第28話 映画に出演!?
私達はその後、玲子さんから貰ったお弁当をもう14時を回っていましたが頂きました。
手作りのコロッケで、お弁当箱がとても優秀なのか、アツアツでとても美味しかったです。
そして公園の出口に向かって歩き始めます。ここに来た時よりも空気が美味しく感じられます。
「もしかすると……自殺までいかなくても怪我人になって働けなくなった方がいいとまで考えていたかもしれないね~。聞くところによると生活保護制度はまだ残っているみたいだから」
まどかちゃんは私と内藤さんが会話をしているときはほとんど黙っていましたが、色々なことを考えていたようでした。
「私の聞いた話では“利用価値のない人間”は直ぐに人体実験で消されてしまうとも聞きましたね。ただ、会話をせず人間的な生活をしないまま生きているのとどちらがいいのかと聞かれるともう分かりませんね」
安楽死の論争が未だに解決していないように、そういった“生きているかどうかの価値”についての論争は永遠に続くものなのかもしれません。
虻利家の一部の人間にとってはもう結論が出ていることなのかもしれませんけど……。
「ホンット虻利家ってのはどうしてそんなに極悪非道なんだろうねぇ~。皆がお姉ちゃんみたいな理念の持ち主だったらいいのにさ~。
あっ! あたしの苗字も虻利だった~!」
まどかちゃんはおちゃらけて話していますが、先ほどの時もそうでしたが非常に悲しそうな表情をしています。
「玲子さんとこの間お話ししましたが、『それぞれ正義を持っている』のでお互い譲ることはないと思いますね。最善とは思いませんけど最終的な決着は“戦いの果て”にあるのではないかと思っています」
「でもいくらなんでも今戦うのはどうかと思うけどね~」
「玲子さんだけでは流石に厳しいですから、私達も実力を身につけなければいけません。
内藤さんのような悲劇的な状況を見ていて私もこのままではいけないなと思いました。
まず今できることをやるためにも弱点を克服していかなければいけません。これから、『不特定多数の人の前で話す』ということをやって行きたいのですが、何か模擬的な練習みたいなことは出来ないのでしょうか?」
私はそうつぶやきましたがまどかちゃんは何やら考えているようで、すぐに反応がありませんでした。
落ち葉をサクサクと踏みしめる音だけが鳴り響きました。
しばらくすると、公園の出口に近く都会の車が行き来するのが見える噴水まで来ました。新しい場所に行くのならばここで決めておかなければいけません。
「ここからどうしましょうか? 先ほどよりかは気分としては落ち着きましたし、
今から戻って何とか動画撮影もやり切りたいという気持ちにはなりましたけど……」
やっぱり自信がないというのが現実です……。
「そうだねぇ……でも、今更やるっていうのもどうかと思うから。今日はずっとリフレッシュしたほうが良いと思うなぁ~」
「リフレッシュと言っても私はこの公園にいる以外で方法が思いつかないんですけど……」
そもそも私はほとんど娯楽らしい娯楽をほとんど知りません。こうなったら弓道の練習をしていたほうが良いのでしょうか……。
「う~ん――そうだっ! 折角だからVR映画館に行こうよっ! 何でも最近の映画館は実際に映画の登場人物になったような気分になるバージョンも存在するんだって! 凄いよね~!」
最近の映画館はそんなことになっていたんですね……。コスモニューロンでは実現できない体験型施設でなければリアルレジャー施設で生き残ることはできませんからね……。もっとも、コスモニューロンも没入感のあるゲームなども存在するらしいので、そこら辺は上手く共存できるように境界線は引いてあるのでしょうね。
「なるほど、映画館はそうやって今生き残っているんですね……。」
「コスモニューロンで見ることができるから、数は昔よりかはかなり減っちゃっているみたいだけどね。
そもそも、演技クオリティが低いとAIに判断されると誰にも見られないまま終わっちゃうことが多いみたいだけどね……」
