃いでいただけると助かるのですが」


「分かりました」


 いきなり今日かよ。勘弁してくれよ……。


「では、直接お会いできることを楽しみにしています」


「ええ、僕も楽しみにしています。失礼します」

 

 何なんだよ……全く楽しみではなかった……。

 こんな朝から連絡があり、しかも10時から来るだなんてどんな新手の悪夢だよ……。

 

こんな明朝に連絡して来るだなんて、これは暗に“もっと働け”や“虻利家はどうなっているんだ?”などと言われているのではないかと思えて僕は憂鬱になった。



 その後あまりにも不安に襲われてゲームにすら身が入らなかったので為継に相談することにした。


「日曜の朝早く済まない。為継、今大丈夫か?」


「虻輝様おはようございます。私は科学技術局でも裁量を与えられていますので、ある意味毎日休みにできますので問題ありません」


 それだけ優秀だと暗に言いたいのだろう……。


「先ほど、今回の依頼の担当者である特攻局の仁科さんから連絡があったんだけど……」


「ほぅ……仁科というのは仁科啓二ですか?」


「お、知ってるのか? 特攻局関東総務部長という肩書なんだがね」


 若くてT大出身のエリートだからもしかすると……と思ったがやはり為継の知り合いだったか。


「ええ、T大で私と同じ学年でした。私は理系でトップ、仁科君は文系でトップの成績でしたね」


「へ、へぇそうなんだ」


 たまにある為継のナチュラルエリート自慢である。まぁ、僕も気が付かないうちにナチュラル名門大学在学自慢やナチュラルゲーム上手い自慢をしていそうではあるけど(笑)。

 確かに両者のプロフィールを見ると同じ学年だった。


「そうですか、仁科君なら少し話が分かるかもしれません。私も今日はお助けしましょう」


「お、そうか。頼りになるな」


「ええ、私の仕事は一区切りしてありますので、どのようなことを聞けばいいでしょうか?」


「そうだなぁ……僕たちのこういう会話っていうのは特攻局に筒抜けなんだよね?」


「ええ、まず間違いないでしょう。

基本的に全国民のコスモニューロンはAIで“危険な用語“があった瞬間に検知されるようですが、

 特に最大権力者の家系である虻輝様ともなれば、コスモニューロンのシステムで始終会話を聞かれ、分析されていると思って差し支えないかと」


 サラリと恐ろしいことを言ってくれる……。


「あ、そうなの……。そこで単刀直入に聞いて欲しいのだが、特攻局がズバリEAIを調査するのは日本宗教連合などとまとめて潰そうとしているのか? その点を聞いてくれないだろうか」


 流石の為継も30秒ほど沈黙した。その時間がとても長く感じた。


「……昔の(よしみ)があるとはいえ正直に答えてくれるとは思いませんが、聞くだけ聞いてみましょう」


 沈黙は内容を精査していたのだろう。やはりそれだけリスクがあることなのだ。

 それだけ特攻局の機密に触れることは重いのだ。


「ああ、無理を言って済まない」


「いえ、元々我々の会話は聞かれていますからな。正面から聞くかどうかだけの差です。私も気になっていますからやれるだけのことはやりましょう。では30分ほどお時間をいただけますか?」


「分かった。頼む」


 30分の間ゲームで時間をつぶしたが、何を話しているのか気になって気が気でなかった。1試合が妙に長く感じた。


「お待たせしました。間接的ではありますが聞くことはできましたな」


「で、EAIをどうしようとしているって?」


「簡単に言えば “当たらずとも遠からず”と言うところでしょうかね。明確な回答は拒否されました。機密もありますからな」


 つまりある程度は当たっているということなんだろう。“察しろ“と言われているようで、率直に言われるよりある意味怖かった。


「あまり詮索をしないでくれということか……」


「一つ申し上げられることがあるとするなら、建山テロ対策関東統括になられてからは“個人”を狙うというより、“大きな規模”で監視・管理をすることを重視しているということでした」


「やはりあれだけのスピードで出世しているんだから当たり前か。

EAI以外にも包括的に見ているということはありえそうだな……」


「ですから“当たらずとも遠からず”ということなのです。

 連携については難しそうですか?」


「それがだね。島村さんが言ってくれなければ、まどかも口を割らない。

 玲姉も含めて3人はとても仲が良いからな。

 島村さんは何か他に気がかりなことがあるようで、どうにも突破できそうにない。

 つまり、島村さんの懸案事項が解決してくれないと八方塞がりというわけだ」


「それなら仁科君が突破口になってくれる可能性があるかもしれませんな。

 もっとも、虻輝様から成果が上げられない雰囲気を感じられたので発破をかけに来ていることも間違いないと思いますが」

 

「そうだな。そうなってくれるといいんだが。ありがとう話を聞いてくれただけで助かったよ」


「ええ、虻輝様のお役にもっと立てるように私も頑張ります」


 そう言って連絡を終えた。特攻局の意図がイマイチ分からない以上、何とも言えなかった。島村さんを再逮捕するのも目的かもしれないからな……。

 そもそも、為継とて科学技術局――つまり大王の手足として働いているんだ。どこまで信頼できるのか分からない。

 とにかく手汗が止まらない。ゲームもやっとのことで勝っていた感じだった。

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