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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第4章 反成果主義

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第5話 笑顔の練習

 虻輝と景親が輝成と会話をしているその頃、虻利まどかと島村知美はEAI本部の前に来ていた。


「ふぅ……初めてのところはちょっと緊張しますね」


 EAI本部は自分が思っていた以上に大きく10階建ての建物で、威圧感があります。


「大丈夫だよ~お姉ちゃんが言ってたじゃん。笑顔でいれば大丈夫だって~」


「こ、こんな感じですか?」


 私は今できる精一杯の笑顔をやってみせました。


「ちょっ! 笑顔ひきつってるよっ! そんなんじゃ怪しまれるって! 時間が決まってるわけじゃないから、今から特訓だよっ!」


 その後、トイレで“笑顔の練習”を強制的にさせられてちょっとは上手く笑えるようになった気がします……。

 玲子さんと同じように特訓みたいなことが好きなようですね……。


 どうやら笑顔が自然になるためには自分が好きなことや、上手くいったと思えたことを想像することが大事のようです。


 私は弓道を極めてきたので、的の中央に無事に当たって優勝した時を想像しました。

 次には、家族や玲子さんに褒められたことを想像しました。もう、家族とはずいぶん会っていませんが、お母さんのぬくもりは今でも思い出すことができます……。


「うーん、自然な笑顔にはまだまだだけど初めて会った人ぐらいは騙せるかなぁ?」


 まどかちゃんはとても明るく優しくて、そばにいるだけでとても安らぎの気持ちが沸き上がってきます。

私は色々と考えてすぐ後ろ向きな気持ちになってしまうので、まどかちゃんのように常に前向きな女の子がいてくれるととても助かります。


「騙せるって……どんな組織なのか知るだけですからね?」


 でも、私もEAIについてよく知らないので、一体どんな組織なのかは本当に分からないのは不安になります。危険組織かもしれないし、もしかするとかつての私の所属していた団体の代わりになる組織かもしれないです。


「お兄ちゃんも笑顔だけは良いからなぁ~。ただ、普段はゲームをしてんのか虚空を見つめて険しい顔をしていることが多いけど……」


「確かにその光景はよく見ますね」


 あの人は確かに笑っている時は比較的好感を持てる気がします。笑顔何かに騙されて本質を見誤ってはいけないとは思いますけどね。


「いらっしゃいませ。ようこそEAIへ。どういったご用件でしょうか?」


 EAIの回転ドアを通ると、まるで大企業のロビーのような雰囲気で正直驚きました。私の組織はお世辞にもいい環境とは言えませんでしたからね。特にメンバーの中でのランクが低かったので……。


「新規加入を行うにはこちらで手続きをすればよろしいんでしょうか?」


「あたしと知美ちゃんの2人ね!」


「少々お待ちください」


 受付の人は紺色のスーツで優しそうな人でした。名札には名取と書いてあります。名取さんは奥に5分ほど引っ込むと戻ってきました。


「お時間はございますでしょうか? 30分ほど身体検査をして頂きます。そのあと、今日滞在している幹部の者と面接していただきますがよろしいでしょうか?」


 つまり、入会するための試験のようなものが軽くあるようです。

 確かにどこの馬の骨とも分からない人物を入れるわけにはいかないですからね。


「大丈夫です」


「分かりました!」


 私達は身体検査の部屋に向かいました。


「この団体がどのような団体かご存じですよね?」


「勿論です。AIに依存している虻利家に対抗するための組織なんですよね?」


「あたしたちも、コスモニューロンを導入してないよ!」


「私たちの理念をご理解いただきありがとうございます。ですが、一応はAIに関するものが無いか確認する検査を受けて頂きます」


 コスモニューロンは最新の人体内蔵機器でかなりの普及率を誇っているようです。しかし、それより前のデバイスというのも流通数は少ないですが存在しているみたいです。私は詳しいことは何も知らないのですが、それらを検知する方法があるのでしょう。


