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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第3章 電脳戦

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第28話 春夏秋冬

「何じゃこりゃ……」


 ある意味予想通りではある。しかし、覚悟をある程度していたにもかかわらず、訳の分からないことが目の前で展開していた。

 

 強い風が吹くたびに目の前の光景が次々と移り替わっていくのだ。その風のタイミングも規則性をあまり感じず、入り口の前で立ち尽くしていた……。


「こ、ここで立ち止まっていても仕方ないので移動しませんか?

 もしかするとここから他のチームが出てくるかもしれませんし」


「そ、そうだな」


 取り敢えずアテは無いが何もしないというのも進歩を感じられない。

 歩きながら議論をしていくと言うことで僕たちは合意した。


 ――もうこんな世界こりごりだ。帰りてぇ~(笑)。最低でも別のダンジョンに進みたいぃ……。

 しかし、僕とは対照的に2人は目を光らせてどうにかヒントが無いかを探している。


 これだけ2人のやる気がある以上は、“帰りたい”雰囲気を出さないように、弱音を吐かないようにして活動していかないとな……。


 しかし10分ほど歩いてもどうにも打開案が浮かばない。そこで2人に提案をすることにした。


「ここで大事になってくるのは“損切り”をどの時点でするかだ。ここはとにかくクリアできるかできないかで決まるから、全く見当もつかなければサッサと離脱をして次のステージに向かった方が良い。

 だが、全く最初から諦めてしまうというのは良くないと思うのでね。制限時間を付けようと思う」


 決してさっさと帰りたいから言っているわけじゃないぞ?(笑)


 とにかくノーヒントでここに入っているのでいたずらに時間を経過させてしまうという可能性がある。第4階層のように明らかに目的や目標が分かっているステージの方がある意味やりやすかった。


 周囲を僕なりに観察してみるとどうやら周囲の足元を踏み荒らした様子からして僕たちが最後の4チーム目のようだった。

 無理もない、相手の武器が強すぎだった。更にイタブられたこともあり、僕たちは大分時間をかけ過ぎてしまったのだから。


「分かりました。――周囲を見回していて思ったのですが、この光景は何というか一瞬で春夏秋冬の移り変わりが発生しているように見えますがどうですか?」


 今の状況とそれまでに見ていた景色について思い起こしてみた――。


「……確かに草木が生い茂り、葉っぱの色が無くなり、枯れて、霜が降り、溶けて、そしてまた生えてくる。この流れにはなっているな。チェリーさん凄いぞ」


「へへへ、嬉しいです」


 チェリーさんの着眼点は素晴らしいものがあった。僕が春夏秋冬と気づけなかったのは、その景色そのものが変化していったからに他ならない。


 また、以前の第5階層に来た時の相方が発狂していたのをなだめるのに必死だったというトラウマからさっさと撤退して損切したいという気持ちが先走ったのもあるだろう(笑)。

 

 なぜその時のメンバーが発狂していたのかというと、前後左右がグルングルンと目が回るように回りまくって、訳が分からないと共に、メンバーが酔いまくっていた。

状況を検討する余裕すらなく、撤退するしか無かったんだよな。僕は幸いアトラクション系統も得意だから全然問題無かったんだけど(笑)。


 過去の経験というのは時として役に立つ局面も多いが、この様に固定観念として残ってしまうのはとてもよろしくないな。

 今回の2人はとても優秀なのだからある程度信じても良いというのに。


「今はまだこれしか分からないので周囲を探索してみませんか? このまま撤退するのはどうしても惜しいように思えます」


 チェリーさんはそう続けた。クリーさんも頷いている。


 しかし、歩いていると次々と気候がコロコロと変わっていくので体感の感覚調整が非常にヘビーな状況になっている。

 慣れてきたと思ったらすぐ次の季節に変わっているからな……。


 だが、そんな弱音も言ってられない。


「そうだな。今回は全く手掛かりが無い訳では無さそうだからな。取っ掛かりが無くなるまで何とかやってみよう」

 

「はい! 分かりました!」


 チェリーさんは自分の提案が受け容れられたので心の底から嬉しそうにしていた。




 そして、暫く歩いて見ると衝撃の光景が目の前に広がっていた。


「な、なんであんなに宝箱が転がっているんですか!?」


 クリーさんが思わず声がひっくり返って叫んでも仕方が無い程に“無駄”とも言って良い程に同じような宝箱が点々と転がっていた。景色が次々と替わっていくのに宝箱だけが残っているので余計に異常だ。

