第36話 隠れたチーム
僕がいよいよ最後の総仕上げと言う感じでトーテムホールに球を嵌めこんでいき、いよいよ最後の1つと言うところになった。
僕は感慨深い気持ちで嵌めこもうとしたところ、背後からガッといきなり止められた。
「あっ! まだ最後の1つを嵌めこむのは待ってください! ふと落ち着いたところで私は今、とんでもないことに気がつきました! 宝箱のトラップに嵌まったのが銀髪のチームなら、もしかすると他にもう1チーム存在するのでは……!?」
僕は体中に鳥肌が立つのが分かった。チェリーさんの言うとおりだ!
これまで宝箱の爆発で1チームが既に離脱した前提で話をしていたが、銀髪のチームがトラップに引っかかっていたというのなら話は根幹から変わって来る!
チェリーさんに止められていなかったら“何も苦労をしていないダークホース”に横取りされてしまうところだった……。
「マジだッ! な、何と言うことだ……球をこのトーテムホールに入れる前で良かった……。
他のチームに倒されている可能性もゼロでは無いが、離脱するのをこの目で確認をしていない以上、どこかに潜伏している可能性もあり得る。チェリーさん素晴らしい気づきだよ!」
何という失態だ……これまでの苦労が水の泡になりかねない……穴があったら入りたい気持ちにもなった。
「いかがしましょうか? 問題は宝箱のどれが爆弾でどれが宝物が入っているか分からないと言うことですが……」
「クリーさん。それはハイエナのように狙っている相手も同じことだ。むしろ、相手の狙いが分かった以上、こちらがタイミングを決められるインセンティブはこちらが持っていると言える」
「ただ、ここで球を嵌めこむ要員として一人は最低でもいる必要があると思うのですが……」
「2対3になってしまうのは確かに痛いが、ここまで争奪戦に参加していなかったことを考えるとあまり戦いに自信が無いのかもしれない。
ある程度の実力があったとしても相手の攻撃を耐えるだけなら僕が専守防衛をすれば時間稼ぎをするのは容易だ」
第4階層では1対3や1対2の局面を紙一重とはいえ乗り切ったしな……。
「テルル中将さんのこれまでの実力を考えると多少無理をされても大丈夫だというのはよく分かります……。でしたら、私が球を嵌めこみますのでチェリーさんとテルル中将さんのコンビで宝箱に向かっていただけませんか?」
「えっ……私がですか?」
「ええ、私が思うにチェリーさんの方がテルル中将さんとの連携がうまく取れていると思うんです。テルル中将さんはどう思われますか?」
「そうだね……遠距離攻撃のチェリーさんがいてくれた方が対応の幅は広がるというのはあるね。前衛が2人いてもしょうがない局面が多いし」
「かなりの重責で、私に務まるか分かりませんが……テルル中将さんもそうおっしゃるのでしたら向かわせていただきます」
とチェリーさんは答えたが、心なしかどこか嬉しそうではある。
「それじゃ、チェリーさん行こうか。宝箱前に到着して相手の位置を確認したらすぐに連絡を入れるから直ちに嵌めこんでくれ」
「分かりました」
僕が走り出すとチェリーさんもすかさず続いていった。方針が決まったのならば時間が惜しくなったからだ。
“宝箱”が散乱している地帯が見えてきた。僕たちは歩みを遅め様子をしきりに窺った。
「あの……どうしてこんなにも慎重に進む必要があるのでしょうか? もしかすると、私たちが倒した2チームによって倒されているという可能性もあると思うのですが
相手チームがどこにいるかを確認する必要までは無いのでは?」
「やはり、僕達が残り1チームがハイエナのように狙っていることに気づいていないと思わせたほうが良い。
なぜなら、相手としてもずっと待っているだけなので油断している瞬間があり、そこでチャンスがあるからだ」
「なるほど、こちらが気づいたと言うことが分かってしまえば警戒しますからね」
「何だかんだで、いつ攻めてくるか分からない状況と言うのが一番油断していたり、
緊迫しすぎて疲れているというケースが多いんだ。
こういう相手の動きが分かりつつ、こちらの動きが分からないようにする状況を作っていくことが大事になる」
