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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第4章 反成果主義

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第15話 最新鋭の“聞き込み“

2055年(恒平9年)11月5日土曜日


 時刻は午前9時、墨田区のとある駅前にやってきた。少し雲が多めの天気でスッキリしない。


 島村さんとまどかの動向は気になるが、それとは関係なく本日も景親と輝成と聞き込みをしなければいけない。


 昨日と同じことをしていてはお話にならないので、まずは輝成と合流しなければならない。

 輝成は捜査のプロだから何か昨日のうちに何か作戦を考えてくれている――と期待したいところだ。玲姉から今朝貰った弁当を鞄に入れてEAI本部に一番近い駅に向かう。とりあえずはこの弁当を美味しく食べられる状況で昼を迎えることが当面の目標だ。


「今日も聞き込みを一軒一軒やって行かなければいけないのかな……」


「流石に気が滅入りますな。ホント、生産性の無い会話が目の前で展開されているかと思うと俺も辛いです……。もっとこう、ガッと言う感じで大きく展開が動きませんかねぇ!」


 景親は抽象的な表現だが言いたいことは分かった。まぁ、僕の場合はこうして暇な時間はレーティング戦を永遠とやれるので別に何も問題は無いが、成果が出ないのは問題だ。


「何とかならんのかね。かと言ってサボれば玲姉から怒られそうだしなぁ……。あ、輝成が来たな」


 とにかく背が高いから景親と輝成は目立つからな。遠くから輝成の方も僕たちを見つけたようで走ってきた。


「遅れて申し訳ありません」


「いや、時間前だから安心して。それより今日のスケジュールはどうしようか? どの地区を担当しようか」


「その必要はありませんよ。もう昨日のうちに大まかな調査は済ませておきました」


「えっ……どういうこと……」


「警察の調査は真偽測定も搭載した意識調査形式での質問を行っています。早く回答すれば信用スコアを獲得できることを背景にかなりの回答・回収率も誇っています。

この形式の回答方法は、一軒一軒を回っていく訪問形式の聞き込み調査と変わらないどころか真実に近いと言った研究データも存在しています」


 その手の聞き込み調査を受けたことが無かったが、そこまで進歩していたか……。


「おぉ~! 最新の警察はそこまで効率化を行えるというのか……正直、昨日のような聞き込みをまたしなくてはいけないかと思うと気が滅入っていたところだった。これで大幅に仕事時間を短縮できそうだな」


 最近では警備ロボットや監視システムの充実から警察官がかなり減ってきたという話も聞いていたが、こう言った技術のサポートもあるから効率がかなり上がっているのだろうな。

 また特攻局が別の方面で取り締まりをしているのも影響していそうだ。……輝成はそんな中順調に警察内で地位を築いているのを見ると、やはり見た目やこれまでの印象通り極めて優秀な人材なのだろう。


「また、真偽測定によって信頼性が低い回答を行った家庭においては特別に個別訪問と言った形を取っています。これにより訪問する軒数を減らし、効率化を図っているという訳です」


「確かにそれだとクオリティが高く、尚且つ捜査も劇的に早く終わりそうだな」


「それで、輝成。結局のところどういった調査結果が出たんだ? そこが一番重要なんだが!」


「景親、焦るな。昨日虻輝様がおっしゃっていたように、EAI本部付近の住宅街の印象はほとんどはEAIに対して好印象を持っているようだった。地域のボランティア活動に対して好印象だということだった」


「ここまで効率的なデータが取れるとなると、もはや聞き込み調査など無意味に近いモノになってくるな……質問形式と言うことだから質問内容を決める所が一番重要になりそうだな」


「確かに質問内容が一番重要になってきますが、それについてはプロの我々が行いましたので心配ご無用です。それよりももっと重要なことがあります」


「えっ、それより重要な内容って――う~ん、見当もつかないな」


「コスモニューロンを導入していない人間に対してはそもそもこの形式の意識調査アンケートを行うことが出来ないのです。そもそもデータの送受信ができませんから」


「あっ、当たり前のことだけど確かにそうだ。と言うことは今日実地調査をするのはコスモニューロンを導入していない地域に潜入と言うことになるのか」


「ええ、そうなります。私は引き続き、EAIに近い地域でコスモニューロンを入れている地域については意識調査形式のアンケートで調査を進めていきたいと思います。

また、意識調査の真偽判定の正しい割合が低い人間に関して私が直接訪問していこうと思います」


「なるほど、警察の意識調査なのだから警察の人間が訪問するのは当然のことだな。それでコスモニューロンを導入していない人々が集中している地域はどこらへんだ? 場所が分かれば僕と景親がそこを巡って行ければいいと思う」


