第43話 取り込まれた者の末路
カチッ!
誰かが潜伏していないか何かこの状況を打開するヒントは無いかと屋上を探していると、何かが作動した音が足元でした!
なぜ僕は他人に対して注意をするとすぐに自らフラグを回収してしまうのだろうか……。
「危ないっ!」
またしても輝成に突き飛ばされ、僕の足元が爆発する。輝成のお陰でいつも履いている靴がちょっと焦げた程度で何とか済んだ――本当に危なかった。心臓がバクバクと動いているのが分かった。
「不覚でした……見えない装置があるとは……」
警戒した輝成すらもトラップに引っかかるような高度なものだと!? 一体どんなトラップなのかは分からないが助かったのは間違いない。
「いや、気にするな。建山さんも無事そうで何より」
建山さんは鋭い目つきで何かを探し、ある1点で停止する。
「そこに隠れているのでしょう? いつまでもコソコソしていないで出てきなさい!」
建山さんがギョッとするような迫力で一喝すると、黒影が降りてきた。どうやら中学生から高校生ぐらいの少年のようだった。
「お前たちは“まだ”大丈夫なのか?」
「“まだ”ってどういう意味だよ?」
そんな意味不明な問答をしている最中に少年の真後ろからヌッと大きな腕が伸びてくるのが見えた。木の木目色をしたゴーレムだ!
「虻利流抜刀術!」
僕は咄嗟に少年を庇うようにして身を翻し、一気に抜刀した!
「援護します!」
建山さんが風魔法を使ってゴーレムの脳天に直撃させた。輝成が更にトドメの攻撃を加え、素早く倒すことに成功した。僕たちの連携は状況が変われど万全と言って良かった。
「はぁ……はぁ……危なかったな。大丈夫かい?」
僕は息を切らしながらも小柄な少年を何とか攻撃から守ることができたようだったことに胸をなでおろした。
しかし、先ほどまでとは違い抜刀動作をした時の反動か……腕がとんでもなく痛い……。
少し時間差があって足首もヒリヒリしてきて立っているのもやっとの状況になった……。
「な、なんとか……しかし、あなたたちはウィルスにまだ浸食されていないようですね」
「何? どういうことだ?」
「ウィルスに侵食されていると、あのNPCのように集団になって襲ってくるんです。
そして、捕まればあの集団の仲間入りになってしまいます」
「一体どう言うことなんです?」
「どうやら、システムの主要部分がウイルスに感染してログアウトが出来なくなっている上に、人間がそのウイルスに感染してしまうと暴走して無差別に攻撃してしまうようなんです」
「だから僕たち先程から攻撃していたのか……」
「ええ、申し訳ありませんでした」
僕たちは皆年上のためか少年は、先ほどはぶっきらぼうな口調だったが、かなり恐縮しているようだった。
「いや、理由が分かれば問題無いよ。訳も分からず理不尽に攻撃を受けていたわけじゃないんだからね」
「って、よく見るとあなたは虻利虻輝5冠王じゃないですか! アバターでそういう人と戦ったんですけど、実際に参加されているとは……。あ、申し遅れました僕は工藤健介って言います」
先程まで自分の体の状態を確認していたためか僕の顔が視界に入っていなかったようだ。
そして気づいた瞬間、工藤君はバッと思わず飛びあがったのはちょっと面白かった。
「いや、多分その戦ったアバターの人と僕は同一だね。あんまり言いたくは無いけど、匿名性のゲームでは基本的には自分のアバターを使わないと何だかしっくりこなくてね」
「そ、そうだったんですか……まさかご本人とは……。ちなみに僕は忍者メンバーを率いていたチームのリーダーでした」
意外と気づかれることは無いんだよな(笑)。個人情報について詮索すると規約違反と言うタイプのゲームが多いというのもあるけど
「あぁ、あの時の忍者リーダーか……結構勝つのに手間取ったよ。押し引きが結構巧みでね。中々の実力者だと思ったよ」
「へへへ、ありがとうございます」
工藤君は頬をかいてとても嬉しそうだ。仮にもeスポーツ5冠王から褒められたのだからそれはそうか。
「それより状況を整理したいから色々と知っていることを教えて欲しい。
先程はウイルスに感染するとNPCのようになってしまうという話を聞いたが、
どのようにして感染するんだ?」
「ウグッ! そ、それは……!」
直前まで明るそうに話していたのに急に何かを思い出したように泣き始めたので僕は当惑した。
「ど、どうした?」
「じ、実はもう仲間はもう……。ウィルスに取り込まれてNPCの一味にッ……!」
工藤君は更にウワッっとその場に泣き崩れた。建山さんがサッと寄り添ってハンカチを渡している。
僕は、あの2人についてそんなに詳しくは無いが最後にエールをくれながら僕に第5階層の鍵を解除するための球をくれた2人の忍者の顔が脳裏に浮かんだ――ゲームはあまり得意では無さそうだったがとても人の良さそうでかなり好感を持ったものだった……。
工藤君も先程までは、NPCの大群が目の前にいたり、僕達と戦っていたりしてある意味切り替えていたのだろう。
「NPCにやられてしまうとどうなるんでしょうか……」
工藤君が暫くすると泣き止むとそういうことを聞いてきた。幸い敵やNPCからの影響がその間に無かったのは非常に助かった。
「建山さんどうなると思う? 特攻局の過去の事案と比べてさ」
「……さぁ、個々の状況の差もありますから断言することは難しいです。
ただ、一つ言えることとすれば“何もなかった人“と比べるとあまり良い状態では無いでしょうね」
建山さんはハッキリとは言わなかったが、表情は冴えない。恐らくは無事では済まないのだろう。
セキュリティが破壊されている状況でNPCに脳の神経を捕らわれているともなれば確かに……だが、明日は我が身かもしれないと思うと全く他人事とは思えなかった。
「そちらの方は特攻局出身だったんですね。どうりで凄いオーラだと思いました……」
僕も同じことを思った。見た目としてはちょっと背の高い女性だなと言う感じなんだけど、話してみると凛とした声が周りを圧倒させるのだ。
「ちなみにこっちの輝成は警察出身な。このように結構恵まれたメンバーで戦えたのが要因で無事に優勝できたんだよ」
「そりゃ、世界王者と特攻局と警察の3人じゃぁ強いですよね。あれがトップチームの強さか~。
ウチのチームは忍者が好きな3人で募集しました。今日初めて会った仲でしたが捕らわれてしまうとなると……」
まぁ、心が氷のように冷たい人間でなければ一緒に戦ったメンバーが変わり果てたような状態になってしまえば嘆きたくもなるだろう。
「今後の方針としてはどうしましょうかね? やはり情報収集を続けるしか無いでしょうか?」
「外部と連絡がつかないと打開策も見出せないな……玲姉や為継と連絡がつけば何とかなるかもしれないのだが」
「どうしてそもそも外と連絡が取れないんでしょうか? コスモニューロンのシステムにエラーがあるんでしょうか?」
工藤君は目を赤くはらしながらとても不安そうな表情をしている。何とかしてやりたいとは思うし、仲間だった忍者も救い出してやりたいと思う。
「工藤君。これも外部の情報が分からないので何とも言えないんだが、ゲームのサーバーとコスモニューロンの両方にダメージがかかっていることは間違いなさそうだ。
今のところはウイルスが最有力視されているがね」
そんな会話をしていると、僕のコスモニューロンの連絡ツールに「ザッー」っというような雑音が流れ出した!
僕は思わず頭を抱えてその場に倒れ込んだ。それだけ頭にダメージが受けたのだ! 脳に直接何かが流れ込んでくるような感覚だ!




