第7話 衝撃のスピーチ
まどかちゃんは私のようにいちいち“本来の意図”について考えているわけでは無く、純粋にみんなと溶け込もうとしているようです。
また、玲子さんから任された任務に全力で、私のように自分の家族に関係のある情報があるかどうかなどという私欲にまみれた邪な考えなど少しも持ち合わせていないようです。
集会はEAI本部の地下講堂にありました。500人ぐらいが入れそうな大きさの広さがあります。そのうち400人ぐらいの席が埋まっておりとても盛況な雰囲気です。
私達は周りに座っている人たちに新加入であるということを挨拶しながら始まるのを待っていました。挨拶を交わしてくれた相手の方は老齢の女性の方で話していてとても心が落ち着く方でした。
「これより、第245回月次定例会を開催いたします。司会進行はこの加藤が行います。まず10月の会員の増減数から発表しようと思います。10月は19人が加入。1人が脱退という形で合計すると18人増加しました。
これによって、全会員数で3000人を突破しました。本日も2人加入しており我が会は順調に発展していっているのであります」
先ほどの加藤さんが壇上に立たれて話をされています。その他、EAIの幹部達も10人ほど出席しているようです。加藤さんは先ほどとは違い堂々とした話し方をしています。当然“本日加入の2人“というのは私たちのことでしょう。
「活動報告といたしましてはこの本部他全国5つの支部にて地域コミュニティへの参加、また地元自治組織への寄付などを着実に実施しております。また、本会のメイン業務であります、対虻利家の活動につきましては、3種類の意見書を提出しており――」
全文を加藤さんは読み上げました。10分以上ありましたので、簡単に要約しますと成果報酬や結果主義にとらわれない“努力”も評価対象にするべきだという意見書でした。別にこの活動の一貫性がありますし問題はありません。
「では最後になりますが、今後の新プロジェクトについて発表させていただきます。題して『コスモニューロン問題提起啓蒙活動プロジェクト』です! 昨今会員の皆様方からの提言として多いものとして、“会費が高すぎるから値下げしろ”“もっと有意義な活動をするべきだ”、“ボランティア団体ではない”などという声であります」
一気にざわめきが大きくなりました。
私はここに入って間もないのですが確かに成人が月5000円というのは結構高めな値段設定だなという風に感じました。私の学校の友達でVRでのオンラインのコミュニティに参加している子がいますけど、それらのコミュニティでは年齢関係なく1000円未満というところも多いようです。
「ここにいる皆さんは、コスモニューロンを導入されていませんね?
ですが、生活上の影響というのはあまりないはずです。コスモニューロンというのは脳のニューロンを発する場所の中心地に極小のアダプタを埋め込むようなのですが、これを取り除くこともできるのです。
本会にどうしても加入したいがコスモニューロン除去のための手術費用が払えないという方がいらっしゃるのです。
これは、導入の際は政府・虻利家からの補助があり無料なのですが、取り除く際には数十万円の手術費用が必要なのです。これも虻利家の姑息な策略とも言えます」
そもそも、コスモニューロンって取り外しが可能なのですね……埋め込んでしまったのなら一生モノなのかと思っていました。ただ、取り除く際だけにお金がかかるというのは露骨に取り除かせたくないのですね……。
「また、コスモニューロンに常時接続されているとSNSやメールの通知などが頻繁に起きるためにSNSへの依存性・中毒性がさらに加速していることも指摘されています。
他者と比べることで自分がやる気が出るといったことはあるのかもしれません。
しかし、世界中の人と繋がるということは、際限なく比べる相手がいてその都度劣等感に苛まれることもあるわけであります。
そして自己を誇示している人も必ずしもそれが“真実”であるとは限らないわけです。一面性しか示さないSNSはマイナスの面を排除しているのです。
例えばインフルエンサーが家族での幸せを写真などで誇示し、その後離婚……などと言ったケースも多く見られます。そんな虚像かもしれないものと比べて一体何の意味があるのでしょうか?
