第10話 内部破壊工作?
まどかちゃんからの借りた慰安旅行アルバムより前に、私が先ほどから手にしているこの冊子は、結構詳細にこの会についての情報が書かれています。
この15年の歴史が200ページぐらいになっていまして、とても有意義なものがあります。次に注目していったのはこの会が急成長していったターニングポイントとなった事件でした。
「なるほど……わずか3年前、科学技術局の人が意見を違えて退官し、この組織に入ったのですね……」
それまでは会員が12年で20人から200人までしか増えていなかったのがそこから急成長し、3年間で一気に3000人の今の規模まで増えたとのことでした。
これが虻利家の事実上の介入なのかそれともそうでないのかが分かりません。
「この……赤井綱利という人物。この人が気になりますね」
赤井という人物は、経歴を拝見すると科学技術庁から退官してEAIに加入し、現在でも若干25歳。しかし、EAIの最高顧問のポストに就いており、かなり注目すべき人物です。この人の意見や意図を聞くことができれば聞いてみましょう……正直に話してくれるとは限りませんがね。
「まどかちゃん。この人物について何か知っていることはありませんか?」
この赤井という人物が怪しいのではないかという話を共有しました。
「赤井……そういえば、虻利家の親戚でそういう名前の人がいたような……」
「ほ、本当ですか! それは凄い情報です!」
「う、うん。でも“虻利“に比べるとそこまで珍しい苗字じゃないから参考程度だね」
まどかちゃんは私が飛びつくと引いてしまいました。少し勢いが付き過ぎたかもしれません……。
「ええ……ですが、もしかするとこれは私の考えすぎかもしれませんが、この人が関係者だとするのなら、すでにEAI虻利家の手が回っている可能性がありますね」
「どんな風に手が回ってると思うの?」
「EAIは今のところボランティア団体に近いものがあります。このような一見安全そうな団体を刺激し、虻利家を刺激する方策を取るのです。それで一気に危険分子を炙り出し、人体実験要員を増やす計画なのかもしれません。
表向きは“会の発展ため”と言うお題目ですから、反対する声も少ないのです。
先程の投票でも私が思ったよりも賛成票が多かったですし、反対する人たちは脱会しても良いとまで言っていましたからね」
「そうなると、虻利家っていうのはエゲツないね……」
反対勢力は脱会させてしまえばさらに独裁色は強くなっていくでしょう。思いのままに操ることも可能に……。
「虻利家と特攻局と挟み撃ちという可能性があるとなると私達はもしかするとかなり危ないかもしれません」
「と、ということは……EAIの反乱分子を炙り出しつつあたし達を逮捕しようってことなの?」
「まだ仮説の域は出ませんのですが最悪のことを想定するとそうなりますね。そこは注意しましょう。でも虻利家というのは本当にそういうことをやりかねないんです」
いつも明るいまどかちゃんが暗い顔をしています。あんまり自分が今いる家を悪く言うのはあまり良く無いですよね……。
「す、済みません。配慮が足りませんでした。全ては私の妄想ですから、全く外れている可能性もあります。忘れて下さい」
本当にただの妄想で済めばいいのですが、こういった悪い予感は当たりがちではあるんですよね……。
「い、いいんだよ。色々悪いことをしているのは事実だしね」
気まずい雰囲気になったところで加藤さんがやって来ました。もうすぐ17時になろうという時刻に気が付けばなっていました。まどかちゃんと2人で出した資料を元に戻していたところでした。
「どうだい? 何か見つかったかな?」
「ええ、とても有意義な活動をされていることが分かりました」
「それは良かった。これからコスモニューロンから人々を解放するために頑張っていこうじゃない。早速明日からよろしくお願いするよ」
「はい」
加藤さんは果たして気づいているのでしょうか。虻利家の影が忍び寄っているかもしれないということを……。
やっぱり、私がしっかりしないと3000人の会員とその家族の命が危ないと思います。
そんなことを考えながら私達はEAI本部から帰路につきました。
「まどかちゃん。今日のことは他の皆には言わないようにしてください。言っても玲子さんまでです」
ふと、思ったことを口にしました。
「え、どうしてさ?」
「玲子さん以外の人は、やっぱり“虻利家の人間”ですから。安心できません」
「うーん、お兄ちゃんはそんな人じゃないと思うけどなぁ……でも分かったよ。約束だね」
もしも話すことがあってもその時は大勢が決まった時でしょう。あの人は思ったよりは悪くないにしろ、『虻利家の人間』であることは間違いないです。玲子さんやまどかちゃんに色々ご教授頂いてもまだ抵抗感がまだあります。
玲子さんやまどかちゃんが騙されているのかそれとも私が疑い過ぎなのか……その結果はいずれ分かることになるでしょう。
「その……一歩新しい道を踏み出さなくてはいけないというのは玲子さんからも何度も言われて分かっているんです。でも指摘されたり、自分の中で分かっていても自分の中でセーブがかかっていてできないことってありませんか?」
「あるね~。あたしが料理がヘタなのもレシピ通りになかなかできないからだしね~。お姉ちゃんに何度も言われているけどできないんだよね~」
「私も料理については似たような感じです……なんだか突然“カン“みたいなものに頼りたくなるんですよね……。そうしちゃいけないことは分かっているんですが……」
「でも、きっとある時から許せるようになると思うけどなぁ。お兄ちゃんは何だか掴み所が無いときが多いけど、本当は優しいし」
「……そうですかね」
虻利家は“良い顔“を見せておいて後で自分のやりたい”本性“を強引に通してくる戦法を取ってくることが多いです。虻輝という人物もいつ”本性”を見せてくるか分からないと思います。
「……虻利家はお兄ちゃんなら変えられる。あたしはそう信じているから。
誰にもできないことをお兄ちゃんならできると思うんだ」
「……そうですか」
でも、ここはまどかちゃんがいる建前納得している雰囲気を出しておかないとダメですね。私が疑い過ぎなのか虻輝が裏切るのかどちらにしても心が痛む瞬間ではあります。
そのあとはファッションや使っている化粧水の話などをしながら盛り上がりながら帰りました。




