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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第1章 歪んだ世界で生きる者
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第11話 予想外の出迎え

 あの後、美甘に自宅まで送られたが、車の中では寝ていた。気が付けば、門の前に立っているという感じで爆睡して帰ってきた。


 門の前ではやや強い風が吹く、外は寒いので夢見心地で帰ってきたのが現実に連れ戻されたような感覚がある。


「うーん、何と言ったらいいんだろう……」

とにかく大変な一日だった……時刻は20時5分前というところか。


 全身の疲労感が凄く、さっさと家に入ってご飯を食べて風呂に入ってまた寝たい。

 しかし、今朝喧嘩別れをして出てきたのでいかんせん玲姉とまどかの2人に顔を合わせづらい。


 この家の構造上、一時的にでもセキュリティを解除すれば中にいる人物にも確実にわかる。そのために、美甘を帰した後、玄関前で立ち尽くしているというわけだ。


「あるぇ~不審者かと思ったら虻輝様じゃないですかぁ」

 暢気な声が柵の内側から聞こえた。


「おぅ、烏丸か」

 常にニヤついた表情でいる僕と同じぐらいの身長の男は烏丸達彦。高校1年生の年齢のはずだが、学校には全く行っておらず気が付けば僕の周りで家事手伝いみたいなことをしている。


 まぁ、出席日数ギリギリラインを常に推移していた僕はこのことについて言及は出来ないが(笑)。


 特に烏丸が好きで重点的にやるのはガーデニングで、ウチの草木は彼によって瞬く間のうちにオブジェのようなものに変えられていった。

 特に圧巻なのは庭の中央にある高さ10メートル近くはあるであろう白馬のオブジェだ。あれが草木で出来ているんだから驚きだ。

 まぁ、庭に興味は無いし、最低限の仕事はこなしてくれているので問題はない。


「ところで、何でそんなところで突っ立てるんです? 突然、案山子にでもなったんですかねぇ?」

 口調は丁寧気味だがこんな風にどうにも、雇い主であるはずの僕に対して敬意を感じず気安く話かけてくる印象だ。

 まぁ、しかし仕事はきちんとこなしてくれるし、とにかく憎めないやつなので無理に訂正しようとは思わないがね。

 

ただそんなちょっと変わり者の烏丸でも、今のこのなかなか家に入りたくない状況の中では有難かった。


「今朝、僕が玲姉・まどかと喧嘩したのは知ってるか?」

 例によって烏丸はその時ガーデニングで不在だったので直接は目撃されていないはずだ。


「知ってます、知ってます。あぁ~なるほど、フフッ。つまりは、2人に合わせる顔がないってわけですね?」

 烏丸はまるでいたずらっ子が弱みを見つけたかのような笑みを見せる。


「ぐっ……そうだ」

 僕は足元にある石を見つめる。事実をピタリと指摘されて完全に敗北したような気分になる。

ちなみに皆さんご存じでしょうか烏丸より僕の方が4学年年上です。そして雇い主側の人間です……。


「でも、大丈夫だと思いますよ。お二人ともご飯を食べずに虻輝様の帰りを待っているぐらいですからね」

 僕はバッと顔を上げた。


「えっ……7時前に先に食べておいてとメッセージ出したと思ったのに……」

 意外だった。特にまどかとは決定的に関係に亀裂が入ったとばかり思っていた。


「まぁ、なんだかんだ仲がいいじゃないですか? 僕はいつも微笑ましくコントを拝見させてもらっていますけどねぇ」

 何がコントだ……しかし2人が怒っていないと聞いた安心と今日の疲れが押し寄せてきたのでもう突っ込む気力も起きなかった。


「ふぅ……とりあえず、僕が帰らないとあの2人の性格からしてご飯を食べ始めてくれなさそうだから入るか」


「その方が良いですねぇ~」

 烏丸なりの気遣いなのか知らないが、話しているうちにとりあえず先ほどよりかは気が楽になった。


「た、ただいまー」

 恐る恐るドアを開けると。小さな体が直ちに飛び込んできた


「もおっ! メッセージの返信に返してくれないから心配したんだから!」

 その言葉を聞いてコスモニューロンのスイッチを入れると、確かにまどかの鬼気迫るほどの迫力の僕を心配するメールが何通か来ていた。


「スマン、車の中で爆睡していた。てっきりサッサと夕ご飯食べてくれるものだと思っていたからな」

 それにしてもこのいつものやりとりはやはりリラックスできるな。これまでは煩わしいと思っていたことの方が多かったけどさ。


「輝君。お帰りなさい。今から温めておくわね」

 玲姉はホッとしたような表情をしている。どことなくホカホカした雰囲気が特に髪のあたりに感じたので、どうやら2人はご飯を後回しにしてお風呂を先に入ったようだった。

とにかく2人の顔を見て五体満足で帰って来れてよかったと心の底から思えた瞬間だった。

 

