第44話 外部との連絡
小早川為継と丸山が虻輝の状況を分析し、さらに情報を収集していた。
そんな中で、思わぬ情報が丸山の下に入ってきた。
急いでその情報を精査し、精度を確かめる――その内容は本当と言うことが、認証機関などによりすぐさま確認された。
「小早川さん、報告です! アメリカのコスモニューロンのサーバー管理システムが物理的に破壊されて、そこからウイルスを強引に侵入させていた模様です! そのために虻輝様のなさっていたゲームであるヴァーチャリストに18時50分時点からログアウトできなくなったとか……」
小早川は思わず舌打ちをした。本来の彼であればそんなことはしないで見た目上の冷静さは最低でも保つはずだ。
「……セキュリティ上は問題が無くとも物理的な脆弱性を付いてきたか。世界中のサーバーについても厳重な警戒が必要なようだな」
主にバーチャル世界からのハッキングを想定してサーバーやシステムの管理は行われている。物理的な介入に関してはあまり考慮されていないのだ。
「大王局長も同じようなことをおっしゃっていました。特に日本ではまだしも海外のサーバー管理につきましては、海外に任せてありますからね……」
「今後はより海外に対する虻利家の管理が強くなりそうだな――物理的に破壊した犯人と言うのは捕まったのか?」
「ええ。直ちに捕まったようです。ただし、ウイルスの侵入を許した上に、そのウイルスの作動に関してはコスモニューロンで待つ別の仲間に拡散された模様と言うことです」
「つまり、捕まえたやつらは一味に過ぎないと言うことか……」
「恐らくはただの“破壊屋”であり運び屋”に過ぎないと思われます。まず極刑が言い渡されそうですから本当に愚かですがね」
「ああ、本当に愚かだな。しかし、全世界的に能力を持っている者と持っていない者の間で格差社会が進んでいる以上、死をも恐れぬ奴らが特攻の精神で我々に挑戦してきているのかもしれない。それも各個が別々の役割を担っているから厄介だ」
「そうですよね。今は中々組織犯罪に関しても対応がより難しくなってきている気がいsます。AIの監視すらも潜り抜けていますからね」
「それはともかく、虻輝様に直接連絡が取れるようにならないか? 内部の事態が分かれば好転する可能性も上がるし、様子を掴むことができる」
コスモニューロンシステム全体のウイルスを除去する人員はこの2人とは別に科学技術局の者が動いている。
身体的容態が安定している以上は、この2人に現在の任務は虻輝と連絡を取って連携することだった。
「そうですね……コスモニューロンのシステムを介して対話を行うと危険性を伴いますが、脳の神経細胞に直接働きかけることで対話をすることが可能かもしれません」
「なるほど、脳波に対して働きかけるシステムを造ってみよう」
小早川はシステムエンジニアとしては大王と並ぶほどの人類最高クラスの腕を持っており、15分ほどの時間で完成させてしまった。
「小早川さん。一体どの程度の範囲の被害が起きているか調べたところ、虻輝様がプレイされていたヴァーチャリストと言うゲームに限られているようです。
これがその当時に参加していたメンバーの一覧です」
丸山は小早川がシステムを造っている間に被害状況を確認し、リストを小早川に渡した。
特別のアクセスを行っているために個人情報データも綿密に記載されている。
「ふむ……噂で聞く限りにおいては世界的なゲームだと思っていたのだが、予想よりも国籍はばらけていないのだな。日本やアメリカがほとんどではないか――何……輝成の名前がある。
住所などを見る限り本人に間違いないな。
輝成はある程度はゲーム好きではあるが、偶然にしては出来過ぎているな? 原因究明のし甲斐はありそうではあるがな
私のシステムの健康状態へのチェックを頼む」
「はい。分かりました。しかし、小早川さんこれを見て下さい。
虻輝様と北条さんは同じチームである上に、更に特攻局関東テロ対策本部長の律野さんもいるようです」
「ほぉ……必然かそれとも偶然ならば天の采配か――いずれにせよ虻輝様のチームと連絡を取ることの意義と言うのが更に上がって来たな。
私の作ってみたシステムは健康への影響は大丈夫そうか?」
小早川は特攻局と連携を取り、情報を仕入れるとヴァーチャリストというゲームでは昨今テロリストの温床になっている可能性が高いという話があった。
世界大会とは関係ないゲームに虻輝が参加していることは稀なために、よりにもよってこんな時にと言う感じはしないでもない。
しかし、一方でこれはテロリストたちを一掃するチャンスでもある。
「なるほど……これは由々しき事態だな。だが、一気に解決できる糸口が密かもしれない。
内部の状況について分析してみて、虻輝様と連絡が取れそうならばとってくれ。
勿論健康状態に影響が出そうなら連絡を試みる必要は無い」
「分かりました」
丸山は小早川の指示にテキパキと答え、あらゆる数値に注意を向けながら虻輝の脳に電極を入力するなどの調整を試みていた。
「多少本人は頭痛などを感じることはあると思いますが、これで限りなくリスクはゼロに近い状態だと思います。小早川さん、連絡してみて下さい」
「分かった。もしもし、虻輝様? 聴こえますか? こちら小早川為継です。聴こえるのでしたら応答願います」
しかし、聞こえてくるのは「ザッー」と言うような雑音ばかりだ。何らかの調整が必要のようだった。
「ふむ……どうやらもう少し言語を認識できる神経に近づけてくれないか? コスモニューロンの近くの神経が出来ればいい。無理にとは言わないがね」
少し危険な賭けだが、丸山の腕は確かだ。小早川は彼を信じたかった。
「分かりました。出来るだけのことはやって見せます」
丸山は1ミクロン単位での調整を行う。コスモニューロンが繋がっている神経と接触してしまえば小早川が新しく作ったシステムにウイルスが感染してしまいこちらの機器が壊滅するリスクまであるからだ。
5分後、額に汗を浮かべた丸山が笑顔で小早川の方を振り返る。
「出来ました。今度は自信があります。もう一度試してみて下さい。随時細かい調整は行っていきますので」
「分かった。もしもし、虻輝様。聴こえますか? こちら小早川為継です。聴こえるのでしたら応答願います」
2人とも息を飲むようにして反応を窺った。先程とは違い何やら音声が入ってくるのが分かった。




