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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第3章 電脳戦

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第48話 愚かな逃亡

「何の話をしていたんですか?」


 僕が為継との連絡を終えると工藤君が話しかけてきた。正直ってちょっとギョッとした。

 彼の仲間が本当はもう手遅れかもしれないのだから……。


「今後の方針について話し合ったんだ。皆、取り敢えずは工藤君の仲間を救うという方向で良いかな?」


 工藤君に事実を伝えるわけにはいかない。建前上は今言ったとおりだが実際は手掛かりを探すのに精一杯と言ったところだろう。

 その上で建前を守らなくてはいけないのだから、ピラミッドの第5階層以上に不透明で困難なミッションと言えた。


「異論はありません」

 

 輝成と建山さんは空気を読んでくれた。

 里山は小さく頷いて同意を示してくれた。


「はい、そうしてください!」


 工藤君は満面の笑みだ。僕に対して一定以上の信頼をしてくれているのだろう。本当はもう既に助け出せない可能性が高いというのに……心が痛かった。

 僕は嘘を吐いている時には表情に出ていることが多いと玲姉によく言われる。今も表情に出ていないのか気になった。


「しかし、アテがないような気がしますが――そうだ、虻輝さん工藤君のチームメイトの今の位置関係は分かりますか」


「ああ、そういやそういう使い方も出来るだろうな。ちょっと待ってくれ――ん?

 どうにも反応が出てこないな」


 工藤君を為継のハッキングツールで仲間の1人に入れたことによってチームメイトを把握する範囲が広がったはずなのだが場所が全く特定されないのだ。


 為継に連絡を取って探してもらったがゲーム内の座標は捕捉できないという。


「ふぅむ……これは“足”で探していくしか無さそうだな。

 工藤君や里山のような協力者も増やしていきたいからまた漠然と探していくしか無さそうだな」


 VR空間内のゲームなのにもかかわらずいざと言う時は結局体力勝負になるんだから本当に困ったものである。


「虻輝様、チームを分けて探すことにしましょうか?」


 輝成がそんな提案をしてきた。ただ、僕は首を横に振った。


「確かに効率的にはその方が良さそうだが、分散してチームそのものが弱くなってしまうことを避けたいからな……」


 工藤君や里山とは共有できていないが一旦やられてしまうともう取り返しのつかないことになってしまいそうだし猶更命を無駄に出来ない局面だ。


「なるほど、味方は多く敵は各個粉砕していった方がより効率が良いですからな」


「そう。今の状況はとにかく不透明だから。確実な勝利が望まれる。わざわざリスクを取ってまでチームを分ける必要は無いように思える。

 僕が一番後ろで警戒をするから、皆は前と左右を確認してくれれば良いよ」


 殿しんがり的なボジションが一番難しい。後方の範囲を全てカバーするのもまた一苦労だからだ。だが、この中では僕が抜きんでてゲームでのスキルは抜きんでている。半強制的にリーダーの立場を担っている以上、仕方なかった。


 

 周囲を警戒しながら街中を進んでいく。NPCが群がっているところに人もいるような傾向がこれまでのところみられるので、敢えてそう言ったところを目指していった。


 僕の目論見としては、相手がピンチなところを助けてあげることでこちらに協力してもらいやすくなるというメリットもあるだろうという下心もあるがね(笑)。


 街の裏路地の方でヴァンパイア系統が群がっている。そこに僕たちは向かっていた。


「僕は後ろを警戒しているから皆で倒してしまって!」


 3,4人のプレイヤーを10体前後のNPCが取り囲んでいる。


 NPCは背を向けているために他の皆でも十分だろう。僕はヌッと敵が音を立てずに突如として現れないか様々なところに気を配っていた。


 そんな風に警戒している間に4人は快進撃を続け、10体のNPCをあっという間に倒していった。流石あのピラミッドを勝ち抜いただけのことはあって皆実力は折り紙付きだ。


 そうやって救出した4人組に対して僕は声をかけようとしたが、彼らは腰が引けながらも僕達から逃げようとした。


「ひぃい! そんなふざけた提案は やめてくれよ!」


 どうやら僕が話す前に建山さんが何かしら声をかけたようだった。

 恐らくは仲間になって欲しいと真摯に提案したのだろう。ところが、この反応である。


「コシヌケダナ。戦おうとしないだなンテ」


 里山はそう蔑むような声で言い放った。

 しかし、本来であれば目の前にいる彼らの方が正常な価値判断のような気がする。僕もいつものマインドならは他力本願で建山さんや輝成がいなければ、安全な場所を探して解決するまで積極的に動こうとは思わないから(笑)。

