第42話 味方探し
街にワープすることができないとこれほど不便なのか? と思う程にとにかく移動に手間取った。リアル時間にして30分ほどの間荒野を永遠と歩き続けたのだ。
各ダンジョンの雰囲気を壊さないために周りの情景なども重視しているシステム側の配慮が今の僕たち――いや、2人はスイスイと歩いているから、僕にとってかなり重荷となっているのだ。
「はぁ……はぁ……よ、ようやく街に辿り着いた……」
VR空間の身体能力補正と言うのが薄くなったためか、僕はよろけながら歩き、息も切れてきた……。
リアル空間では僕のスタミナは極めて無いからな(笑)。
ただ、VR空間の身体操作能力に関してはまだまだ自由には効きそうだ……体力面が急激に落ちたのでここぞというところでしか使えそうに無いが……。
「大丈夫ですか?」
「う、うん……普段はインドア派なもんで……。で、でももう大丈夫だよ」
建山さんが僕の気を使って僕の体を支えてくれている。
エラーが起きる前の状況と比べると体中に鉛を吊るしているような気分だ。
本当は全然大丈夫では無く大変残念なことになっている(笑)。
流石に建山さんと輝成は僕のようにこの程度の移動でヘバったりはしない――と言うか2人の移動速度についていこうとしたら僕がボロボロに勝手になったのだ(笑)。
「しかし、街に到着したのは良いですが、先ほどまで盛況だったにも拘らず、今は誰もおりませんな」
輝成が言う通り、街には人っ子一人存在しない。他の皆は無事ログアウトが出来て僕達だけがこの世界に捕らわれてしまったのだろうか……?
空模様も今にも雨が降り出しそうな暗雲が立ち込めており、非常に不気味な雰囲気になっている。
「ふぅむ、とりあえずNPCがいる所に行ってみよう。何か分かるかもしれない。
ただ周囲は警戒をしていかないといけないな」
ほとんどは、対話型の自動NPCにアクセスをすればいいのでマップ上にいるNPCは少ないのだが、一番最初に立ち寄った有料鑑定所に向かうことにした。
「虻輝様危ない!」
元の服装に戻った時点から先程よりも疲れやすくなったのと、思わぬことが続いたのでボォーッとゾンビのように歩いていたら、輝成が急に叫んだので思わず低く屈んだ!
ヒュン! という音が鳴ると共に頭上を鋭利な刃物が通過していった。間一髪で首が飛ぶところだった……。
「ヒィ! 輝成、助かったよ」
もう冷や汗で服がベタベタだ……。
「しかし、一体誰がこんな装置を造ったのでしょうか。恐らくはセンサー式のトラップだったようですが」
建山さんが周囲を見分しながらそんな私見を述べていた。
「人為的に造られたものなら、誰かが周囲に潜んでいると言うことだ。おおぃ! 隠れてないで出て来いよ!」
挑発をして出てくるかどうかは知らないが、他にAIやシステム以外での人間がいるのなら協力できる可能性がある。
しかし、反応は無く更に手裏剣による攻撃が始まった!
