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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第4章 反成果主義

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第8話 EAIの変わり目

 地下講堂では先ほどから罵声の嵐が飛び交っています。

 ここにいない会員の権利を保証しろだとか、危険だからやめろといった声が挙がっています。賛成派と反対派とが揉みあいになりスタッフから制止されるなどと言った場面もありました。


 非常に緊迫した空気となり暴動すら起きそうな雰囲気になりました。


 EAIはたった今この瞬間大きく変わろうとしています。これが運がいいのか悪いのかはよくわかりませんが、淡々と情報を集めているだけよりかは起伏があっていいと思います。


「私は勿論、賛成票に投じようと思います。この世界を少しでも変えるきっかけになればと思いますから」


 本当に組織のことを考えれば反対票を投じるべきなのでしょうけど……そう考えると少し心が痛みますね……。


「あたしも! そっちの方が楽しそうだしね!」


 まどかちゃんはどういう状況でも楽しんでいそうで何よりです……。


 色々な議論が壇上の幹部と会員との間で話し合いになりましたが、結局のところここに来ておられない会員の方は考慮されないという結論になりました。内容は伝えられていなかったようですが重大議案が話し合われるという通達は事前にあったようです。


 投票する時間になり、私たちの番になりました。私達は老齢な女性を支えながら投票所に向かったために、最後の方の投票になりました。


「なんだか、投票ってワクワクするね。あたしの1票で何かが変わると思うとっ!」

 

 そういえば、まどかちゃんはまだ選挙権も無かったんですよね。分母からしたら1票で何かが変わるとは思えませんし、国政選挙などでは虻利家の資金が陰で介入し、不正選挙が行われているという話もあります。


 しかし、その事実を知っていたとしても行動しないというのは私の性に合いません。

だから私は選挙にこれからも行こうと思います。


「そうですね。どうなるかはわかりませんけど、本当に加入して間もないのにこんな大きな局面に多少なりとも影響力を持てるのは幸運なことだと思います」


 全員の投票が終了すると、役員による不正が行われないようにするためにランダムで会員が選ばれ開票作業が行われ、役員はそれを見守るという体制になりました。


「結果を発表します。有効票405票、無効票2票。賛成票280票、反対票123票であります!」


 加藤さんがそう発表するとワッと歓声や拍手が起きている場所と、EAIが終わったというような声、舌打ちや不平不満を述べている場所の二極化が起きました。


 思ったよりも大差になったなと言うのが私の第一印象でした。やはり“会費が有効に使われていない”ということが皆さんの心の中に大きくあったと言うことみたいですね。


「今回の投票では3分の2以上の方が賛成いただき誠にありがとうございます。しかし、逆を言えば今回の一件に関して3分の1弱の会員の方は不満をお持ちの方々ということも意味します。これは会としても決して少ない数では無いと思っていますし、意見を違えた方々とも言えます。また、投票に参加できていない方々でも不満をお持ちの方もいると思います」


 妙なところで区切ったので、加藤さんがまた大きなことを言いそうな雰囲気があり再びざわめきが随所で起きています。


「今回の一件が我が組織にとって重大な決断ということは重々承知済みです。ですので、もしも今回の決断に関して不満をお持ちの方、政府・虻利家に対して追及を受けたくないなどという意見をお持ちでしたら、本日より退会していただいて結構です。

 プロフィール情報などは厳重に保管したデータを廃棄しますのでご心配いりませんし、今月分より先の会費を前払いしていただいた方はご返金させていただきます!」


 反対派の人々が多い場所は大変ガヤガヤしてきました。これはかなり大胆な決断とも言えます。しかし、順調に会員を増やしていたにも関わらず退会しても良いという発言には、物凄い決意も感じます。一体何がEAIの首脳陣を動かすのでしょうか……。


「お静かに! 私達はそれだけ大きな決断をしているということをご理解いただきたいです。我々は政府・虻利家を転覆しようとか考えているわけではありません。しかし、今苦しんでいる人たちの原因の一つが科学技術であるということは間違いないのです。その苦しんでいる人々を救いたいのです!」


 賛成派の人々からは再び拍手が巻き起こりました。この人たちは少し勘違いしているようです。科学技術を占めている科学技術局は虻利家が全面的に支援しその技術を享受していることを……それを選択することはまだは自由ですが、それに反する活動を行うことになればすぐさま特攻局との連携を取ってくることでしょう……。


