第22話 VSチャリオット
競技場のドアが自動的に開くと、地響きが鳴り響くような歓声が四方から沸き起こった。
「す、凄い歓声ですね。逆に緊張してきちゃいました……この人たちは一体どこから出てきたんでしょう」
クリーさんが耳が潰れそうなあまりの歓声のすさまじさに動揺している様子を見せた。
「あぁ、この観客はVRだから本当は誰もいないよ。皆が見ていると見せかけているただの雰囲気作りの演出だね(笑)。
実は誰一人この戦いを他人は見ていないから気にせず戦っていこう」
確かに物凄い歓声だが、僕は“本物の観客ではない”と知っているので意に介すつもりは無かった。
「な、なるほど……そのメンタルは参考になります……」
もっとも、これがホンモノの観客だったとしても、自分の相手とは全く関係が無いので無視し続けることには変わりはないけどね(笑)。
そういうメンタルでないと世界大会を勝ち抜くことは難しい。
「1回戦、チームテルルVSチームアンティークの対決です!」
相手は確かに古めかしい服装を着ている3人組で確かにアンティークな感じのイメージを受ける。
「さて、とりあえず僕が行くから2人はよく相手の動きを見ておくんだ」
「分かりました」
「ファイット!」
僕は開始の合図とともに、左右にステップを踏みながら一気に相手との間合いを詰めていく。もう既に歓声の声は聞こえなくなりつつある。
「くそっ! 早い! それならこっちも“とっておき”のをいきなり出すか! 行け特殊召喚!」
何かモンスター召還するのかと身構えたが、出てきたのは兵器だった。
古代中国にあるようなチャリオットのような戦車で、相手チームメンバー3人が全員乗っている。そして、本来は馬が引っ張っていく位置に機械仕掛けの馬が先導している。
これはかなり破壊力がありそうで厄介だった。
「なるほど、アーティファクト系統を召還するのか……2人とも気を付けて! 轢かれたら即ダウンだ! チャリオットの車輪部分を狙うんだ!」
しかしそう言い終わらないうちに、2人に向かって急発進する。
どうやら、僕は攪乱させているだけに過ぎないと言うことに気が付いたのだろう。
やはり、ここまで勝ち残っているだけあって相手も判断力に優れていて戦い慣れている印象を受けた。
「あ、危なかったです……」
クリーさんの服が一部巻き込まれボロボロになるほどだったが、辛うじて交わしていた。
チャリオットが方向を切り替えているところに隙が出たのを見計らいすかさずチェリーさんが風魔法を繰り出す!
「くっ! 弾かれましたか!」
チェリーさんは的確に車輪を狙ったものの、相手もそれを考慮して乗っている1人が防御魔法を展開する。
なるほど、メイン火力はチャリオットで3人は防御に徹する。そう言った着実に勝っていくような戦術と言えた。
「僕が何とか隙を作る! 引き続き車輪を狙ってくれ!」
取り敢えずはチャリオットの上に乗っている3人の注意をこちらに逸らさせる必要がある。
「まだ、この武器については慣れてないけど、思い切ってやってみるか!」
僕は思い切り踏み切って飛び上がると、刀を抜刀した。虻利流の抜刀衝撃と共に雷撃が開いて3人を襲う!
「何ッ!?」
相手は驚いて防御魔法を慌てて展開しつつ、僕を撃ち落とそうと攻撃してくる。
「今ですっ!」
チェリーさんが間髪入れずに素晴らしいタイミングで車輪を狙う!
相手はスリップして、壁にぶち当たり、猛スピードが停止した。
「よし、私がとどめを刺す!」
クリーさんが飛び込もうとするが、僕はクリーさんの腕を掴んで制止した。
「待つんだ。まだ何かありそうな気がする。相手はまだ余裕がありそうだから」
まだ相手は笑みを浮かべているだけの余裕がある。この状況で笑っていられるのは何か理由があるはずだ。
「ふぅ……1回戦からこのチャリオットの真の力を解放することになるとは……。
思った以上にこのトーナメントのレベルは高いと言えるな……」
今のチャリオットでも相当厄介だったが、この更に上があるというのか……?」
そんなことを考えていると、チャリオットがドンドンと変形していき、なんとロボットのようなフォルムになった。
相手の3人はロボットの中に格納されており、手出しすることすら難しい……。
「あんなものに勝てるんですか……?」
「クリーさん。相手が逆に中に入ったことで直接的には防御することができなくなっている。
僕としては以前のフォルムの方が脅威だったかな。龍の時と同じように合図を出すから避けてくれ」
先程戦った龍と違って3メートルほどしかない。先程体中に浴びたプレッシャーと比べるとスケールが随分と落ちて肩が軽いような気すらした。
「わ、分かりました」
「チェリーさんはあのロボットの関節の辺りを狙ってくれ!」
「分かりました!」
チェリーさんはそう言いながらすかさず風魔法でロボットの関節めがけて攻撃している!
「させるか!」
相手のロボはそれを事前に察知して飛び退いた。やはりとんでもない機動力は維持されている。
それを僕は見逃さなかった。チャリオットのタイヤの部分はロボットの移動能力を相変わらず担保している。そこを狙ってまた抜刀した。
「な! コイツら恐れを知らないのか!?」
低い放物線は車輪に直撃し大きくバランスを崩す。
そこに向かってクリーさんが追撃とばかりに思いっきり斬りつけた。車輪を真っ二つにし、いよいよチャリオットロボは大きな地響きを鳴らしながら倒れ込んだ。
僕も予想していなかった動きである。
「よし、今だ!」
思った以上に僕の斬撃も武器のお陰か冴えわたっている。
2人の連携攻撃もあり、相手のHPバーは次々と0になっていった。
「勝者! チームテルル!」
ワーッと思いっきりVRの観客たちが一気に沸き立つ。ここの競技場に入った時の音量の何倍もありそうな歓声だった。
「やりましたね! 初戦突破です」
チェリーさんは満面の笑みで僕に向かってくる。クリーさんも満足げな表情をしている。
「まさか僕が避けるタイミングを言う必要が無いぐらいの快勝になるとは思わなかったよ……2人とも本当によく頑張った。特にクリーさんは想像以上の動きをして勝利に大きく貢献してくれたよ」
「いえ、これまでほとんどお役に立てずに足を引っ張っていましたので……」
クリーさんはポリポリと頬をかきながら照れている。
「いやいや、足を引っ張っているなんてことは無い。僕の想像を超えてくれた素晴らしい働きだったよ」
「その後おっしゃりたいことも分かります。テルル中将さんは、“焦らず状況次第で臨機応変に動いてくれ”などと言われるんですよね?」
「おぉ……そこまで分かってくれているならもう僕から言うことは無いね。
2人ともこのままこのトーナメントを勝ち抜くぞ!」
「はい!」
「分かりました!」
理想は僕が何も言うこと無く状況に応じた最善の行動をそれぞれ行うことだ。
eスポーツチームで僕がリーダーの「チーム虻利」もほとんど僕が言うことはほとんど無いからな。最悪は僕がいなくても勝てるから(笑)。
しかし、この「チームテルル」も結成3時間ちょっとでその理想的な形になりつつあった。




