第23話 VSカミナリグモ
「第2回戦を開始します! チームテルル対チーム忍者の対決です!」
喜んでいるのも束の間、僕たちがいる会場に次の相手がやって来ようとしていた。
「矢継ぎ早に次の戦いが始まる。皆、休みが無くて大変だとは思うけど気合を入れ直すぞ」
僕は笑顔を消し、再び集中する態勢に入る。2人も僕の声を聞くと真剣な表情になった。
「ふぅん、中々眼つきの鋭い奴らじゃないか。面白い試合になりそうだな」
忍者のような服装をした3人組が現れた。顔の半分が隠れているので得体のしれない雰囲気が漂っている。
「とりあえずは、相手の出方を窺うぞ。ただならぬ雰囲気だし悪い予感がする。
先程のように僕が攪乱するから最初は適当に援護を頼む」
「テルル中将さんがそう言うのなら分かりました。最大限警戒します」
2人は唇をさらに引き締めた。非常に良い表情だ。この2人なら信じられる。
「2回戦開始!」
合図とともに僕は飛び出す。間合いを詰めつつ旋回しながら出方を窺った。
「ほぅ、やはり相当な手練れか。その動き方は只者ではない。だがその機動力を封じさせてもらおう! 蜘蛛妖術!」
何かがリーダーの忍者の右手から噴射された。僕は斜め後ろに飛び退いたが、靴に何か白いものが付着した。
「ん? 何だこれ! 足が地面にくっついて動かない!」
僅かな量ではあるのだが、瞬間接着剤付きの糸のようなものらしくどうにも右足が地面から離せない! まるで僕の脚と地面とが結婚してしまったかのようだ。
「これで終わりだ!」
敵の相方がすかさず僕を狙って手裏剣のようなものを投げてきた。
「くっ!」
僕は片足を軸にしながら、体を逸らしたりクルッと回転させたりしながら何とかして十数本の手裏剣を交わして見せた。
日頃の縛りプレイの賜物か、こういった特異な状況であってもどうにか対処できる――だが、それも交わすのには限度がある。この状況が続くのであればじり貧状態だろう。
「中々しぶとい奴だな……あの手裏剣の量を片足が固定されながら全て交わすとは……」
「テルル中将さん!」
クリーさんが相手が呆然としているのを見て相方に向かって突撃する。
更にチェリーさんが援護攻撃を加えてきていた。
「馬鹿め! そう突撃していても無駄だ!」
忍者リーダーがクリーさんの足を僕のように瞬間接着剤の蜘蛛の糸で絡めとった。
「う、動けない……」
クリーさんまで捕らえられてしまった……。
「見たか! これが蜘蛛の糸を駆使した忍術だ!」
更にもう一人の忍者がクリーさんに向かって苦無か何かを投げつけて来た!
「とうっ!」
しかし、何とクリーさんは直前で靴をスポッと脱ぎ、思わぬ動きで相手を逆に斬りつけた! この動きは僕も想定していないほどの臨機応変な動きを見せたのだ。
「ギャー!」
その襲い掛かってきた忍者はたちどころに斬られ。更にチェリーさんの攻撃でHPがゼロになった。
「お、おのれ……まさかこれ程とは……」
恐らくはクリーさんも僕と同じような動きをできると思ってすぐさま機動力を奪いに行ったのだろうが、クリーさんはぶつかり合いや白兵戦の方が強かった。
これは敵の分析が現実と見誤ったと言わざるを得なかったが、僕が攪乱したことが伏線となっているとも言える。
「なぁに、兄者。俺たちが最高の連携をすればここからでも挽回できますぜ」
「ああ、そうだとも! 行くぞ!」
何やら呪文のようなものを唱え始める!
「これは危険だみんな気を付けろ!」
僕もクリーさんのように靴を脱ぎ棄てて、どこへでも交わせるように姿勢を低い体勢を取った。
「行くぞ! 雷撃蜘蛛弾!」
2人が叫ぶと四方八方にビリビリとした電流を放ちながら、蜘蛛の糸が広がっていった!
「くっ! これほどの蜘蛛の糸を張り巡らされたら流石に避けきれない!」
僕は必死になってあらゆる動きをして交わそうとしたが、右腕と左足がついに捕らえられた。
周りを見るとクリーさんとチェリーさんも同じように体の一部分が拘束されていた。
「まずはお前からだ! 仲間の仇!」
「うわあああああ!!!!!」
雷撃をクリーさんに浴びせてきたらしく、クリーさんのHPはあっという間にゼロになった。
だが、クリーさんが倒れた時。僕はある一つのことが分かった。
この蜘蛛の糸は電気を非常によく通すのだと。
「ならば、これでどうだ! 雷撃抜刀術!」
この試合では初めての虻利流抜刀術を模した、抜刀方法で電撃攻撃を加えた。
「な、何! お前の攻撃も電撃系か!」
左手が封じられていなかったのが幸いしたのか見事に抜刀技は決まり、忍者リーダーのHPは半分ほど吹き飛ばすことに成功した!