こういった、健康的・精神的な影響というのが多大にあるのではないかと考えています」
意見に賛同する者からそうだ! といった声が上がっています。私もこの考え方には全面的に同意します。自己顕示欲同士がぶつかることによっても産まれるものは不毛な勝者だけです。さらなる自己顕示欲を満たすために次の無駄な努力を始めるのです。
「そこで我々は評議会での採決の結果、コスモニューロンの危険性を喚起させる新プロジェクトを立ち上げると共に、その取り除くための補助基金を募り、その取り除き希望者に対しては無料で治療を受けられるようにしたいと思います!」
おお! とホール各地で歓声が上がりました。
「異議あり!」
一人の人が手を上げました。係員の人がマイクを持って行っているのが見えます。手を上げた方は壇上から数えて前から5列目ぐらいの人で私からは顔は良く見えませんが40代ぐらいの太めの男性でしょうか?
「そちらの方何かご意見があるのでしたらお伺いします」
「会員ナンバー2013番の北村です。私が思うに、そのように大胆な行動に出れば虻利家も黙っていないと思います。特攻局を傘下に入れている虻利家はあらゆる手段を講じてEAIを排除してくることになると思うからです!」
虻利家は一見すると臆病とすら思うほどにあまりにも用心深いです。わずかな綻びや反乱分子も見逃さないでしょう。だからこそ強固な権力を維持し続けていると言えます。加藤さんの言うような動きをしてしまえば一気にこの組織ごと滅び去ることになるでしょうね。
「あなたのおっしゃりたいことはよくわかります。懸念されるリスクについてもトップの評議会で議論し、採決した結果に基づいてお話しているわけであります。我々は今、動くときです! 会員も順調に増えていき影響力を増す中、動かなくていいのか? 動かない会は存続していいのか? そう疑問に思っているわけであります」
言いたいことは分かります。今のEAIはただの“サークル化”して緩くなってしまっているのでしょう。その状況を加藤さんは打開したいのでしょう。
しかし、それにしてもあまりにもリスクがある行動に思えました。真っ向から虻利家の政策に立ち向かうのは危険です。もっと他に何か方法は無かったのでしょうか……。
「しかし、これほど重要な案件については一般会員にも評決を図るべきなのではありませんか? 今日初めて報告を聞かされているというのは問題だと思います!」
私も同じような懸念点を感じるので北村さんの発言はかなり真っ当な意見だと思います。私も本気でこの組織を支えようと思うのならば反対していることでしょう。
「な、何だか凄いタイミングで加入しちゃったね……」
何だか議論が熾烈になって来たので、私達は小声で会話を始めました。EAIはあまり外に発信しないタイプの組織なのかな? と思っていたんですけど、まどかちゃんの言う通りとんでもないタイミングで加入してしまったようです。
「そうですね……でもこれはある意味チャンスかもわかりません。この組織の今後の方向性が大きく変わる場面でもありますから。そこに立ち会えるというのはまたとない機会です」
「だよねー。何か“コスモニューロンやAIに頼らずに助け合う会“みたいなイメージがあったけど、それじゃぁ、会費の使い道がないよねー」
「確かにその状況に不満を持つ人々が出てきたのかもわかりませんね。会費月に5000円ということですから年間6万円ほどですからね。結構な負担になります」
私たちがコソコソと話していると、加藤さんが注目させるために叫びました。
「皆さんお静かに! 確かに、一般会員の皆さんに意見を求めなかった我々にも責任はあります。そこで、全会員がいるわけではありませんが、ここで採決をとり決議を行いたいと思います!」
加藤さんがそう言いました。それに対して、会場の一部から全会員にするべきだ! と声が上がります。
「今回の一件につきましては、我々に賛同し資金提供をしてくださる各団体の了承も得ております。仮に、この案が否決されればその約束を反故することにもなりますので、それは一刻も早い方がいいのです。ご理解いただきたいです」
この組織は会費も集めつつ、賛同する団体というのも多少は存在するようです。確かに、この建物の1階の壁に“協賛団体一覧”や“高額寄付者一覧”と言った名前があったような気がします。
今投票を行うかについてもまた議論がされていました。
本来ならば郵送投票などで全員の投票機会を与えるべきだという考えのようでした。
しかし、様々な意見が出た中で結局のところ今、ここにいる人々で投票を行うことが決定しました。毎回積極的に参加している人が多いことが理由でした。
私達は今日加入しましたが、無事に投票できそうです。




