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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第4章 反成果主義

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第21話 仕事紹介

 為継との会話が終わった後は大樹の元に向かった。どういう仕事が出来そうかを聞き出すためだ。炊き出しを受け取り、川沿いで昼食を取っている姿が見つかった。


「やぁ、味はどうだい?」


「大量生産品の上に誰かの食べ残しでそんなに美味しくはないよ」


 大樹が食べているのはうどんみたいだった。雰囲気的に処分寸前のコンビニに使われていたモノに火を通し直したみたいな感じがした。

 

 最近では賞味期限が切れそうな商品を集め、炊き出し要員や高齢者施設に配るシステムが飲食店やコンビニで搭載されており食品ロスを極限まで減らそうという取り組みが行われている。

 こういった優秀な管理システムは虻利家や科学技術局の功績と言える。


「ふぅん。確かに見た目はコンビニで売っていそうな奴だな」


「へぇ、アンタもコンビニ弁当なんて食べるんだ。てっきり、毎日毎食高級料理のフルコースなのかと思ったよ」


「あぁ、僕は結構味には無頓着だからね(笑)。コンビニ弁当でも良いのさ。とりあえずカロリーさえ取れれば良いと思ってるんでね」


 これを玲姉の前で言ったらブッ飛ばされそうではあるが……。質が大事なのよ質が! と力説される図がすぐさま浮かんだ。


「へぇ、意外だな」


 大樹の横に自然と座った。大樹は逃げるわけでも無く、ごく自然に会話もできているので良かった。


「それでさっき言い忘れたんだけどさ、仕事の適性が分からないと斡旋しようがないことに気づいたんだよね。何か得意なことってある?」


「んー、仕事にできるほど得意なことは特にないかな」


「そうか。なら言い方を変えようか。長時間、何日もやっていても苦痛になら無さそうなことって何かないか?」


 正直、得意なことよりもこっちの方が仕事をやって行く上では大事になってくる。

 得意だとそれまで思っていたことでも毎日やって行くうちに飽きてきてしまったり、他の人間にペースを乱されたりしてしまうと仕事にならなかったりするからだ。


 その点僕はプロゲーマーは天職と言える。暇な時間すかさずやるし、全く飽きが来る気配がない。そしてお金にもなる。ただ、普通の人はここまで自分に合った仕事に出会えるとは限らない。


 そのためにどこかで仕事は妥協しておかなくてはいけない。


「長時間、何日もかぁ……皆で協力して何かを成し遂げるとか結構好きかな。中学校の時とか文化祭の実行委員会に入って楽しかったのを覚えているし」


 先程も学校に行きたいと言っていたこともそうだが僕とは違う人種だというのが分かる。僕は一人で淡々とゲームをしていくのが得意だから(笑)。

しかし、逆を言うと比較的潰しが効くような気がする。僕はゲームを取り上げられたら一巻の終わりだから……。


「なるほどね。大樹が良ければだけど、僕のeスポーツチームABUTERUで働かないか? ちょっと人員が足りてないんだよね。最初は雑用ばかりだと思うけど、動画作成・編集とか皆で成し遂げた感じになると思うよ」


とりあえず僕の管理下に近いところに置いておくことが出来れば悪いようにはならないと思うからな。最初は僕のチームメンバーが教育していってゆくゆくは動画編集もできれば良いと思う。


「へぇ~。ちょっと興味あるかも。っていうか、そういやアンタって世界的なゲームプレイヤーだったよな。オーラ無さ過ぎてつい忘れちゃってたよ」

 

あまりにも失礼な言われようだが、サブプランについては特に考えていなかったから良かった。


「最近言われ慣れてるけど、お前も酷いなっ! お給料だけど、まぁ最初は研修ということで月30万円ぐらい。技術が上がって行ってくれれば50万円、60万円となっていくだろうね」


「えっ! そんなに貰えるの!?」


 特に高い金額を言ったわけでは無かったが、コスモニューロンを導入していない信用スコアだとこれぐらいの金額でも膨大な金額なんだろうな……。

 国内の資産を守るために物価と共に給料も徐々に上昇しており共に年3%前後上昇している。それでも普通の人なら贅沢をしなければ満足に暮らしていける額であることには違いないか。


虻利ホールディングスだと月収150万、年収2000万とか普通にいるからそれに比べたら全然低い。まぁ、上を見続けたら行きつく先はご隠居になっちゃうから比べるのが虚しくなるだけだけど(笑)。


「まぁ、ちゃんと仕事をこなしてくれればね。ただ、学生のうちはフルタイムでは働けないだろうから現実的にはこの半分ぐらいになっちゃうだろうけどね。

結果さえ出してくれれば働く時間数はあまり関係ないけど最初のうちは時間をかけないと厳しいだろうから」


「そうなんだ。でも、そんな金をポンと出せるなんてやっぱり虻利家って金持ちなんだなぁ」


 金の話になると皆目を輝かせる。金持ちとかそういう次元ではなく世界の通貨発行権を握っている虻利家はそれだけ人々の生活や心を握っているだけ強大とも言える。自分の発言の意味に気づいて恐ろしさを感じた……。