夕ご飯は僕の好きな料理の一つである鳥のから揚げを中心とした中華風料理だった。料理がとても美味しいこともあり今日のことがスムーズに話せた。


「なるほど、今日はとても内容が濃い一日だったみたいね」

「そうそう、いろいろ考えたり体を動かしたり頭も体も極限まで疲労した感じだ……」


「そういう状態のところ悪いけど、今後の方針について真剣に検討しなければいけない段階に来ているわね」

 玲姉の顔が突如として真剣な表情になる。現実に強引に引き戻されたような気分になる。


「さ、さぁて僕も風呂にでも入ってくるか」

 サッと立ち上がろうとするとグイっと右腕が引っ張られた。


「ちょっとお兄ちゃん! 何逃げようとしてんのよっ!」

 腕をギュッとホールドされてしまい逃げられない! コイツ……いつの間に力が強くなったんだ……。


「わ、分かったよ……。それで具体的にどういう話なんだ?」

「輝君は凄く今日のことで安心しているようなんだけど、話はそんなに簡単じゃないわよ。特に遭遇した弓の女の子のことね」

 ……僕の助命嘆願もあり、島村さんは怪我も治療してもらえてよさそうに見えたので大丈夫だと思いたい。


「彼女、このままだと無事では済まないわよ」

 僕の安易な考えは一瞬で打ち砕かれる。玲姉いつもより低い声色での言葉に場の緊張感が一気に増す。


「え……彼女は島村さんと言うらしいが、そこまで行くか?」

「そう、島村さんと言うのね。輝君、冷静に考えてみなさい。虻利家当主を殺そうとした殺人未遂だなんて良くて精神を改変や記憶を消されて操り人形。悪くて人体実験で還らぬ人ね」


「ば、馬鹿な……僕が動くか動かないかで変わるとは思えないね。大体大王だって善処してくれるって言っているし」


「輝君は、宝くじって買ったことある?」

「僕は産まれてこの方お金に困ったことが無いからないけど……」

 突然玲姉は何を言い始めているんだ……。


「では仮に、輝君は貯金があまりない一般人としましょう」

「はい」

 いきなりでよく分からないが、玲姉の雰囲気的にとりあえず抵抗せずに素直に話を聞いた方が身のためだ……。


「その状況で輝君に5億円が当選したとしたらどうする? これは、私の経営している美容の会社のお客さんの話を参考にしているんだけどね」

 玲姉の会社は確か美容を専門にしているが服のコーディネートや人生相談などを包括的に行っており、突っ込んだ内容についてもこうして上がってくるわけだ。


「うーん、そうだねぇ……まぁ純粋に嬉しいと思うだろうね。先々の生活には困らなくなるしね。基本的には貯金するかなぁ」

 体験したことがないことを想起することはなかなか難しい。とりあえず、無い頭をフル回転させて想像してみた。


「輝君はかなりのお金持ちの割には、コンビニのアイスが好きだったり、あまり余計な贅沢品を買わないから、確かにそういう感じで終わるかもしれないわね。

でも一般的には違うわ」


「え、違うの?」

「基本的に急に羽振りが良くなったりして浪費癖がついて逆に資産が目減りしてしまったり、周りの多くの人から“貸してくれ”と言われたりして想像以上の不幸が訪れるの」


「ああ……なるほど。浪費癖も治らないって言うしなぁ。あとは突然遠縁の人が出てきて“タカラれている“んだね。そうなったらせっかく5億当選したのに不幸になるな」


 こういうケースは貸しても帰ってこないケースが多い。

まぁ、僕の場合は虻利家は権力も強大に握っているからヘタに金を借りようとする力の無い愚かな遠縁は存在しないからな(笑)。


「ええ、私のお客さんでも何年も会っていない親戚が突然現れて、大変困ったことになっていたわ」


「へぇ、ウチも何もなくても親戚との付き合いは大変だけども(笑)。

それで玲姉はズバリどんなアドバイスをその人に対してしたんだ?」

 

 何気なく聞いたが、それが自分に降りかかるようになる質問とは思わなかった。

 少なくとも何か余計なことを言われないように“上手く回避している”つもりでいる。


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