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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第1章 歪んだ世界で生きる者
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第16話 人間の自由意志

 特別拘留所の門の前には小早川為継がいた。

 彼は現在25歳。経歴を依然聞いたがT大学を首席で卒業し科学技術局を史上最速ペースで出世しているスーパーエリートだ。


 僕の裏の仕事を全面的に協力・相談をしてくれていて、

 家族以外では一番仲がいいと言っていい。


 また、僕の仕事面でのスケジュール管理もしてくれていて公私ともに欠かせない存在だ。


 世間では仮想現実でのAIアシスタントからアドバイスを受けている人が多いが、

 アレは虻利家の介在があって言うことを聞いていれば気が付けば洗脳されているからな……。

 現実的には人間からアドバイスを受けたほうが“人間らしく“生きていけるという訳だ。


「ふむ、時間通りですな。流石です」

 とても几帳面な性格で合理的な判断をすることで有名だ。1秒の遅れも許されない。もっとも、虻利という組織はそう言った時間を守る人種しか出世することは無いだろう。     


 今日は実はちょっと危なかったのだが、美甘が急いで飛ばしてくれたおかげで時間ぴったりという感じだった。


「ほんとは最低でも5分前には来たかったんだがな。色々あってね」

 玲姉からの栄養ドリンクを飲んだおかげか体調自体は戻ってきていた。


「そうですか。色々お忙しいですかな。では、こちらです」


 僕はこの特別拘留所にはあまり来たことがない……

 書類上では『反社会的』と認められた人物がここに収容されることになっており、

 僕も“送り込んでいる側”として存在自体はよく知ってはいるのだが中に入ったことは一度も無かった。


「今回の一件、いわゆる“島村事件”に関しては我々の失態でした。

 これまでは我々が“犯罪者”として強制的に指定した者たちの家族についても本社への侵入は拒否していたのですが、

 彼女に関しては前科もなく、母親は死亡・父親は行方不明。

 本人も児童養護施設に預けられていて引き取り先の苗字に変わっていたことから全く別のカテゴリにAIが分類していたのです」

 

 為継が淡々とではあるが早口でまくし立てて説明し始める。

 とにかく口調もそうだが仕事をこなすスピードが速い。

 裁断機にセットすると紙が大量にドンドン細かく切ってくれるように為継に任せておくだけであっという間に終わっている。


「なるほどね。複数のあまりない事例が重なると今のAIでも判断を誤るというわけか」


「そうですな。今後しっかり我々はデータを管理していかなければなりません。

しかしながら、AIの“考える力“の範囲を制限しなければならないのですからな。人間の手もある程度必要にはなっています」


「というと?」


「極端な話、AIに究極的なすべての情報を詰め込めば“人間を滅ぼせ”という結論を出してしまうことや、

人間を幸せにしろと命じたら“薬物中毒もしくはドーパミン漬けにする”

などと言った人間にとって最終的には不都合な結論に至ることもあるのです。

そこで、AIのアルゴリズムに制限を加えたりしなければ結果的に見て人間と相反する存在になりかねないのです」


「なるほど、AIを作るAIが生まれたり、

 人間の存在を超えるAIが誕生するといわれたシンギュラリティというのが早くて2030年代にも起きるのではないかと言われていたが2055年の今になっても起きていない。

 正確に言うと起きなかったのではなく“起こさせなかった”というのが真実なんだな」


「おっしゃる通りです。AIとの付き合い方は今後も課題になってくるでしょうな」

 為継と話していると常に濃厚な話題になっていく……(笑)。

 僕が自主的に勉強しなくても、為継と会話をするだけで自然と様々なことが学んでいってしまえるんだから凄い知識量だ。


「話を戻しますが、島村はコスモニューロンを導入していませんでしたのでデータベースファイルがクラウドに存在していませんでした。

そこも穴になってしまった要因の一つです」


 現在のところ全人口の8割の人間がコスモニューロンを導入しているが、

 頭に埋め込むのに抵抗感がある人々や反虻利のテロリストの一部は導入することを拒んでいる。    


 島村さんも恐らくは虻利の技術に染まりたくなかったのだろうということは先日の様子からは容易に想像できる。


「クラウド上にアップしたデータから分析して思想調査を陰で行っていることは世間には知られていなくても、僕らの間では常識だからな。

一般人は“自分だけのもの”と勘違いしているのも一部にはいるがね」

 

