第22話 横の連携の殲滅
大樹と別れた後は、駅まで戻り輝成と合流した。
「虻輝様お疲れ様です」
「輝成もお疲れ」
「景親はしっかり虻輝様をお守りできたか?」
「当たりめぇだろ! 聞いて驚け! 俺は虻輝様の命を救ったのだぞ!」
子供を組み伏せただけと言うのは言わないで置いた方が良いだろうな……。
「えっ!? 半ば冗談のつもりで言ったのですが……やはり治安は悪かったのですか?」
「まぁ、そんなに大げさな話でもねぇぜ。ただガキが虻輝様に突っかかって来たのを俺が取り押さえただけだぜ」
僕が折角隠してあげようとしたのに自己申告するとは律儀な奴だった。
「そうそう、全体的には思ったよりも普通な印象だったね。まぁ、見るからに危険な場所だと特攻局が黙ってはいないだろうけど(笑)」
内藤大樹のことを輝成に大雑把に話した。勿論、僕のeスポーツチームの一員になる可能性も含めてだ。
「なるほど大体のことは分かりました。虻輝様、折角でしたら大樹君がより加入する確率を上げるために。虻輝様のチームの皆さんに話しておいたらいかがでしょうか」
「おっ、輝成。流石気が利いてるねぇ。折角だから忘れないうちに今から皆に会いに行ってくるよ」
大事なことでもすぐに忘れちゃうから覚えているうちに行動しておかないと……。
「少々お待ちを。まずは私の報告をお聞きになってください」
クルリと輝成から背を向けて立ち去ろうとしたところ右肩を掴まれて引き戻された。
「あ……そうだった。輝成の方はどうだったんだ?」
「私の方でも、元EAIの会員からXと思われる人物についての情報がありました。やはり、EAIはXが出てきてから変質しつつあることは間違いないようです」
「ほぉー大樹が適当なことを言っていたわけじゃなかったわけか。疑うつもりは無かったけど自分の父親のことで周りが見えなくなっている可能性があるからね」
「流石は虻輝様。本質を見極められておられますね。捜査においてそういう客観視することは大事です」
「褒められると照れるねぇ~。冷静に分析できないと世界大会でも勝てないからねぇ……。
で、どういう風に変質しつつあるの?」
「はい。分かったこととしてEAIは他の組織との連携も模索しているということです」
「他の組織? 獄門会とか?」
「いえ、獄門会とは流石に接触すらしていないようです。
獄門会と連携することすなわち組織としての“死”を意味しますからね。EAIと似たような組織です。具体名を挙げますと日本宗教連合などです」
日本宗教連合とは第三次世界大戦後にできた組織である。
この組織は凄く簡単に言うと“色々な宗教の協力団体“ということである。各々の大事にしている信仰内容こそ侵害しないものの”信教の自由“の維持のための活動を日夜続けている。
虻利家は宗教を表向きでは弾圧こそしないものの宗教活動に関しては”信用スコアを減少させる行動”に指定しており、さらに宗教法人の活動にも課税が続々と行われているために活動が事実上制限されているに等しい。
そう言った宗教活動の事実上の制限を解除するための互助会団体なのである。
世間ではこれらの政策は新興宗教組織が大幅に減少し、『理不尽な勧誘』などが無くなったことを評価する人間も多い。
しかし、普通の宗教団体も割を食らっており、個々人の内面の感情をもコントロールするつもりなのかと不満を持つ者も多く賛否両論がいつも飛び交っている。
「なるほど、比較的穏健的な組織同士の横の連携をしようとしているわけか」
日本宗教連合に所属している宗教団体の活動のほとんどは“ボランティア活動“になっておりEAIとやっている内容自体は確かに変わらない。なるべく宗教色を無くそうとしつつ発言力の回復を狙っているのだ。
表向きに宗教を信仰する者が減少し、組織の縮小化は避けられないが、それでもEAIよりは参加している人数規模や社会への影響力は大きい。場合によっては1千万人単位の人間を動かせる。
「しかし、これには特攻局や虻利家も感づいており、これらの横の連携を断ち切ろうとしているわけです。その活動の一環がこの特攻局の虻輝様達への要請なのでしょう」
「なるほどね。為継と先程話をしたが、『EAIを潰す以上の狙いがある』という推測だった。そうなると横の繋がりと諸共一気に潰すつもりなのか」
「まだ確証は得られませんが。少なくとも状況証拠は揃いつつあります」
自分がいるとはいえ虻利家のやろうとしていることは恐ろしい……。特攻局も狡猾だ。
まどかと島村さんを使って1千万人規模の人間を“処分“しようとしているかもしれないのだ。
「Ⅹについての目星は付いているのか?」
「それが……為継や特攻局からも情報を得て分析をしているのですが、どうにも名前が挙がってこないのです」
「何でそんなことがあるんだ……」
「上手く立ち回っているのかもしれません。こうなると外部の我々ではお手上げかもしれません。警察が直接手を入れることはさすがに禁じ手だと思いますので」
「警察が直接捜査したら何のための潜入捜査なのかわからないからな……」
具体的に何か違法行為があるのならば別だが具体的な違法行為など悪事を働いているわけではないのだ。
でっちあげることもできるかもしれないがなるべく事を荒立てたくはなかった。
「また、特攻局が真の狙いを隠すために我々に全ての情報を出していない可能性もあります。上手いこと我々も活用しようとしているのです」
「なるほどね……。ちょっと理論が跳躍しすぎかもしれないけど、最悪の事態は想定しておかないといけないな……。そのうえで何ができるか考えないと」
世界大会でも優勢の時や不透明な時は負け筋など最悪の事態を想定しなければいけない時がある。今不透明な時だから最悪な事態を想定しなければいけない。
「最悪の事態と言えば、潜入捜査をしている2人にも危機が迫る場面があるかもしれませんね」
「EAIがどうなるかについて正直あまり興味はないが、まどかや島村さんの行動が気になるな。あの2人に何か問題があれば玲姉が黙っていない」
「玲子さんをあの2人はかなり慕っているようでしたからね。その気持ちは分かります」
「ああ、玲姉が“本気でキレた”らマジで『戦争』になるからな」
「対峙した俺が言うんだから間違いねぇ。アイツはやべぇぞ……」
景親は思い出しただけで恐怖が思い起こされたのか震え始めた……。
「とりあえず、最悪の事態にならないためにも今日にでも島村さんに提案してみるよ。『EAIが危ないから協力しよう』と」
島村さんと話すだけで嫌だけどね……ここ最近まともに会話していないから尚更怖い……。
「それがよろしいでしょうね。明日のことは島村さん達を説得できるか否かで方針が変わって来そうですね?」
「そうなりそうだね。それじゃ、僕たちはチームABUTERUのメンバーに大樹のことを紹介してくるよ」
「ええ、ご連絡お待ちしております。色々なことが良い結果になるように祈っていますよ」
こうして、本社近く前の自チームスタジオに行くことにした。
島村さんと会話をすることや日本宗教連合すら危なくなるのではないか? と思うだけで憂鬱になるが、とりあえずは久しぶりにチームのメンバーに会えると思うだけで一時の安らぎになるかもしれないと思った。




