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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第4章 反成果主義

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第9話 独自調査

 私たちは会場の皆さんをようやく見送りきりました……。笑顔で頭を下げなくてはいけないのでかなり負担があります……。

 パイプ椅子に座って一息ついてウォーターサーバーの水を飲みました。全身に水分が行渡り生き返ったような気分になります……。


 しかし、加藤さんが私たちの元に近づいてきたので勢いよく立ち上がりました。


「お二人はまだお時間は大丈夫ですか? 後片付けの手伝いと、少し今回のプロジェクトについて話があるので残っていただきたいのですが」


「勿論です、分かりました」


 加藤さんの提案には願ったりかなったりです。私も具体的に何をしようとしているのか気になるので是非とも聞きたいところです。


 ステージの後片付けに私たちも協力しました。私達は本当なら重い物も軽々運べますが、女性だと言うことで細かい作業を担当させられました――こっちの方が本当はあまり得意では無いのですけれども。

それが終わると、私達は奥の部屋で話し合うことになりました。


「今日入ったばかりだというのにこんなことに巻き込んでしまって悪いね」


 加藤さんは他の人がいないところになると気軽な口調になりました。何となく、最初から思っていましたが女性に対する扱いが慣れているような気も……。


「いえ、私たちの未来のためでもありますからお気になさらないで下さい」


「それでもそれだけの覚悟があるだけ素晴らしいと思うよ。未来の可能性だけあって何も行動を起こさない人というのがほとんどだからね」


「実際のところは、問題に感じていても見てみぬふりをしている人がほとんどだと思うよねぇ~。少しでも問題に思うのなら立ち上がって欲しいよね~」


 まどかちゃんがそんなことを言いました。そうです。私達は動くことによって最終的には犠牲になってしまうかもしれませんが、少なくとも座して死を待つつもりはありません。

 ですが、あまり力が無さそうなEAIの人達を犠牲には出来ません……。


「私たちが変えることができなくても、何か変わるきっかけぐらいを作れればと思います。少なくとも今生きている人たちが行動しなければ未来が変わる可能性はありません」


「君たちは心の中まで素晴らしい麗しき女性たちだ。そこで、具体的には今回のプロジェクトとして広報担当として世間に広めてくれはしないだろうか? 動画撮影を行いコスモニューロンの危険性を伝えて欲しい」


「動画の内容の台本や撮影の用具、そして動画編集などはどうされるのですか?」


「無論こちらで全て行おう。そこまでの負担はさせられない。具体的な撮影は明日から頼めるかな?」


 私動画とか撮影された経験は全くないので、大丈夫なのか不安にはなりますけど……やるしかないですね……。


「大丈夫です。あの……この会に加入したばかりなのでこんなことを申し上げてはいけないかもしれないのですが、このEAIの歴史というか資料室みたいなのを見せて頂けないでしょうか?」


 少し加藤さんは考えましたが。やがて笑顔になりました。


「構わないよ。僕達にはやましいところは無いからね」


「ありがとうございます」


 駄目で元々で聞いてみましたがまさかの快諾を頂いたみたいで良かったです。加藤さんから見たEAIは少なくとも組織にやましいところは無いように思います。もっとも、資料室に全てがあるとも思わないですけどね。


「さ、資料室はこっちだよ」


 初日から目的が達成できてしまうかもしれませんが、こういうのは“流れ“というものがありますからね。行けそうな雰囲気なときにやってみるものです。

 チャンスと言うのはそうそうやってくるものではありませんからね……。


「あ! あたしも行く~どういう組織なのか知りたいしね~」


 まどかちゃんもぴょんぴょんとスキップをしながら私の後ろについてきています。


 資料室は分厚いドアで湿気の対策もしており、結構乾燥していそうでした。ちょっと前に近くの自動販売機で水を買っておいたのは正解でした。


「あまり長い時間は貸してあげられないけど1時間ぐらいなら自由に見てもらって構わないよ。17時ぐらいには戻るからね。それじゃあ」


 そう言って加藤さんは手を振りながら立ち去りました。

倉庫は結構広くて、30畳ぐらいはありそうな広さです。今はお役所でもデジタル化が進んでいてこういったリアルな保管場所は少なくなっていると聞きます――ただ、“本当に大事な資料“は虻利家がリアルで保管しているという話もありますけど……。