 愚かにもクラウド上にテロ日時をアップして何も起こせず即日御用になった事件は何年かに1回はいまだに存在しているからな……。


「さて、この一番奥の1021です。

おい、島村。これから“主人“になる虻輝様が来てくださったぞ」


 この特別拘留所は、隣の拘留者が分からないほど隔絶されている。

ここではどんなに助けを呼んでも助けには来られない仕組みのはずだ。


 ただ玲姉を除けば……というところだろう。これぐらいのセキュリティは玲姉ならば普通に突破してくるだろうなと思わせてしまうところがまた我が姉ながら恐ろしい……。

 

 為継の声を聞くと端のほうでうずくまっていた影が突然動き出し、僕たちの目の前まで飛ぶようにしてやってくる。


「この人殺し! 人でなし! こんなこと許されるとは思わないことですね! 私がここで死んでも必ずや天罰が下るでしょう!」


 島村さんは腕を縛られていた。恐らくは電撃の弓を放てないように電気を通さない仕組みだろう。


 だが、そうだと分かっていても恐ろしい剣幕で僕を睨みつけてくるので思わず怯み上がってしまった。


「昨日から誰かが来るたびにこの様子です。

 まぁ、どんなにかかっても1ヶ月もすれば従順になります。

 虻成様がおっしゃるには虻輝様の“自由にしていい“とのことでした。

 親子共に趣味が似られるのですね」

 

 大王のように厭味ったらしくはなく淡々とした口調でそんなことを言ってきた。


「私の体は穢せても、心まで穢せるとは思わないことですね! 絶対に服従しませんから!」


 島村さんはもう鉄格子を吹き飛ばすんじゃないかっていうぐらいの凄い剣幕で僕たちに迫ってきている。

 僕はドンドン腰が引けていっているが、為継眉一つ動かさない。


「……愚かな。我々の実力を知らないのでしょう。丁度良いですな。

 虻輝様にお見せしましょう。どんな風に従順になっていくのかその一端を」

 

 為継が鉄格子の隣にある赤いボタンを押す。するとヘッドギアみたいなものが上から降りてきて強制的に島村さんに被せた。


「な、何をするつもり……!」

 流石の島村さんも不気味なヘッドギアを装着させられて不安を隠せないようだ。


「教えてあげますよ。いかに人の意思が脆いのか。虻利の力がどれほどに強力なのかをね」


 為継が先ほどとは違う青いボタンを押す。


「何をしようと無駄……うあああああああ!!!!!」

 突然島村さんがうめき声を上げ始めた。


「これが洗脳電波です。これを浴びせ続ければ誰もが時期に完全に言うことを聞く奴隷になります」


「くううううう!!!!! こ、こんなことで屈服させられると思うなぁぁぁぁぁ!」

 必死に島村さんはヘッドギアを外そうと体を左右に振って抵抗する。

 僕は唖然としてその様子を見守るしかなかった。


 1,2分経つと洗脳電波が止まったのか、島村さんの叫び声が止まる。

 島村さんは脱力したようなポーズでボーっと立っている。


「この段階でも、ヘッドギアをつけたままでしたら。我々の思うがままにできます。

島村、服を脱ぎなさい」

 

 為継が命令すると島村さんはあっという間に下着姿になった。白い下着姿だった。胸は思ったよりもずっとボリュームがありそうだった。


「わ、私の意思に反してそんな……」


「次にもっと面白いことが起きますよ」

 そう言って小早川は牢の鍵を解除した。


「な、何をするつもりなんだ……」

 あまりに突然な行動に僕も驚いた。まさか鍵を解除するとは……。


「島村、虻輝様に告白しなさい。お慕い申し上げていますと心の底からね」

 すると島村さんは体を僕に摺り寄せてきた。柔らかい胸が僕に密着する。


「お慕い申し上げています。このまま私を抱いてください」

まるで本当に言われているみたいに熱が籠っていた。僕の体も思わず反応しかけた。


 しかし、これまでの経緯からするととてもそんなことがあるはずはない。と理性がそれを吹き飛ばした。


「え……あ……」

 しかし、何を言っていいのか分からず固まりかけたその時だった。彼女の目から涙が零れ始めた。そして口元が動く“助けて”と!


 僕の頭に雷鳴が走る。玲姉の言っていた『全世界を敵に回しても本当に守りたいもの』それが何かこの瞬間分かったのだ!


 それは人の心だ! 虻利家のやっていることは間違っている! 

 世の中は多少なりとも犠牲が必要なことは食物連鎖の上では間違いはない。

 だがしかし、人間が人間たるゆえんである“自由意志”まで奪って良いモノではない! 


「島村さんっ! 戻れええええっ!」

 青いボタンを思い切って押した。まだ島村さんは心を失っていない! 

これで間に合うはずだ!

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