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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第4章 反成果主義

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第11話 ユダヤのサンヘドリン

 とにかくその後も聞き込みをしまくって18時に家に到着した。何だか成果があったのか無かったのかよくわからない1日だった。


 途中から半ば筋肉痛で足が動かなくなりかけた。何せヴァーチャリストに閉じ込められて2日間全く動けなかったわけだからな……。


 まぁしかし、一つこの活動で良かったことと言えば島村さんと一緒に回らずに済んだということだ。この万屋を始めて以来、ずっと敵視の視線を浴びせられながら仕事をこなすというのはまさに地獄そのものだったからな……。だが、虻利から監視されているという人たちもきっとこんな気持ちなのだろうと思い我慢はしていたけど……。


「虻輝様、お疲れさまでした。何だか、イマイチな1日でしたな」


 帰り道の車の中で率直な感想を景親が言った。景親はほとんど外で待っていただけだからかなり元気そうではあるが、それにしても周りを警戒しているだけで神経は使ったことだろう。


「うーん、とにかく僕たちが思っていたような収穫は何一つなかったからね。みーんな同じように町の活動に参加しているだの、ボランティアしているだのそんな同じような話ばかり聞かされていい加減飽きてきた」


 後半は笑顔で立っていることすら辛かった。元から他人を前に話すことにあんまり慣れていないからな……。


「まるで、口裏を合わせているかのようでしたな」


「まぁ、地域の人々に対しては良い一面しか見せていないのだろうな。それは組織の運営としては適切な動き方のように思える。

 何も聞き込みで出てこないと言うことは本来なら良い事なんだろうけどね。言い難い事ではあるが何か違和感を覚えざるを得ないね。

 これは単純に僕がひねくれているだけなのかもしれないけど(笑)」


「俺も全く同じことを思いますぜ。妙に上手いこと埃が出ないように立ち回っているというか……口裏を合わせているわけじゃなさそうなところが逆に怖いですな」


 景親もちょっと外れた道を進んできている。僕と同じような感覚を持っていてくれたことは嬉しかった。


「古代ユダヤのサンヘドリンと言う最高裁では71人の裁判官全員が有罪とした場合は”逆に無罪にする“という規定があるらしいね。誰一人反対意見を出さないという状況は”異常“だと判断されるらしい。