 あからさまにおかしいのが分かるので僕は勿論の事チェリーさんとクリーさんも迂闊には近づかなかった。


「やはりカオスなことになっているな第5階層は……」


 苦笑しながら何か特徴がある物が無いか周囲を見回し、宝箱を観察する。

 そうやって少し観察していると、一つ焼け焦げたような宝箱が既に開いていた。

 僕は警戒しながら少しその宝箱に近寄ると火薬の臭いがした。


「どうやら、宝箱はトラップが仕込まれているらしい。迂闊には開けないように。既に1チーム犠牲になっているようだ」


 ここまで勝ち上がってきたチームでも宝箱の山を前に欲に目が眩む奴がいるもんなんだな……。


「やはり、そういう罠があるんですね。注意しましょう」


 この2人は冷静な判断が出来ているのでとても有り難かった。

意思決定において短絡的な判断は禁物だ。“宝箱が置いてある! 開けなくちゃ!”などと言った感情に左右されるような人間が速攻で消えてしまうので一番困るからだ。


「この宝箱の一帯は避けたほうが良いのでしょうか?」


 クリーさんが首を傾げながら言ってきた。


「うーん、何とも言えないな。ここが本丸だから罠を張っているという可能性もあるし、

 ここが危険地帯だから避けたほうが良いという考え方もある。

 僕の感覚で言うなら前者の方がわずかながら確率が高いと思うけどね。

 宝箱以外にトラップが仕掛けられている確率は低いと見ているんで」


「なるほど……」


「それなら、ここを直進していきませんか?」


「分かった。そうしよう」


 チェリーさんは攻撃的な発想なので恐らくは進んでいくという選択肢を選んでくるだろうと思った。

 クリーさんも反対する様子は無いのでこれで決定だ。


 爆発する可能性のある“偽宝箱”を掻い潜りながら前に進んでいく。


 しかし、ある程度進んだところで前に進めなくなる。いわゆる“事実上の壁”ということで行き止まりになっている。システムの処理能力に一定の限界があるので、一定のところで打ち止めにしているのだろう。


「うーん、行き止まりだったか。リスクを抱えただけの行軍だったな……」


「そうなると、あの宝箱の山はただのトラップだったんですかね?」


「分からない。とりあえず時間の無駄になるから早急に戻ろう。

 取り敢えず宝箱を避ければ大丈夫そうだということは分かったからな

 かと言って油断はできないがね」


 行きはかなり慎重だったが、元の場所に戻るには、基本的に同じ道を通ったので半分以下の時間で済んだ。


「あの宝箱の山について考察してみたのです。この第5階層の謎を解くことができたら正解の宝箱が開くとかそういうシステムなのでは無いですか?」


 宝箱が散乱しているスタート地点に戻った時にクリーさんがそう呟いた。


「ほぉ。クリーさんそれは面白い発想だし、可能性は高そうだね。後は、偽物の宝箱が全て爆発するとかそういう可能性もありそうだ。

 いずれにせよ、あの宝箱の状況がこの階層を突破したかどうかの鍵になる可能性は高そうに思えるね」


「そうなるとやはり、この景色が移り替わっているこの状況について分析していく必要がありそうですね」


「そうだね……しかし、春夏秋冬と景色が移り替わっているというのは分かるが、それ以上のことが分からない」


「私、少し考えていたのですが、それぞれの景色の特徴があると思うのです。

 その移り替わる瞬間に何か大きな変化がある場所に“何か”があるのではないでしょうか?」


 チェリーさんが顎に手を当てながら話し始めた。


「ふむ……そうなると大体だが春になると桜の木が植わり、冬になると氷が大体張っている。ここら辺が大きな変化かな?」


「後は夏の場面になると潮風が吹いているような気がします。塩水は金属を腐食させる力があります」


「なるほど。こういった観点は面白いな。問題は先ほどの宝箱以外の場所で何かきっかけが見つかればいいがね」


 僕は最初から腰砕け状態でいたので、ようやく頭が回り始めてきたという感じだ。


「また手分けをして探しましょうか? 他のチームもいるかもしれないので少し怖いですが……」


「それが良いかもしれないな。ある程度のところまで行けば行き止まりという感じになるしね。この宝箱の大量にあるところの始まりぐらいの場所で待ち合わせをしよう。時間は今度は20か30分ぐらいかな

 他のチームが現れたら直ちに逃げるように」


「分かりました」


 こうして僕たちは3方に分かれた。かけた時間を無駄にするわけにはいかない。必ず結果を出さなくては。

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