「皆さん、この回の存在意義のためにも立ち上がりましょう!」


 加藤さんの発言を聞いて、一部の人々は退会手続きをするためでしょうか? 早速ホールの外に出て行っています。違う意味で立ち上がりましたね……。先ほど質問した北村さんと言う方も真っ先に出て行った一人でした。


「ご賛同していただける方のみが残ったところで、今回この加藤が“コスモニューロン問題提起啓蒙活動プロジェクト“のリーダーとしてプロデュースしていこうと思います。

しかし、評議会のメンバーのみでは先ほどのように不満が出る者が現れることだと思います。ですので、一般会員の方からもこのプロジェクトに参加して下さる方が出てくれればと思うのですが、いかがでしょうか?」

 

 再び騒がしい状態に戻りますが、今回は何分経っても手を上げる者が出てきません。大変責任がある職務であることから“プロジェクトに賛同はしたいけど、直接責任を負いたくない”という感情の人が大多数なのでしょう。


「ねぇねぇ、あたし達はここに加入したばかりだけどプロジェクトに参加しちゃダメなのかなぁ~?」

 

 まどかちゃんが私の袖を引っ張りながらそんなことを言ってきました。確かに、私たちが参加したほうが過剰な動きになる前に未然に防ぐことができます。新米なので本来なら謙虚な姿勢でいたい私としてはあまり名乗り出たくはありませんが……。


「そうですね。より実情に迫ることができると思います。プロジェクトに参加できる権利があるかは分かりませんが、もし参加できるのならば参加したいですね」


「それじゃ、思い切って手を上げてみよっか。はいっ! あたしやりたいですっ!」


 まどかちゃんの行動力とこういう真っ直ぐなところは本当に素晴らしいと思います。私も負けていられません。


「私も参加したばかりですがやりたいです!」


 またどよめきが大きくなりました。若い女性が2人いきなり手を上げたので驚きの声が大きいです。


「よくぞ言ってくれました。では壇上に来ていただき、何か一言お願いしたいです」


 加藤さんがそう言ってきたので私達は席を立ち壇上に向かいました。

ふぅ……こうしてこれだけの人の前で話をするのはいつ以来でしょうか……あ、最近ではミスコンでアピールポイントを話す際に虻成達を前に話をしたことがありました。緊張しすぎて何を言ったのか全く覚えていないのですが……。


「会員ナンバー3010番まどかです! 17歳ですっ! 皆のためになるように頑張りますっ!」


 まどかちゃんが元気よく言いました。虻利という名字を伏せたのはこの流れではややこしくなるとご自分で判断されたのでしょう。良い判断だと思います。


「会員ナンバー3011番島村知美19歳です。今日入ったばかりなのでこのようなところに立つのは大変恐縮なのですが、少しでもお役に立てるように全力を尽くします。よろしくお願いします!」


 懸命に今の気持ちを伝えたら拍手がまばらですが起きました。少なくとも失敗ではなさそうで少しホッとしました。


「まどかさん、知美さん。ありがとうございます。このプロジェクトにはまだまだ人数が必要になってくると思います。余程素行が悪いなど会に悪影響を与える人間でない限りは誰でも歓迎しておりますので、是非前向きに検討の上でご参加を。最終的な責任は我々、執行部・評議会が取りますのでご心配いりません」


 残念なことに“責任を取る”とは言ってもせいぜい役職を辞任する程度でしょう。

虻利家というのはそう優しいものでは無く、“反乱分子“と認めれば一網打尽にして”人体実験の道具”として扱うことでしょう。

 あの悪魔のような組織は人体実験の献体を果てしなく探しているのです。


 この人たちの言いたい事やっていることには賛同したいですが、根本的なところで見えていない部分があるように思えます。


 虻利家から離れすぎている組織と言うのも考え物だなと思いました。


 私は命を懸けて虻成を殺し、目標を達成しようと思っていました。しかし今も生きていますし、もう失うものは何もないです。

 だから仮に一般の方が犠牲になるよりも私が犠牲になるほうがいいように思えます。この組織を少しでも破滅に導かないことを目標にしていきたいです。まどかちゃんに関しては玲子さんが守ってくれるのではないかと期待したいです。


 そうで無いとこの組織に所属している数千人の命が危ないですから……。


「では、本日はこれで解散となります。長い時間どうもお疲れさまでした。次回の全体集会は半月後を予定しておりますが、変更等ありましたらまたお伝えします。本日は来ていただきありがとうございました」


 残っていた人々も徐々に出口に向かって帰っていきました。私たちはこの企画に賛同してくれていると言うことで頭を下げながら見送りました。


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