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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第3章 電脳戦

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第49話 潜む犯人

 とにかく切り替えるしかなかった。戦場で隙を見せれば死を意味する。

 不安はあったが行動しなければ好転する可能性はゼロだ。


 勿論今より暗転する可能性もあるが、そこは輝成や建山さん、サポートしてくれている為継を信じるしかない。


「ここは死角も多い。先程みたいに見えないところから急に敵が出てくることもある。大通りに出て周りが見えやすい所に移動しよう」


「は、はい……」


 少し嗚咽は収まりつつあったが工藤君のメンタルが心配だ。僕まで足手まといになってはいけない。

 僕の死はチームの全滅と言っても過言ではない状況だ。


 僕は深呼吸をしながら移動を開始した。そろそろ疲れてきたので、元遊技場で休むことにした。あそこならば取りあえずの所は安心して良い。


 工藤君は遊技場に到着すると、泣き疲れたのか安心したのかは分からないがあっという間に毛布を被ると眠ってしまった。

 里山は何故か知らないが工藤君に寄り添うようにして爆睡している――思ったよりも工藤君が安心させられるのはこのマイペースの里山なのかもしれない。


これも彼なりの配慮なのかそれとも天然でただ眠いだけなのかは分からないが思ったよりも悪い奴では無さそうだと言うことはここまでで分かった。


落ち着いたところで、ここまで起きた出来事を為継に伝えた。

 特に為継に伝えたかったことは、レーダーに工藤君の仲間が捉えられていないことだ。


「なるほど。私もその件は気になりますな。レーダーで捉えられなかったことと実際のリアルでの状況に相関関係があるのかを調査してみます」


「頼む。ところで、このヴァーチャリストの異常な状況を起こさせているウイルスの原因についてはまだ突き止められていないのか?」


 既にこの問題が生じ始めてから3時間以上経過している。通常であればあっという間に解決して良さそうなものだ。

 特にサイバー上の問題なら日本の科学技術局の右に出る機関は無いはずだ。


「大変情けない話ではあるのですが、全く分かっていない状況です。

 ここまで私がハッキングが出来ているなら通常なら原因が突き止められそうなものです。

 原因さえ突き止められれば、数多の対処法がありますのであっという間に解決するのですがね

 しかし、残念ながら我々が手を尽くしているにも拘らず原因を突き止められていないのです」


「スマン。為継をも上回る知識や技能を持っていると言うことか……」

 本当に申し訳なさそうな声で答えてきたので思わず謝ってしまった。為継に対して当てつけやイラ立ちで言ってしまったような気がしたからだ。


 驚くべきシステム構築の前に驚愕せざるを得ない。威信をかけて虻利家や科学技術局や特攻局も取り組んでいるだろうから……。


「いえ、これも私の実力不足です。研鑽を日々続けなくてはいけませんな。

しかし、私が思うにこれはシステム構築のみでは無いように感じます。

これは仮説ではあるのですが、主犯クラスが既にゲームに参加しており、随時私のハッキングや警備システムに対して対処しているのではないかと思ってメンバーを1人1人調査しています。

 今のところはめぼしい人間はあまり挙がってきていないのですが……」


「ふぅむ、そうか……」

 

 あまり疑いたくない事ではあるが、輝成や建山さんが敢えて言うのならば一番そう言うことにも精通していそうだ。

しかし、僕の目の前でそのような怪しい行動をとっているようには見えない。

仮に特攻局や為継からの防御策をやりながら参加しているのだとしたらもはや人間の領域を超えている。


「局面はそう簡単には打開できそうにない。為継も休みながら活動してくれ。

 どう見ても残業の領域を超えている」


 正直なところ為継程の優秀な人物が僕のサポートを普段からやってくれていること事態が謎だ。

 以前聞いてみたところ“趣味です”と答えられて終わってしまった――多少の報酬は僕が出しているとはいえあまりにも採算が合わないような気がする。


「虻輝様もご無理なさらないで下さい。どこかで休まれると良いでしょう。肉体上の休息でしたら問題なく出来ていそうですので、後は脳の休息です」


 コスモニューロンでの接続時間が長く続くと脳がかなり酷使される。既に10時間近くの連続接続時間となっている上に、異常事態が連発しているので非常に危険な水域に到達しつつある。


「そうだな。そろそろ休んだ方がいいかもしれないな。とりあえずは、元遊技場が安全地帯になっているからそこで休もうと思う。

 今日も色々とありがとう」


「いえ、私ももっとお役に立てればいいのですが……」


「いや、為継は精一杯やってくれている。それだけ敵が強大なウイルスをばら撒いたと言うことだろう。それじゃおやすみ」


 為継からの話での収穫は、ゲーム内に主犯格が潜んでいるかもしれないという情報だった。

 確定的な情報では無いものの為継の感覚を信じたい。

これまではウイルスの根源が潜んでいるだけだと思っていただけに僕たちの責任と言うのは更に重大になったと言うことだ。


「虻輝様。為継はどう言っていましたか?」


 輝成と建山さんに為継の話を共有した。特に僕たちが最初しなければ問題が解決しないことを改めて認識したということは重視しておいた。


「なるほど、私たちの最終目標はその主犯格を倒すことになりそうですね」


 建山さんはワクワクしたような声をしている。どうしてか知らないがこの状況を愉しんでいるとすら感じる節がある……見た目によらず何とも恐ろしい女性とも言える。

 僕は微塵も楽しめる要素を感じないどころか、無事帰れるかどうか工藤君のメンタルは大丈夫かどうかとか胃が痛くなることばかりが想起させられる。


「問題はその主犯格が全く見当がつかないことだ。“ここでぇーす!”みたいにして堂々としていてくれたら楽なんだけどね(笑)」


 しかし、暗い事ばかり考えていてももっと暗くなるばかりなので建山さんのように愉しんでやっていくしか無いのだろう。努めて明るい声を僕も声を出していった。


「狡猾に為継の対策を掻い潜っている奴ですからそう簡単には尻尾を出さなさそうですな」


 輝成は顔をしかめながら深刻そうな声を出している。為継の実力を知り尽くしているからこそ今の状況の根深さがよく分かっているのだ。


「そうだな……まぁ、しかしこればかりは考えても分からないことだ。

 サッサと寝て明日に備えよう。今日はタダでさえ大変な一日だったんだから」


「そうですね。まさかこんな1日になるとは思いませんでした……ほんの少し時間に余裕があるからゲームをしようと思っただけでしたのに……」


 建山さんからしてみたら特にその感想は大きいだろう。普段は特攻局の幹部として激務をこなしているのに休日がこの有様では休まる暇も無いだろう。

 本当に気の毒だと思った。それでも愉しんでいそうだからな……。

 

 こうしてとんでもない1日は終了した。驚くべきことに今日、福島の父上との出張から帰って来たのだから本当に濃密すぎる1日だった……。

 明日には何とか帰れるメドを立ててみせたい――そんな風に思いながら意識を沈めていった。

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