「分かりました」


 私達は飛行機などに乗る際に通過する金属探査機みたいなゲートを通過しました。

 金属製の製品は持っているのに反応しないところを見るとデバイスが体に入っていないかどうかを調べられるのでしょう。


「大丈夫ですね。私たちの理念もご理解されているみたいですし、加入申請書に書いていただければ大丈夫です」


「あの……あたしは、この組織がちょっと危ないことをしているんじゃないかっていう話が合って不安に思っているんですけど。それについてはどうなんですか?」


 まどかちゃんはまさしく直球で受付の人に聞きました。受付の人も驚いてみたいです。

 私も恐らくはちょっと飛び上がってしまったでしょう……。


「確かに、そういう噂は存在しますね。ですが私達は政府や虻利家に対して意見を申し上げる際に、政府・虻利家のガイドラインに反しない形で存在している組織なのです。危険組織と認識されてはあっという間に潰されてしまいますので」


「へ~そうなんだぁ~それなら安心だね~」


 まどかちゃんはいつものニコニコの笑顔になりました。


 私も虻成を襲撃する直前まで全く悟られないように注意し続けましたからね。実際に虻利家というのは危険分子とみなせば容赦なく潰してきます。“探り“を私達を使って入れているのも”何かないか“を探しているのでしょう。


「では、簡単なプロフィールを書いていただき面接を1人1人行いますがよろしいでしょうか?」


「はい、まどかちゃん。先がいい? 後がいい?」


 私は別にどちらでもいいのでまどかちゃんに順番を聞きました。


「あたし、先がいい!」


 そう言ってまどかちゃんは、サラサラとプロフィール用紙を可愛らしい丸文字で埋めていきます。その後、元気に面接室に入っていきました。本当にまっすぐで可愛い子だなと思います。


 まどかちゃんが面接をしている間は1人で考えていました。私は特攻局の手助けをする気は全くありません。私のお父さん、弟が関わっていないか、手掛かりは無いのかそこに注意したいと思います。


 まだまだ情報は足りないので断言はできませんが、私はこのEAIについてはあまり虻利家に対抗できる勢力では無いように感じました。建物の外観も危険な物があるように思えず、受付の名取さんのイメージが柔らかく虻利家が警戒するような勢力とはとても思えなかったのです。細かいことは分かりませんがそれを確認するだけの作業だと思います。


 となると、特攻局がわざわざ潜入捜査させると言うことは、“何かしら罪状をでっちあげる”と言うことが想定されます。私たちはなるべく毒にも薬にもならない報告をしていく用に努めなくてはまたしても新しい犠牲者が出てしまいます……。


「それにしても玲子さんは、本当に凄い人ですよね……」


 私はこれまで雑誌や広告などでしか玲子さんを知らずに漠然とあのような女性になりたいなと思っていたのですが、実際に会ってみたらもっとその気持ちが強くなりました。


 そして何と言っても、あの強さ! 全ての人間の中でも玲子さんが一番強いのではないでしょうか? 私よりも小柄(私が女性にしては大柄というだけですが)でありながらあれほどの力を出せるんですから本当に色々な苦労をされてきたのでしょう……。

 

そして強いだけでなく、あの透き通る肌、細いウエスト、センス溢れる洋服センス……女性の憧れも凝縮したような完全な存在と言えるでしょう!


 あぁ……ダイエットしないといけないんでしょうか。これでも太りやすいのを訓練をたくさんして何とか踏ん張ってはいるんですけど……。


「知美ちゃん! 終わったよ! 別にヘンなことは聞かれなかったなぁ~」


 私が玲子さんの素晴らしさについて没頭して考えていると、まどかちゃんが大手を振って戻ってきました。

 まどかちゃんも相当強いのであまり心配していませんでしたが、本当に危険な組織ならば一見すると小さい女の子に見えるまどかちゃんに危害を加えることも考えられます。

 ひとまずは安心して良さそうです。


「まどかちゃんもここで待っててね」


「うん! 頑張ってね~! 肩の力抜いてよ~」


 満面の笑みのまどかちゃんに見送られながら私は部屋に入っていきました。まどかちゃんだけが合格して私が落第だなんて許されません。

 色々なことを加味しながら慎重に受答えしなくてはいけません……。

 

 おっと、笑顔を忘れないようにしないと何のために練習したのか分かりません。お母さんに褒められた時のことを思い出しながら面接室に入りました。


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