僕の周りはこのように戦闘狂ばかりだからな……。


「何とでも言ってくれ! それともお前ら俺らを罠に嵌めようとしているのだろう!? 特に世界王者はかなり狡猾で有名だからな! 俺たちを全滅させようとしているんだ!」


 この4人に対して何の発言もしていないのにとんだ僕の評価だ(笑)。

もはや勝手な被害妄想である。しかし、こういう発想に一度なってしまうと説得をするのはかなり難しいと思える……。


 誰もが工藤君や里山のように協力的なわけでは無いのだ。これまでが上手い事仲間を集めることができていたに過ぎない。


 リアルでも足が速いのだろう。僕達から逃避するためもあってかかれらはかなり足早に走って立ち去っていった。あっという間に見えなくなった。


「う、ウアァーッ!」


 しかし、彼らが角を曲がってからものの1分もうめき声のような叫び声が聞こえてきた。

 ただ事では無いと思い僕達も向ってみるとそこにはゾンビのような爛れた皮膚のNPCが彼らを包囲しており1人は既に生き血を吸われていた……。


「クッ! 言わんこっちゃない! 一緒に協力すればまだ分からなかったものの! 虻利流抜刀術!」


 ゾンビは非常に弱くあっという間に消え去った。

 無事だった残り3人に関しては蜘蛛の子を散らすように逃げていってしまった――仲間をあっという間に見捨てていってしまったのは正直言って僕は呆れた。

 もしかすると価値観がたまたま同じだっただけで”仲間“とすら思っていなかったのかもしれない。

 

 僕はあんなヤツラには絶対になりたくないなと思った。


「だ、大丈夫か?」


 僕は残された1人に恐る恐る近づいた。今のところ死んだようにピクリとも動かない。

 死んでしまったのではないか? ――と思った瞬間だった。


「ウガアアアアアアア!」


 ゾンビのNPCを斬りつけて倒したが、手遅れだったのかもしれない……。

これがNPCに取り込まれてしまった人間の末路なのか……最早、人間が発する音声では無い。

洞窟の中を強風が吹き抜けたような叫び声だ。


 僕はどうすれば良いのか分からなくなった。この“人”を斬って良いものかそれともまだ“戻る”可能性があるのか……。


「虻輝さん危ないっ!」


僕は一瞬迷って動きが止まったのを見かねたのか建山さんが風魔法でNPCに取り込まれた1人を吹き飛ばした。


「グガアアアアアア!!!!!」


 僕は呆然としながら存在が消えていく“元人間”を見守っていた。


「何をやっているんですか……あのままだと虻輝さんも取り込まれていたんですよ!?」


 建山さんが青筋を立てながら今までに見たことが無いような表情で怒っている……。


襲ってきたのだから斬りつければ正当防衛になるのだろうし、もうNPCに取り込まれてしまっているのだから手遅れだというのも分かっている――それでも直前まで人間だったのに斬りつけてしまうというのはかなり気が引けた……。


「ああ……済まない……。次から気を付けるよ――多分」


 だが、そう思ったところで建山さんに対しては素直に言うことをこの場だけでも聞いておかないとマズいような気がした。


「……お人好しなんだから」


 ポツリと呆れるような声で建山さんは漏らした。直前の怒りの表情ではなくふと子供っぽい顔になった。だが、それも一瞬だった。


「や、やっぱり僕の仲間ももうダメなのでしょうか……先ほどの人のように我を失って……」


 工藤君が嗚咽の声を漏らしながらその場でうずくまった。

 何と言ってあげれば良いのか正直なところかなり困った……。

 建山さんの違和感については一瞬で脳裏から去り、“工藤君をどうにかしなくては“という気持ちになったが――正直かける言葉が無かった。


 真実を伝えるわけにもいかないので嘘が苦手な僕としてはあたふたするだけだった……。


「……今現在は解決方法が無くても我々が無事に生きていれば助ける方法が見つかるかもしれない。ここで自棄になってはいけないよ」


 輝成が工藤君の肩に手をやりなだめてやっていた。こういう大人の対応と言うのは非常に助かる。

 今は本当に個々人の気持ちを強く持って行かなくてはあっという間にNPCに取り込まれてしまうだろう。


 僕も動揺している場合では無かった。もうここは命のやり取りをする戦場なのだ。

 最悪隣にいる仲間が取り込まれてしまえばオカシクなってしまう程に過酷な戦場だ。

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