今回の聞き込みではそれの真逆の状況のような気がする。

 周りに住んでいる全員が良いイメージしかないと言うことは“逆に何かある“のではないかと思ってしまうわけだ」


「流石虻輝様! 雑学にもお詳しいのですな!」


「う、うん……」


 なお、この話は為継から聞いたのを覚えているだけの模様(笑)。

 そうだ、折角だから為継にも聞いてみよう。


 僕は今日起こったことと、妙に良い印象過ぎて違和感があることを伝えた。


「ふぅむ。私はその場にいませんでしたし、何とも言えませんな。

 ただ、一つ言えることがあるとするのなら、特攻局の依頼である以上は“何かしら意図がある”と見て良いでしょう。

 そうなると、EAIを何か罪状をでっちあげて潰そうとしているという虻輝様のお考えは必ずしも当たらずとも遠からずと言うことろでしょうな」


「どうして当たっていないんだ?」


「というのも。でっちあげるだけでしたら捏造で何とでもなるわけです。特攻局の方が上ですから。

しかし、何かしら他に意図があるのでそれを実行していないと言うことです。

 何かしらの情報を得るために泳がせているのかもしれません」


 まぁ、捏造はかつての僕や今の為継がやっているわけだが、確かにいつでもできる手段だと言える。


「なるほど……ありがとう。また何か分かったら連絡するから」


「ええ、いつでも何なりとご相談ください」


 そんな雑談をしていると僕の家が見えてきた。

 釈然としない状況は続いている。分かったことがあるとするなら特攻局もEAIも信用ならないと言うことだ。


「ただいまー!」


 こうしてリアルな世界とはいえ無事に自宅に帰って来ることができたのは非常に良かった。

 昨日まではバーチャルな世界から自宅に戻ることができなかったからな……。



 夕食は牛肉のソテーだった。烏丸が作ったらしい。野菜もとても新鮮でとても美味しかった。

 僕たちは夕食の後、まどかや島村さんとも意見交換をした。


「――ということで、EAIは簡単に言えばコスモニューロンを体に入れていない人達の互助会みたいなものでした

 ボランティア活動なども盛んのようで、地域に多大な貢献をしているようです」


 しかし、島村さんの報告も周辺住民と同様にあまり生産性の無い事を話していた。どうも聞くところによると地域との共生を目標に活動してきたという。

 これもユダヤのサンヘドリンのように全員が同じことを言っている時は逆に怪しい。


「(ふーん、何だか掴み所が無い感じだな)」


 どうにも淡々としている島村さんの報告には奥歯に何か詰まったような違和感を覚えた。別に島村さんの報告そのものには問題は感じなかったのだが、僕の隣に座っているまどかの表情を盗み見すると、何だかいつもより頬は強張り、表情が冴えなさすぎた。

このまどかの表情は“嘘を吐いているのを誤魔化している”そういう時にするような表情だからだ。


 この毒にも薬にもならない島村さんの報告は総合的に分析してみると“何か重大なことを抜いている”そう言った印象を受けざるを得ないのだ。


「おい、まどか。今の報告は本当なのか? 随分と表情が強張っているが?」


 正直島村さんを追求しても言い逃れされそうな気がする。ここは、押せば突破できそうなまどかに正面から聞いてみた。


「えっ……特に知美ちゃんの報告以外ないけど……」


「本当かぁ? 何か隠しているんじゃないだろうなぁ?」


 僕はまどかのよく伸びる頬っぺたを引っ張る。最近またよく伸びるようになったような……。


「ひょっろ! ほっへはひっはんないへよ~! (ちょっと! 頬っぺた引っ張んないでよ~!)」


 しかし、絶対に言わないもん! と顔に書いてある。こんなに分かりやすい奴もそうそういないが、何か言えばボロが出る自覚があるのだろう。ある意味賢明な判断だった。


「もぅ、まどかちゃんをイジメないのっ!」


「ゲフシッ!」


 唐突に玲姉にはたかれて僕は椅子から転げ落ちた。お尻を打ったがちょっとした衝撃で済んだ……。


こ……これ以上の追及はでき無さそうだが、今の反応を見ても“限りなく黒に近いグレー”そういう感じだ。

まぁ、しかしまどかと島村さんは思った通りかなり仲が良いみたいだしこれ以上詮索しても無駄かな。この瞬間で追及しても無駄に争いを生んで玲姉に更にボコボコにされるだけだろう(笑)。


「ちなみに輝君たちの方はどうだったの?」


「ところが、僕の方の聞き込みでも同じような感じだったんだよ。EAIは地域・社会貢献活動をしていると評判がやけに良かった」


 改めて口にしてみると何かしら不気味なものを感じる。“何か”が背後に蠢いているのではないかと。それも僕にとってとても良くないことが起きるのだと……。


「同じなら良いじゃん! 何が不満だって言うのさ!」


 まどかぁ、オマエはアホだから分らんのだろうな。この違和感が! と言いたくなったがさらに玲姉に突き飛ばされそうなので言わないでおいた……。


 僕と島村さんの両方の思考を読みとっている筈の玲姉はどういう判断をしているんだろう――だが、表情を見ても何も分からない。聞いてもきっとはぐらかされるだけだろう。


 となると僕の中だけで判断しなくてはいけない。

 ただ、僕の感覚から言わせてもらうと“あの組織にはこの2人が隠さなければならない何かがある”ということだけは分かった。

 聞き込みの時の違和感が少し確信に近づいた。


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