 そして、高さ2.5メートルぐらいの棚には半分以上敷き詰められており、これは非常に骨が折れそうです……。


「ところで知美ちゃんは一体、この資料室で何を知りたいの?」


 まどかちゃんは早速脚立に上りながら、こちらを向いて聞いてきました。

 この資料の量を前にしても尻込みをしないところが素晴らしいです。それなのに私ときたら……。


「私はとにかくお父さんか弟がここに所属していないか知りたいです」


「そっか、それが目的だったもんね。苗字はやっぱり“島村”なの?」


 まどかちゃんに本当の目的を言って良いのか迷いましたが、何となくこの子には嘘は吐きたくないんですよね……。


「いえ、私の元の苗字は“鳥山“なんです。私は孤児院にいたのですが引取先の方の名前が島村だったんです。

ただ、EAIに入る際に名前を変えている可能性があるので私が写真を見ないと分からないかもしれません。合宿や旅行などの集合写真みたいなのがあればそれを教えてください」


 引取先の方とは今はあまり付き合いはありませんが、優しい老夫婦の方々でした。

 付き合いが無くったのも私にあまり感情移入させ過ぎないためでした。私はついこの間まで虻成に復習を果たすために全てを棄てて良いと思っていましたから……。

 あの方々は今大丈夫なのでしょうか……今度時間があれば会いに行ってみようと思います。


「へぇ、本当は鳥山さんだったんだぁ。オッケー! とりあえず、人がたくさん写っている写真を探すね!」


「私はまどかちゃんに写真を探してもらっている間に、このEAIの具体的な歴史について探ってみます」


 ええと……あっ、ありましたEAI年表。写真のコメントには“2040年コスモニューロンが一般家庭用に普及し始めた頃からAIに対する危機感を募らせた18人の有志が集まる“と……その時の写真を見ても創立メンバーの中には居なさそうですね。


「そもそも、15年前の私たち家族はまだバラバラになっていないのですから。当たり前と言えば当たり前ですね」


「知美ちゃん。この10年の慰安旅行アルバムというのがあったよ」


 まどかちゃんが笑顔で私の方に冊子を振って見せました。


「見せてください」


 私は勢い良くまどかちゃんから受け取りました。


 お父さんはこういう集まりが好きで地域の皆とコミュニケーションをするのが欠かせないタイプでした。もしも、ここに所属していたのならばかなりの確率でそういった場に出席していた可能性が高いです。


 まず各年度の参加者名簿名前を見ましたが、“鳥山”という名字は見当たりません。次に私はゆっくり一人一人の顔を見ていきましたが――どうにもお父さんや弟らしい人の顔は見当たらないように思えます……。

 もっとも、小さい写真なので完全に識別できているかどうかも怪しいですが……。


「……」


 この会で慰労会に毎回のように参加している人たちは大体一緒みたいでして、3枚目ぐらいからは比較的早く見て行くことができました。


「まどかちゃん、ありがとうございます。残念ながらお父さんや弟はいないようでした」


「そっかぁ……」


 まどかちゃんは肩を落としています。そう言った仕草は本当に健気で可愛いと思います。


「そんなに落ち込まないでください。元々かなり可能性的には低い話だったんですから。

 時間目いっぱいまで何か手掛かりがないか探してみましょう」


 元々、対虻利家の活動としてはそれほど積極的に動いていなかったのでお父さんの眼中にも無かった可能性は高いです。

 ――今後はどうなるかは分かりませんけどね。

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