「今、私が目星をつけた候補地のデータをお渡ししますね」


 輝成がデータで地図を送ってくれた。色付けがされており、一目瞭然で僕が行くべき場所が分かった。


「なるほど……結構、治安が悪いことで有名な地域だな」


「基本的にはコスモニューロンを導入していない人々は、社会生活とは隔絶された人間が多いですからね。特に集中している地域となれば尚更です。”普通は”生産性が下がり生活に支障が出るので信用スコアが低い人間になりやすいのです」


 勿論コスモニューロンを導入せずとも能力が高く、仕事やスキルが高い人間は存在はするだろうが極少数だろう。


 しかし、その極少数はウチに3人もいる(笑)。特に玲姉は早くヒト科から別分類にした方がいいだろう――あっ、そんなこと考えていることを知られたら僕が『消される』(笑)。   北条もそれらを考慮に入れた上での“普通は”という発言なのだろう(笑)。


「へぇ、ちなみにどういう質問項目でこの色で塗られた地域は判別したの?」


「EAIに対して反感を抱いている人々はどこにいそうか? という問いを任意回答枠として作ったのですが、その回答で多く回答されたのがその東京都と埼玉県の県境の辺りでした」


「なるほどな。ふぅむ、そうなってくるとこの辺りの地域にはEAIに今所属している人間か、または過去に所属していた人間がいてもおかしくは無さそうだな。ところで昨日は聞きそびれたが、輝成はEAIについてどう考える?」


「そうですね。周辺の地域住民のアンケートの回答内容を見ていてもそれほど危険な勢力とは思いませんが、今後の内容次第というところでしょう。そもそも、特攻局が目を付けているぐらいですから、全く無害な存在とは思いませんね」


「なるほど、僕も輝成とほとんど同じ考えだ。ただ一つ気になる点があるとするなら昨日、潜入捜査をしている島村さんとまどかの報告が、“何かを隠している”ような気がしたということだ」


「そうなのですか?」


「うん、これはまどかが結構長く暮らしてきているから“身内のカン”に近いモノがあるんだがね。明確な根拠があると言うものでは無いんだが(笑)」


「いやしかし、そういうカンみたいなものは当たりますからな。コスモニューロンでの捜査に行き詰って未解決事件になりそうになったときもそういうセンを頼りにすることは未だにあります。

……あの島村と言う娘は為継から情報を頂いておりますが、虻利家に憎悪を相当抱いているようですからね。虻輝様に対して真実を伝えるとは限らないというのは分からなくもないです」


 島村さんと2人で活動している時ほどリアルな悪夢を感じたことは無かった……。視線だけで僕が殺され兼ねないと思ったからな……。


「僕も全く同じ考えなんだよ。まぁ、島村さんの家族を死なせてしまったのは僕の父上のせいだから仕方ないんだけどねぇ。また、まどかは島村さんと仲が良いし、共謀している可能性がある。そうなると、EAIと言う組織は何かしら虻利家や特攻局に対して何か不都合があるのかもしれない」


「確かにそうかもしれませんな。では、その点も留意しつつ捜査に入りましょう。景親、虻輝様をしっかりとお守りするのだぞ。今日のところは流石に少し危ない地域だからな」


「おう! 任せとけ! 流石に昨日は何も無さ過ぎて退屈していたからな! 緊張感があるぐらいが丁度いいぜっ!」


 景親の唾が顔まで飛んできた。物凄い意気込みがあるのは良いことだが、僕が目の前にいることを考慮して欲しい……。


「何とも頼もしい限りだな」


 僕は玲姉から家を出る直前に受け取ったハンカチを取り出して顔を拭いた。この景親の意気込みが空回りしなければいいがな……。輝成も苦笑しながら同じようなことが顔に書いてある。まぁ、昨日みたいに何も無いよりかは遥かにいいと思うけどな……。


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