「クッ! 容赦無しってことかッ!」
しかも、今度は四方からの攻撃だ! 僕たちはたまらず施設に入った。
「こちらからの呼びかけにも応えずむしろ攻撃を更にしてくると言うことは、AIの自律型の可能性は低そうだ。意思がありそうだからな」
「ということは、仲間になってくれる希望もありますが、より厄介な敵が増える可能性もあると言うことですね?」
「っっと、建山さんそう言うことだよ」
思わずチェリーさんと返事したくなってしまった……。声のノリは同じなのでつい言ってしまいそうになるのを毎回堪えている……。
ドドドド……! 何やら地響きのような音が鳴り響きまさしく地面が揺れ出した。
「地震か!?」
「あ、虻輝様あれを見て下さい!」
輝成が指した方角からは無数のNPCと思われるドラゴンやゴーレムのような敵が押し寄せてきている! その数およそ大小含めて50体はいるだろうか……。
見たところ比較的序盤のダンジョンの敵が多めではあるが、たった3人で相手できる次元では無い。
今現在回復薬などがどの程度効果があるか分からない以上、迂闊に戦うことも出来ないのだ。
「あ、アレだけの数を相手にするのは無理だ。とりあえずは、施設の中に入ろう……先ほどの攻撃をしてきた奴らがいるかもしれないが、あの数のNPCを相手することを考えたら人間を相手したほうがマシだろう」
「分かりました」
僕たちは急いで施設内に入った。どうやら施設内にはあまり攻撃をしてこないようで小さいドラゴンを蹴散らしたところでドアを無事に閉めることができた。
真っ暗でどこだかパットは分からなかったが、よく目を凝らして近くのモノを見て見る。
――どうやら、ここはつい先程まで僕がカジノでスッてカラフルな代で突っ伏していたところだ。
「あのNPCの大軍を防ぐためにここら辺の椅子や机などを使ってバリケードを造ろう。
3人で太刀打ちできるレベルの数では無い。ただ、各個粉砕をすることができれば個々のレベルはそう高いモンスターはい無さそうだから、そうやってどうにかやり過ごすしか無いだろう。
理想はこのゲーム内に取り残されている同志との連携が出来れば何とかなるかもしれないがね……」
「そうですね。私がバリケードを作りましょう。椅子や机などを持って来て下さい」
輝成がまるでジャグリングでもするかのようにヒョイヒョイと椅子や机をドンドン積み上げていく。僕が持つとその都度腰に大ダメージが喰らう程の重さなのだが(笑)。
建山さんも細腕にも拘らず僕が持てば骨折しそうなぐらい重そうな机をひょいと持ち上げたりしている。
「ここは比較的大きな施設ですから他にも隠れていらっしゃる方がいるかもしれませんね。
施設内の案内図を見ますと屋上があるようですからそこから様子を窺っているかもしれませんね」
建山さんは先ほどまではゲームの細かい仕様に苦しんでいた様子があったが、
流石に特攻局の幹部になっているだけのことはある。物凄く活き活きとしてキビキビと僕たちに暗に指示してきている。
恐らく現在の僕たちの能力評価はリアルの能力+ゲームでの技術を足して2割ったぐらい――かむしろリアル寄りの能力評価と見て良い。
つまりはゲームがある程度できる上にリアルでトップレベルの実力がある僕の目の前にいる2人がかなり最高峰の力を持っていると言って良かった。
「なるほど。先程のトラップも見えやすい場所から操作している可能性もある。行ってみよう」
この施設内のシステムがダウンしているせいか相変わらず暗いままだが、動いているうちに、最初はあちこちにぶつかってばかりだったが次第に視界が開けてきた感じがある。
「あそこが階段のようだな行ける所まで行ってみよう」
どうやらエレベーターなどの便利な機械は全て機能を停止しているようだ。
見渡す限りのあらゆるロボットも停止しており、先ほどまであれほど賑やかで華やかだったカジノ施設は、NPCの攻撃や今作ったバリケードによって誰からも忘れ去られたような廃墟のような感じになりつつあった。
「足元にも色々と転がっているようですから気を付けて下さい。
大きな物は私が取り除きますが、それでも取り除ききれないのがあると思うので」
輝成が僕達より前に出て先導を始めた。僕と建山さんはかなり細いので、2人を覆い隠そうとすることも出来るその背中はとても頼りになる。
上に行く階段が無くなりここが屋上のようだ。輝成が手をかけて音をたてないようにして開く、薄明かりがこちらにまで伸びてきた。
そして輝成は顔だけを少し出して様子を窺っていた。その所作は流石はプロだ改めて思えるほどに自然かつ隙の無い動きに見えた。
「誰もいません。大丈夫のようです」
その言葉を聞いて建山さんがサッと動き出した。僕も遅れまいと建山さんの後ろに付く。
「油断はしないことだ。先程も斜め上からの攻撃があった。屋上に潜伏している可能性が高い」
屋上にタンクや柵があるので隠れる場所が多い。更に暗がりのためによく分かりにくい。
細心の注意を払って周りを確認する必要がある。