「善は急げだ。仲間に話をつけたらすぐに面接の用意をしてあげよう。

 ちなみに住所はどこか登録されている? 場所が分からないとコスモニューロンが無いから流石に何も送れない」


 郵便はすっかり廃れてしまったが、公的文章などの通達には依然として使われている。また、郵便局やポストは減少したが、自動運転の飛行自動車や配送用ロボットの活躍もありスピード感は思ったよりかは変わっていない。


 もっともそもそも一般人が生きているうちに郵便を書くなどということは無くなってしまっているので郵便局が減少しても不便感も無いだろう。AIがポスト投函されたと検知した時しか回収に行かない。これも虻利家の推進した合理化の流れである。


「えっと、ここにお願い」


 大樹が住所をサラサラと書く。中々にうまい字だ。僕は小学生以来字を書いた記憶も薄く最早最低限の“ミミズ文字“しか書けないが、周りの人間に書かせてみてもきっとその程度だと思う――そうだよね?(笑)。

 ここのコミュニティでは先ほどの大里さんもそうだが手書きで字を書けなければ暮らすことも厳しいのだろう。

 

コスモニューロンがあれば何でもできるが“人間としての何か”が失われていっているのかもしれないなと思った。


「分かった。ここに合否通知を送ろう。あと、EAIの人についてお父さん以外で知っている知り合いやご親戚の方はもっといないかな? もし知っていたら教えて欲しいんだけど」


「俺の身近にはいないかなぁ。ただ、この川を下って東京都に入るとまたここみたいなちょっとした集落があるからそこには俺たちのような家族がいると思うよ」


 会話などいろいろやり取りをしているうちに時刻は16時を回っているので明日に回した方がいいだろう。今日の残りは輝成と連絡して、情報交換をした方がいいだろう。


「最後に注意して欲しいのは僕は大樹を採用してやりたいが、他にも僕のチームには仲間がいる。彼らの同意が得られなければ採用が難しいということを覚悟して欲しい。勿論できるだけのサポートはさせてもらうけどね」


「例えばどんなサポートをしてくれるの?」


「そうだね。簡単な面接を受けることになるだろうから、どういうことを聞かれそうとかの問答集。あとは当日はスーツで来てもらうことになるだろうから、そのスーツやバッグなどのフォーマルな服や靴など一式。もっとも、採用されてからは今の僕みたいな適当な服で良いけど(笑)」


 ちなみに今日の僕の服は玲姉が仕立ててくれた服ではなく適当にそこらへんに安売りされている服である。僕も久しぶりに面接のためにまともなスーツ用意するか……。


「そ、そこまでやってくれるんだ……」


「そう。逆にこれで採用されなかったら『お前の自己責任』という逆を言えば冷たさもあるよ」


「が、ガンバリマス……」


 あ、つい思ったことを口にしちゃったけど妙に緊張して委縮されるのも困るな……。


「ただ、上手くいかないこともあるからね。もし、失敗しても別の就職先を見つけてあげるよ。勿論僕直轄ではないから給料についてはあまり保証することはできないけどね」


「こんなにしてくれるなら普通の人にもそうやって欲しいよ……」


「いや、ホント僕もそう思うけど、虻利家のシステムはそうなってないからな……僕の手の届くところでしか助けてあげられないのは僕ももどかしい」


 表では言えないが虻利家は“何も考えずに言うことを聞いてくれる人間”を量産しようとしている。

 自由や成果重視を表では掲げながらも、特に信用スコアが低い人間に生きがいだの遣り甲斐だの与えて活き活きと暮らされては困るのである。更なる間違いを犯して、人体実験の道具になるのを待っているのだから……。


「でも、アンタなら何かこの日本や世界を変えてくれそうな気がする。期待してるよ」


「何とか、期待に応えられるようにしたいねぇ……。でも、僕は所詮ゲーマーだからねぇ~」


「でもさ、そういう割にはこうして現地まで来ているわけでしょ? 何でわざわざ出向いているのさ?」


「のっぴきならない事情があってだね……僕の積極的な意志ではないことだけは間違いない。ただ、このように世間の現状や状況を知ることが出来て予想以上に収穫はあるね」


「まぁ、ゲーマーも生涯出来る職業じゃないんだし、将来のことを考えたらこういう活動している方が良いんじゃないの?」


「知ったような口を聞いちゃってぇ! コイツぅ!」


「イテテテテ!」


 僕は大樹のこめかみを軽くグリグリ攻撃してやった。


 しかし、長い目で見れば大樹の言う通りプロゲーマーは生涯出来る仕事ではない。

解説などの仕事はできるかもしれないが、絶対に自分でプレイしていたほうが楽しいに決まっている。

 引退=廃人と言う未来すら容易に想像できた。


 こうなると最初に玲姉がこの万屋を提案してきた時点で実は裏ではそう言うことまで考えているのかもしれない。やはり見えている領域が違う……。


「それじゃ、早速だけど明後日の昼にも迎えに行くよ。着替える場所などを用意しておくから、大樹が準備するのは心の部分だけだね」


 大樹の頭への攻撃を辞めてまともに正面に向きなおった。


「わ、分かった……やってみせる」


 言葉は不安そうだったが、目はしっかりと前を見据えていた。やはり今の生活から脱却したい――その一心なのだろう。


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