「凄く勉強になります……」
勉強になります……と謙虚そうに言っているが、その吸収力は計り知れない。
リアルの所在や職業が分かれば状況次第ではウチのチームにスカウトすることもあるかもしれない
「ということで、こちらが宝箱の地帯に迫っていると言うことを察知されないようにしなくてはいけないわけだ。
勿論チェリーさんが最初に言ったように既に他のチームによって倒されている可能性もあるから、そこは時間をある程度のところで区切ろうとは思うけどね」
「分かりました。心して最後のチームを探そうと思います」
僕たちはなるべく他の宝箱から死角となるような位置取りを取りながら、足音を殺して進む。すると、僕たち以外の話し声が聞こえ始めた。
どうやら、宝箱に爆弾が仕掛けられていると言うことを把握しているためか、宝箱から少し離れた森の繁みから声が聞こえてくる。
僕は見つけた瞬間しめたと思った。
僕達も森の繁みの方に移動し始めた。
「しかしさ、いい加減待つだけって言うのも飽きて来たよね」
「仕方ないだろ。今更、この宝箱を開けるための鍵を探すなんて不毛だからさ。
こうして待つのが一番効率が良いし安全なんだ
他のチームに対してもほとんど見つかっていないから既に敗退したと思い込んでいるに違いないんだから」
迷彩服の3人がコソコソと会話をしている。僕たちが予想していた通りの思考法をしていた。
「だけどさ、いい加減何もせずに待つのも面倒だよ? かと言って他のどんなチームが今残っている分からないから、他のゲームをしているだけの余裕があるわけでも無いし 仮に宝箱の中身を強奪できなかったら、待っている時間が無駄だよ?」
「それでも、実際のところはこうしてだべってるだけなんだから仕方ないだろ。逆を言えば上手くいけば他人に働かせて利益を得ることができるんだからさ」
そこまで聞いたところで聞き耳を立てるのは止めた。あまり生産性の無い会話を永遠と続けていそうだからだ。
こちらにはとにかく気づいていなさそうなのでそれだけは良かったと言える。
“チェリーさん、奇襲を仕掛けよう。宝箱の爆弾が爆発すると同時に攻撃を仕掛けるんだ”
僕は声を出したくなかったのでメールでチェリーさんに声をかける。
“なるほど、注意がそっちに向かいますからね“
チェリーさんもそれを分かったのかメールで返信をしてきた。
僕はクリーさんに連絡をした。少しやり取りをするとすぐに理解をしてくれて爆発する時間を見計らってくれると言うことだった。
“突然だけど今から1分後にクリーさんが球を埋めるらしい。援護を頼むよ”
“分かりました”
やけに1分が長く感じられる。自信はあったが、相手もここまで勝ち抜いてきたのだから生半可の実力では無いと思っておいた方が良い。
チャンスは1回だけだ。
ドーンッ! と言う、心臓が飛び出しそうになる轟音が1つ鳴り響くと、続いて何発も爆発音が鳴り響く!
「ウヒョー!」という迷彩服の奴らと思われる声が聞こえてきた。いよいよ自分たちの時間だと思ったのだろう。
“チェリーさん付いてきて! 僕が攻撃する敵をメインに攻撃して欲しい!”
“分かりました!”
僕が走り出す。宝箱が爆発している爆音が凄まじすぎるので、こちらの動きについては気づかない可能性が高い。むしろ今が最大のチャンスだ。
「電撃抜刀術!」
僕は装備が弱そうな1人の背後にサッと回り込むと、後ろから一気に斬りつけた!
「私も続きます!」
「ぐわあああああ!」
チェリーさんの攻撃もうまく連携され、あっという間に敵のHPはゼロになった。
完全に奇襲は成功した!
「な、何でコイツらここにいるんだよ!」
必死になって応戦しようとするが、完全に油断しきっていたので、残る2人もあっという間に気に追い詰められていった。
「2人とも大丈夫ですか!?」
クリーさんが後ろから攻撃したので更に1人が崩れる。そこをすかさず僕達も畳み掛けた。
「チ、チクショー! 次があったら覚えとけよ!」
最後のリーダーと思われる男も倒し、ついに最後のチームも完全に倒しきることができた。
僕はついに成し遂げたということよりもホッとした気持ちの方が大きかった。