なるほど、映画の一場面に出演してみたいという需要とクオリティが高いモノを見たいという人たちの需要を上手い具合に組み合わせているわけなのですね。
「因みに演技をする場面などは指定できるんですか?」
「そうだね~。自由みたいだよ。それで映画として組み込まれる際には、顔は指定した人が最初から最後まで同じで、演技などがAIとその人の趣向次第で変わってくるとかそういう感じみたいだね」
「凄いシステムですね……もはやプロの人もうかうかできませんね……」
「まぁ、コネクションや権力で無理やり良い配役についていた人たちがいなくなる分、新しく活躍できる人物が出てくるのは良いんじゃないかな~」
どの体制でも闇がありますからね……。
「なるほど……ハリウッドや映画業界はこのシステムで壊滅的な打撃を受けましたからね。俳優さんたちは個人事業主みたいな感じになってきましたね」
「そう、誰でもスターになれる可能性があるのは虻利家が考えたシステムの中で数少ない良いところだよね」
「その分、実力が無い人たちはかなり苦しい思いをします。
以前の労働者による資本主義社会が全て良かったとは思いませんけど、それでも努力をすれば努力をしただけ報酬を貰えるという制度はある意味救済されるように思えます」
虻利家が作り出した実力至上主義にふさわしいシステムとも言えますけどね。
「結果“だけ”で測るって言うのもホントどうかと思うよね~。ロクに働かないで自給を貰うのもどうかと思うけどさ~。
あ、ここだよここ! ここが最新のVR映画館みたい!」
以前のように多くの人を収容することを想定していないためでしょうか? 思ったよりも細長いビルで少し驚きました。しかしビルの材質はキラリと日差しを反射する大理石に近い素材のようで施設そのものにはお金をかけているという印象を受けます。
「こんにちは、本日はどのようなプランをご希望でしょうか?」
「視聴・出演両方のコースでお願いします」
まどかちゃんが手続きや話をしている間、トイレに行くついでに初めて来たので少し施設の内部が気になりましたので様子を見ました。
コスモニューロンが世間に普及するまでの間“ネットカフェ”と言った個室のインターネット環境を整えた施設があったのを映像で見たことがあります。
視聴コースはそれに近い印象を受けました。それに対して、出演コースの部屋は“カラオケ”のような感じの外に音声が漏れないような防音が施されているようでした。
「一人1時間辺り2000円だって~。どれぐらい借りる~?」
少し周りを見ていたので時間をかけていたのですが、まどかちゃんは私を待っていてくれていました。何だか悪いことをしてしまいました……。
「初めてなので最低でも2時間ぐらい欲しいです。私がお金を払いますよ」
なかなかの金額を支払わなければいけませんが、仕方ないですね。まどかちゃんは最初は遠慮していましたが、渋々と私が払うことを承諾してくれました。私のほうが2歳年上ですし、迷惑をかけたのは間違いないですからね。
「本当にカラオケみたいな感じなんですね……」
部屋に入ると“撮影ができるカラオケ”と言った感じの内装でした。防音効果が期待できそうな壁の材質でひとまずホッとしました。
「撮影モードになると、雰囲気を出すためにこの白い壁が映画の雰囲気そのままになるみたいだね」
「それは凄いですね……。私たちみたいにコスモニューロンを持っていない人にも対応しているということですか……」
「だから、そういう人にも人気みたい。どうやらカラオケの採点機能も搭載した施設みたいだよ~」
まどかちゃんが機械をカチカチと操作しながら言っています。
「あ、そうなんですね? ただ、今日はそんなに時間も無いので映画撮影モードだけにしましょう」
実はあまり歌は得意では無いので出来るだけ避けたいというのはあります。
正直言って動画撮影より怖いかもしれません……。
……玲子さんと一緒に来てしまうと“苦手は克服しようね”と諭されて強制的に歌わされそうで怖いですけど……。




