第27話 再開への希望
ハッキリ言って内藤さんの言葉には頭に血が上っていくのが分かりました。
「いえ、私は特にお母さんを虻利家に殺され、父や弟とも離れ離れで、今は生きているかも分からないんです。虻利家に対して復讐を考えた日もありました……でも今は自分にできることを探して一つ一つやって行こうと思っているんです
お子さんはまだ生きておられるんですよね? だったらお子さんの未来のために生きてください!」
ビクッンと体を反応させ内藤さんは目を見開きました。
「そ、そりゃ済まないことを言ってしまったね。謝らせてくれ」
内藤さんが今度は頭を下げました。自分の世界以外見えなくても仕方ないですからね……。
私もあまりにも感情的になりすぎてしまいました……。
「いえ、いいんです。それより、拘束して申し訳ありませんでした……解かせていただきますね」
もう、自殺しそうな切羽詰まった雰囲気が無くなったようなので、ロープを切りました。
ちょっと、自分の発言に反省する気持ちもありました。
「今思うと何をしようとしていたんだって思ってしまうね……。大樹と再会できる可能性はゼロじゃないんだ」
自分の手を見つめながら内藤さんはそう言いました。手遅れにならなくて本当に良かったです……。
「今、この世界に何もかも順風満帆な人なんてほとんどいないと思いますからね。誰もが何かしらか闇を背負っていても何ら不思議ではないです」
何もかも満ち足りているかのように見えたあの虻輝という人も、自分の“仕事”や境遇に悩んでいるようでした。何も悩みが無い人間なんてどこにもいないのかもしれません。
その悩みの内容のレベルがそれぞれ違うだけで本人たちにとっては一大事なのでしょう。
人間の悩みはそれだけ複雑なのでしょう。一つ一つのプラスのことに気づいていないことも大きいのかもしれません。
「なるほど……何か君からは悟ったような、もしくは達観したような雰囲気があると思ったけどそう言うことだったんだね」
「いえ、私なんて何も知らないです……本当に日々勉強の毎日です」
もっと色々なことを広く知りたいです。知ることによってこれまでの価値観が覆されてしまうかもしれませんが、そうであったとしても“知らなくて平和ボケをしていた”時よりはより良い精神状態になると信じています。
愚かで何も知らなかった無垢な時代は幸せだったのかもしれませんが、人間として未熟だと言わざるを得ません。
「ふぅ、お嬢さんたちの話を聞いてたら何かクヨクヨしているのが馬鹿らしくなってきたな」
「折角でしたら、息子さんと再会するのとお手伝いしましょうか? 少なくとも1人で探すよりか作業効率は上がると思います」
「それは有り難いね。正直言って、信用スコアが失墜してから全く希望が無かったけれどもまた一緒に生活したいという気持ちはある。少なくとも何かしらか目標や希望を持っていると死のうとは思わなくなるかもな」
内藤さんはそう言うと写真を渡してきました。海をバックにピースサインをしている男の子が真ん中に写っています。大樹と名前が書かれておりどこか内藤さんに似ています。
「大樹君ですか……大切にお預かりしますね」
少しでも前向きな考えになってくれてとても良かったです……。
私たちに何ができるのかわかりませんが、もしかすると会える可能性もあるかもしれません。
「あの……最後に質問です。よろしいですか?」
「いいぞ」
「EAIは今後どうなると思いますか? 私達はちなみに今、コスモニューロンの良くないところを啓発する動画を作っているところなのですが」
私のセリフのところは散々で今のままではとても公開できるレベルではありませんけどね……。
「うーん、正直なところは何とも言えないな。赤井だって表面上はEAIのために活動しているし、俺の主観と言ってしまえばそれまでだしな。
ただ、俺のカンとしてはそのコスモニューロン啓発活動はあまり良くない気がするな」
「どのように良くないと思うのですか?」
「そうだなぁ……虻利家を直接刺激するようなことはやめておいた方がいいと思うんだよ。反社会的な行動をしているとみなされて特攻局に捕まっちまう」
「私もそう思います。ここだけの話ですけど、私達は特攻局の要請に従ってEAIを調査しているんです」
「えっ! それじゃ、特攻局から送り込まれたエージェントってことなのかい!?」
内藤さんはお尻で飛び上がって目が飛び出そうなぐらいになっています……。
「いえ、もともと私達はただの一般人です。ただ、特攻局がEAIに対して目を付けており“何か異変があれば”報告して欲しいということでした。私はそんなことはあまり積極的に行わず離れ離れになった父と弟を探す手掛かりになればと思ってやっています」
こんなことを言って大丈夫なのかな? と自分でも思いましたが、ここにいる誰もがコスモニューロンを導入していないので多分だと思います。この内藤さんもコスモニューロン特有の“虚空を見つめる”と言った動作をしないのでまず大丈夫だと思います。
「なるほどねぇ……大きい方の姉ちゃんは特に意志が強そうに見えるからねぇ……」
「島村知美です。こちらはまどかちゃんです」
「失礼。知美ちゃんは潜り抜けてきた修羅場の数が全く違って見えるね。ウチの大樹も君たちと同じぐらいの年だが元気でやっているかな……」
「大樹君の動向がもしも掴めれば内藤さんにお知らせしたいです。連絡先をお教えいただけますか?」
「分かった。そうしよう」
内藤さんはヨレヨレの紙に住所を書いて渡してくれました。
「んじゃ、あたしたちの住所はこれだよ~」
まどかちゃんはピンク色のメモ用紙に自分の自宅の住所を書いて渡していました。
「ほぉ……確かこの住所はそれなりの高級住宅街だった気がするけれども、お金持ちの家なのかい?」
「いえ……今は臨時で住ませてもらっているだけですね。私の身の丈に合わない家で毎日恐縮しています」
内藤さんの身の上から考えると、虻利家当主の家に下宿させてもらっているだなんてなるべく言いたくありませんからね……。
「ほぉ、そうなのかい。それにしても、2人とも本当にありがとう。気分がかなり下がっていたから破滅的な気持ちになっていたのかもしれないな」
「人間は1人では本当に弱いと思います。でも皆で力を合わせればこの世の中でも生き抜いていけると思います。大事なのは気持ちだと思います。どんなに恵まれた人でも気持ちが弱い人はすぐにプレッシャーで潰れてしまいますからね」
「そうだね……君達みたいな若い子がいるかと思うと俺も希望が持てるよ。それじゃ、そろそろ仕事に戻らないとな」
「はい、またお会いしましょう」
こうして私達は分かれました。私もこんなところでクヨクヨしていられません。
人に言ってばかりで自分は何もしないだなんて情けないですからね。気持ちを入れ直して明日から頑張っていかないといけません。今のままでは天国にいるお母さんにも申し訳が立ちませんからね。




