第27話 勝利のハイタッチ
「第5階層進出決定戦、勝者はチームテルルです!」
シルクハットの男が消滅すると、直ちにそうアナウンスが流れた。僕はその場で手を叩き、空中に拳を突き上げた。歓声がそれに応えるようにグワッーッとうねりを上げるように沸き立ち、空にはパーン! パーン! と盛大に花火が上がった。
2人の姿が見える。あの2人が耐えてくれたから何とか勝てたのだ。
奇跡的な流れに近い逆転勝利だったが2人が僕の実力を信じていたのも力以上のモノを出せたのだ。
「やったぞ2人とも!」
僕が叫ぶとチェリーさんとクリーさんが花が咲き誇っているような満面の笑みで駆け寄ってきた。
僕たちはハイタッチを交わす! 最高に良い音がパシッと響き渡った。
「ほとんど3対1の状況から勝てるだなんて本当に凄いです! 信じられません!」
「ほとんど泣きかぶりながら見てましたからねチェリーさんは」
「ウッ……クリーさん、言わないで下さいよ~」
「いやぁ、僕としてもほとんど奇跡的に勝った感じだった。負けになるその瞬間が訪れるまで自分の可能性を信じようとは常に思っているけどね」
「私達は本当に何もできませんでした……不甲斐ないです」
「でも、ステッキの男を引き付けてくれただけでも大きかったよ。
1対3の状況で戦っていたら正直絶望的すぎたからね。
その後についても、正直もうダメかと思ったけど2人が僕を信じていてくれている。その信頼に応えたいという一心だったね。実力以上のものが出せたと思う」
途中何故かあった時空の歪みについては説明するのが面倒だから言わないでおこうと思った。僕が過大に持ち上げられることはこのゲームで短期的に付き合う2人にとっては有利になるだろう。
正直、僕はあのワームホールはイチかバチかの勝ち筋として使わせてもらったが、アレはあってはならない存在だろう。
世界大会として最高権威を狙うゲームならなおさらのことだ。
会話をしている最中ながらバグとして運営に報告させてもらった。
「気持ちの面だけでもサポートできたのなら何よりですが、本当なら実際にお助けしたかったです……」
戦闘民族だと僕が思っているチェリーさんは思ったよりも戦えなかったことをかなり悔しく思っているようだ。
「相手がランクが高い武器や装備ばかりを揃えていたからね。ちょっと運が無かった面もあったよね。
序盤はなすすべなくやられちゃうかと思ったけど、相手がいたぶることを重視してくれたおかげで何とか勝ち筋を掴んだという感じだね。
相手のHPがゼロになる瞬間まで勝ちを確信してはいけないなってとくと思ったよ」
最初に捕まった時点でとどめまで刺されていたら一瞬で負けていただろう。
対戦相手の装備に関しては不運と思えるが、総合的に見ると運には救われたと言って良かった。
「やはり上位を目指すためには油断は禁物と言うことですね……」
クリーさんは僕の発想から色々学んでいきたいと思っているらしく、しきりにこういう話になると頷いている。そんな高尚な発想では無いのだが……。
「テルル中将さんといると一般的に言われていることが本当なのだと言うことが身に染みて感じられてとても勉強になりますね。言葉だけで聞かされていても実感が湧かない言葉というのはありますからね」
景親や輝成といる時のように、当たり前のことを言っているのに称賛の嵐大会が始まろうとしていてとても照れた。
「いやぁ、そんなつもりは無いんだけどね。一つ一つの局面を必死で取り組んでいるだけだから」
「私達も必死で取り組んでいかなくてはいけませんね……」
「さて、宝箱を開けるか」
勝利と共に中央に現れた扉と宝箱に向かった。
鍵を開けると赤い色の御守りのようなものが出てきた。
「なるほど、これは体力保証アイテムだね。
即死級のダメージを負ったとしても1回はダウンすることを阻止できるというものだ。
ただし、時間経過をしないとその効果は復活しないから濫用できないようにはなっているがね」
恐らくは黒づくめの奴らはこれを持っていたのだろう。武器も破壊力があって範囲も広く何とも豪華なアイテムを持っていて羨ましい限りではあった。
ただ、羨んでいても勝てなければ意味が無いし、今ある武器や物資をいかに有効活用していくかが大事になって来る。
「それもテルル中将さんが持っていてください。テルル中将さんさえ生き残っていてくれたなら勝てる見込みがありますからね」
「今回の試合でまざまざと見せつけられましたからね……」
有無を言わさない形で僕に御守りを渡された。
僕はお守りを握り締めた。
「分かった。期待に応えられるよう全力を尽くすよ。さて2人とも、もう体力的・精神的には大丈夫かな?」
2人は頷いた。僕はお守りを懐の中にしまった。最後までとにかく諦めてはいけない――そう心から思った戦いだった。
「ええ。花火をいつまでも見たいですけど――所詮これはバーチャルですからね。
時間がもったいないです」
「そうそう。こういう花火がVR空間で見られるアプリがあるからこのヴァーチャリストが終わったら教えてあげるよ。
それより、休んでいる時間は無い。いよいよこのダンジョンの最後の階層である第5階層に向かおうじゃないか」
僕は正直なところ、つい先ほどまで死闘を展開していたので心身ともにボロボロになりかけているが、2人が大丈夫な以上はマッサージソファーで足を投げ出して休んでいるわけにもいかない。
「分かりました。そういうアプリは私も興味がありますね。第五階層は、一体どんなダンジョンなんでしょうか」
「私たちが活躍できるダンジョンだと良いですね。ここまではテルル中将さんにおんぶにだっこ状態で来ていますから……」
2人とも何もできなかったことをまたしても悔いているようだ。
「いやいや、クリーさんは馬の乗り方とかを教えてくれたじゃないか。
チェリーさんの援護攻撃が無ければ勝てない局面も多かったし2人とも欠かせない戦力だよ」
「クリーさん。テルル中将さんの負担を少しでも楽にできるようにしましょう」
「そうですね。今度こそお役に立って見せます」
2人とも意気込みは毎回素晴らしいが空回りしている可能性もあるような気がする――士気が高いのを削ぐようなことになりそうだから言わないでおくけど。
「まぁ、第5階層に入ってみない事には分からないからね。どんな状況なのかによっては即座に撤退もあり得るからね」
そんなことを言いながら第五階層への第一歩を踏み出した。さぁ、天使がうようよ飛んでいるか? それとも悪魔が蔓延っている世界なのか? 一体どんな世界が待っているんだ!?