「くっ……中々やるな。だが、片手と片足を封じられているのだ! これで終わりだ!」
忍者リーダーは苦無を20本ぐらい懐から取り出して連続で投げてきた!
「させません!」
これは避けられない! と思った瞬間チェリーさんの風魔法で吹き飛ばしていった。
だが、チェリーさんもかなり動きにくそうでこれが再現性がある行動にはあまり見えなかった。
「助かった!」
しかし、こちらが動きがあまりとれずにジリ貧と言うことは間違いない。
抜刀術も一度見せてしまったので次は何かしらの形で対応されてしまう可能性が高い。
「あ、でもこうすればいいか」
突然、頭の奥底で閃くものがあった。通用するか分からないが今、ここで出来ることはこれしか無い!
「もう一度行くぞ! 電撃抜刀術!」
先程と同じことをやるぞと敢えて宣言しながら刀を引き抜こうとした。
「させるか!」
そう言いながら忍者リーダーは何やら懐から取り出そうとする。恐らくは対電撃に対して強いものだろう。だが、僕の狙いはそこでは無かった。
「ありがとうございます! はいっ!」
僕はチェリーさんの体を拘束している蜘蛛の糸を切ったのだ。
すかさずチェリーさんは僕に向かって軽い風魔法を出し、僕の脚の方の糸を断ち切ってくれた。
「よし、狙い通り! チェリーさんありがとう!」
チェリーさんが準備をしていたかのように驚くべき判断速度で鮮やかに動いてくれたのは僕の想像以上だった。
右手はまだ封じられている状態だが、先ほどよりかは遥かに好転してきたと言える。
「くっ! 狙いはそっちだったか……」
忍者リーダーの方を見ると僕が予想した通り電気を弾く消費型のアイテムを取り出していた。
しかし、僕の読みが勝り完全に不発に終わったので歯ぎしりをしているようなのが、マスク越しの表情でも窺えた。
「チェリーさん! 地を這うように風魔法を僕の方向に思いっきり打ってくれ!」
次なる作戦を思いついたのでそう指示した。
「はいっ!」
チェリーさんは僕が何をやるのか分かっていないようだが、とりあえずは信頼してくれているようで、すかさず風魔法を打ってくれた。
それも僕が思ったようにイイ感じで地面を削るようにして僕の方向に来た。
「よしっ! 喰らえっ! 連携攻撃だ!」
僕は抜刀しながら電撃攻撃を乗せて風に巻き込むようにして電流が敵に向かって直進していった。
「くそう! 自分に向けて撃つことで連携してくるとは!?」
相方の方が電撃攻撃を放つが、こちらの押し返す程の攻撃にはなり切れなく、吹き飛ばされていった。相方のHPはあっという間にゼロになっていった。
「やりましたね!」
「危ない!」
チェリーさんが僕に歩み寄ってこようとしたところで忍者リーダーの攻撃が直撃した……。残るHPはゼロになり地面と一体化するように倒れてしまった。
どうにもチェリーさんは自分の功績を僕に自慢する癖がある……その瞬間の油断が仇になってしまった形だった……。
「ふぅ……最後はリーダー同士の対決となったか……」
僕は忍者リーダーを見据える。終わってしまったことは仕方ない。
この男がが一番骨がありそうだというのは最初から分かっていた。
どことなく、僕と共鳴しそうなゲーマーの雰囲気を全身から溢れ出ている感じすらある。ある意味この2人が最後に残ったのは宿命ともいえるものを感じた。
「最後に全力を出し切ろうじゃないか!」
「ああ! 勿論!」
僕たちは互いに構え合う。
「私は! ここで負けるわけにはいかぬのだあああああ! 幾千苦無乱舞!!!!!」
「僕もここで終わるわけにはいかない! ラストインパレス!」
ドーンという音と共に、一部はこちらの攻撃で弾くことに成功したが、四方八方――いや全方向からの無数苦無を避けきることは出来ず無数の苦無が僕に直撃する。
しかし、相手の苦無も僕の攻撃は弾けていない様子だった――砂埃で何も確認できない状況になっているのだ。
「ぐはっ……」
しかし、攻撃をしてからステップを踏むのを辞めなかったので辛うじてHPは残った。しかし、これ以上反撃できるかは怪しい状況になった……。
だが、砂ぼこりが止み様子を窺うと、忍者リーダーは倒れ込みHPがゼロになっているのが確認できた。
「勝者! チームテルル! 第5階層進出決定戦に出場することが決まりました!」
「うわああああああ!!!!!」
ここぞとばかりに、歓声が沸き立ち拍手が鳴りやまない。
VRの仮想とは分かっていながらも、その拍手のシャワーは何よりも癒しとなった。
「や、やった……」
僕はその場に倒れ込む。自動的に回復されるが、それにしても激戦のための精神的なダメージは大きかった。
「チームテルルは同時で行われている2回戦の結果が終わるまで控室で数分ほどお待ちください」
幸い、対戦相手が決まっていなかったので僕たちは少しの間休憩できるようだった。
流石にちょっと疲れたので有難かった。




