第6話 EAIの面接
私は深呼吸をしながら面接室に入っていきました。
面接官は2人で1人は30代半ばぐらいの黒いスーツを着た男の人です。柔らかい笑みを浮かべており、とても優しそうで誠実そうな印象を受けます。
もう1人は40代ぐらいの女性でした。彼女は眼鏡をかけており、緑のスーツも少し厳しそうな印象を受ける人です。
「島村知美さんだね?」
スーツの男の人は“加藤“という名札をつけていました。やはり、私の最初の印象通り優しい声です。
「はい、そうです。先ほどの面接を受けたまどかちゃんとは親友の間柄です。帝君大学1年生です。どうぞ、よろしくお願いします」
「僕は加藤秀哉。このEAIの副代表を務めている。知っての通りこの組織は反AI・反アンドロイドを掲げているが、君はAIやアンドロイドについてはどのように考える?」
「私は、AIやアンドロイドについては人々の生活をより良くするためには必要なものだと考えます。しかし、そのやり方が問題があると思います」
「具体的には?」
「政府や虻利家が特に推進しているAIを取り入れる政策は弱者を切り捨てる政策だからです。
今現在は人間のあらゆる分野において実力とやる気があればどんどんお金を得ていくシステムです。私は幸いにも弓道と言う特技があり、それによる実技報酬と言うのが与えられています。
しかし、中には頑張っても実力がギリギリ足りない人間というのも多いと思うのです。
AIの示した理想的最適解を達成できない人間が“落伍者”になってしまっているのです」
私の弓道をやっていた友人には不幸にも頑張っても目標値にギリギリ届かずに引退してしまった石井さんと言う子もいました……私は石井さんの分も弓道を頑張らなければいけません。
「なるほど」
「目標を達成できなければ評価されない今の世の中だと生活することも社会的評価も苦しいものになってしまいます。
そうなると、信用スコアも低くなるでしょうし、あらゆる制約を受けていきます。
このような社会はAIが導いた結論としては最適解なのかもしれません。しかし、私はこれが個々人としては最適解とはとても思えません」
「私もその意見に賛同するね。EAIの組織全体もそう言った考えの人が多い
AIは社会全体の多くの人には適用できるのかもしれないけど、少数の“外れ値“とされる人々は不幸にしかならないからね」
私は境遇に同情されることがあります。確かに、家族こそバラバラになってしまってはいますが、才能があっただけまだ恵まれていると私は感じています。
「そうですね。私はAIは人間を幸福にするために存在するはずなのに、不幸になっている方も多くいる。そこが最大の問題だと思います。
成果も確かに大事だとは思いますが、それならばロボットやシステムによって達成できるでしょう。
これからは、人間としての生き方が問われていくことにもっとなっていくと思います」
眼鏡の女性は大きく頷いています。
外にはあまり発言したくありませんが、AIの問題はそれ以外にもあります。
AIの解答だと見せかけて“虻利家や支配者側にとって都合の良い解答”であるということもあります。システムを完全に制御しているので、“答え方の範囲”というのも明確に指定しているという話も聞いたことがあります。
意図的に考えを誘導し、管理・監視しやすくしているのでしょう。
「私たちの団体は最新型のPCを体に内蔵するコスモニューロンというシステムを入れないことを絶対条件としている。君はコスモニューロンについてはどう考える?」
「私自身の体に入れることは反対ですね。報告されている件数は少ないですがコスモニューロンにおける障害など生活に支障が出ている方もいらっしゃいます。
また、バーチャル世界でのコミュニティやゲームなどにもあまり興味が無いので、必要性が感じませんでした。
あとは虻利家がコスモニューロンによって行動記録や生体情報を監視しているというのもあまりいい気持ちがしませんね」
正直なところ、科学技術局が行っていること全てが私にとって嫌悪感があります。
局長の大王と言う人は人類の発展のために様々な非道な行為をしているようで、同じ人間が運営しているとは思えません。
ちなみに、質問をしているのは加藤さんだけで、女性の方は――名札から仁藤さんと言うようですが、彼女はしきりに頷いて私の話をメモをしきりに取っている感じです。
「よく情報を収集されているね。ちなみにこのEAIではコスモニューロンの手術などで障害を負った方への支援も行っているよ。
君は話している感じでは虻利家に対してあまりいい印象が無いようだね? それはどうしてかな? もう一人のお友達は苗字からしても虻利家の身内の女の子のようだけれども」
「私は虻利家に家族をバラバラにされました。少し前までは復讐しようと思っていた頃もありました。
でも、色々なことがありまして今はその気持ちはあまりありません。まどかちゃんは、虻利家当主の実子ではなく遠縁の子ということもあって嫌悪感はあまりないのでとても仲良くしてもらっています。
まどかちゃんは恐らく実のお姉さんの影響で体の中に何か入れたくないのだと思います」
本当に色々なことがありました……。虻利家に対する嫌悪感は全く拭えていませんが、全員が全員悪い人ではないということも分かりました。
「なるほどね。僕達も虻利家に真っ向から挑戦するつもりは無い。色々問題はあるにせよ日本を支配している存在としてあまりにも強大だからね。
キチンとガイドラインに沿った組織として活動し、そのうえで意見するところは意見していこうと考えているよ」
「ええ、素晴らしい理念だと思います」
「面接は以上です。面接結果としては島村さんは我々の組織への参加を認めようと思います。仁藤さんもいいよね?」
「はい」
加藤さんはにこやかな表情でそう言いました。仁藤さんも初めて口元のみですが笑われました。
「ありがとうございます。私としても同じような考えを持った人が少なかったのでこの組織に入れることが嬉しいです」
具体的に1週間活動してみなければわかりませんが、第一印象としては“危険な組織”では無いように思えます。
私がここに来たのは、お父さんと弟の情報が無いかだけをこの期間の間に確認していこうと思います。名簿や関係者情報などに触れる機会があればいいのですが……。
「会費が月単位で発生するわけだが、いいかな? 20歳以上の大人は月5000円ということになっているが、君たちはまだ20歳未満だから月1000円で構わないよ」
私が来年までいるとはとても思えませんが、来年からは私は5000円になってしまうんですね……10代は今振り返ると激動で色々なことがあったように思えます。ですがあっという間のようにも思えます。こういう感覚ってよくありますよね?
「はい、では書類にサインして下さい。ちなみに、先ほどの虻利まどかさんも合格されました」
私は書類事項の注意事項の隅々まで目を通しました。特に変な留意事項は無いようです。問題のある組織だと凄く小さな字でとんでもないことが書いてあり、取り返しのつかない事態になってしまうこともありますからね。
「では、退出していただいて結構です。この後、丁度集会があるのですが、出られますか?」
少しでも情報が欲しいので願ったりかなったりです。
「はい、是非とも出席させてください。まどかちゃんも大丈夫だと思います」
「まどかちゃん! 私も無事にEAIに加入できたみたいです!」
まどかちゃんは問題ないと思っていましたが、“2人とも合格”という響きがとてもいいですね。
「やったね!」
「この後早速EAIの集会があるようなのですが私は出ようと思います。まどかちゃんはどうしますか?」
「勿論出るよ! 早く皆と馴染まないとね!」
まどかちゃんはどこで集会があるのかを聞くことなく走り出しました。
「あの……そっちではないのですが……」
「えへへ……早とちりしちゃった」
下をペロリと出したまどかちゃんは本当に可愛いです。弟が生死不明の今、まどかちゃんが本当の妹みたいですね。
そんなことを思いながら、私たちは集会が行われる地下講堂に向かいました。




