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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第3章 電脳戦

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第21話 嘲笑を受け流す

 次の階層への扉を開こうとした時、チェリーさんが僕の服を引っ張った。


「折角だから、この“石の道”は消しておきませんか? 折角苦労したのに、何だか他のチームに私たちの努力が利用されるのが嫌なんですけど……」


 ダンジョンの状態は時間が経てばゲーム側が設定した“初期状態“には戻る。しかし、チェリーさんは僅かな時間の間に”漁夫の利”を得るチームが出てくる可能性があるのを嫌っているのだろう。

 こういう事実上の妨害工作や利益を与えない思考は“プロ”が思いつくような思考である――僕よりある意味センスがあるかも分からないね(笑)。


「なるほど、チェリーさんの魔法を使って欲しい。遠距離攻撃能力は相変わらずチェリーさんだけなんでね」


「分かりました!」


 不満そうな表情が一変、満面の笑みで自分の風魔法を使って石を吹き飛ばしていく……結構Sっぽい子なのかもしれない……。


「おぉ……あっという間に綺麗になりましたね」


 クリーさんが言うように僕たちが来た時のように“見た目上の動いているパネル”だけが目立つ状態に完全に復元されている。これで新しく来た人は改めて気が付かないといけなくなった。


「よし、今度こそ第4階層に行こう。今度は一体何が待っているのだろうか……」


 扉に手をかけたが、手に汗がにじむほど緊張している。いきなりとんでもない光景が広がっていても驚かないように覚悟が必要だからだ。


ギィィィィ! と音を立てて扉が開く――目に飛び込んできた光景は古代ローマのコロッセオの競技場に似た施設の内部だった。


「あぁ……このタイプか。ならここまで辿り着けたチーム数が少ないのかな?」


「あの……勝手に納得されているようですが、どういうダンジョンなんですか?


「簡単に言えば、競技大会で上位に入ったチームだけが次のステージに進めるんだ。

 ただ、トーナメント制で時間もあまり割くことができないから、そんなに多くのチームがここに着いているわけでは無いと言うことだね」


「なるほど、それは楽しみですね! 頑張っていきましょう!」


 武闘派のチェリーさんは目を輝かせている……。このピラミッドに来た時は保守的では無いのか? みたいに言われたぐらいだからな。


 競技場の上の位置から下の受付のところまで階段で降りて行く際に、これまで参加をする人たちを横目に通ることになった。


「おいおい、あの最後に来たグループやけに弱そうじぇねぇか?」


「虻輝5冠のアバターしている奴って大抵去勢張ってるんだよなぁ~」


 あちらこちらから僕たちは散々の言われようである。


「くっ……好き勝手なことを……」


 クリーさんがこぶしを握り締め、チェリーさんは唇から血が滲み出そうなぐらい噛み締めている。


「まぁ、チェリーさんとクリーさん待つんだ。僕だってあんなに言われて好い気はしない

 ただ、冷静になって考えてみれば強いか弱いかの証明は今からするわけだし、

 弱いと思われている分にはむしろメリットの面は大きい。油断させておくんだ」


 僕は2人の方を寄せて小さく呟いた。


「さ、流石テルル中将さん。とても冷静ですね」


「まぁ、青筋立てても評価や状況は何も変わらないからね。

 他人の考えや気持ちは変えることができないから、自分で変えられる項目に関して全力を尽くしたいと思うよ」


「テルル中将さんの言葉には時々哲学を感じますね……」


「いやいや、そんなことは無いよ。いちいち誹謗中傷とかに反応していたら生きていけないと思ってね」


 何と言っても僕は有名人だから誹謗中傷の来る数が違うんだよ――と思わず付け加えそうになるのをグッと堪えた。その先が答えられない以上はそんなことを知らせたところで仕方のない事だ。


 そんなことを会話しながら、トーナメント参加のための受付を行う。

 ここに入った時点で権利はあるのだが、中にはここに入った段階で物怖じしてしまったり、参加し忘れたりすることで脱落するチームも存在するから一応意味のある行為ではある。


「何々、大会規定によると……32チームが4ブロックに分かれてトーナメント戦を行う。

対戦相手の3人のHPをゼロにするか相手がこの降参ボタンを押すかのどちらかで勝ち抜けとなる。

そのブロック王者が第5階層に進むことができると言うことみたいだね」


 僕は降参ボタンなんて押さずに最後まで勝ち筋を見つけていこうと思うけどね。


「降参ボタンを押すかどうかはテルル中将さんにお任せするとして、何か作戦としてはあるんでしょうか?」


「まぁ、正直なところ相手のデータが無いので出たところ勝負だね。

 相手に隙が出たところで攻撃を畳み掛けるぐらいに僕達は特に作戦が無いので(笑)」


「ということは、相手の作戦を打ち砕くといった形が想定されそうですね?

 他の試合についてもしっかりと見ていかないと……」


「チェリーさん。気合を入れているところ悪いけど、他の試合については見ることができないんだよね」


「えっ……こんなに広い会場なのに他の試合を見ることができないんですか?」


 なるほど、根本的に勘違いしているようだ。


「これはシステム的な都合なんだよね。物理的な世界だと1試合ずつしか行われないんだけど、ここはVR空間だからね。

 このゲーム自体に6時間の制限時間があるし、待ち時間を減らすために同時並行的に行われるんだ。

 だから、僕たちはほとんど休むことなく連戦で3戦戦うことを想定していかなくてはいけない。

 勿論、凄く早く勝つことができれば休むことは出来るけどね」


 連戦は体力的な問題というより精神的に疲れる場合がある。VR空間の傷は一瞬にして治療されてしまうからだ。


「なるほど、そう言う特殊な事情があるんですね」


「もう後、最初の戦いまで5分ほどしかないから、何か質問があればドンドン言って欲しい」


「フィールドの特徴か何かはあるのですか?」


「クリーさん、とてもいい質問だね。

基本的にはこのコロッセオみたいな平地で戦うことになるわけだが、相手が特殊な魔法スキルがあればフィールドそのものを変えてくる可能性もゼロではない。

ただ、かなりレアな魔法スキルだからあまり考えなくて良いと思う」


「基本的には避けられそうな物も無さそうですし、正面衝突と言った感じなので時間があまりかからないと言うことなんですね」


「そうそう、このゲームの主催者としてもダンジョンに潜る試行回数を重ねて欲しいと思っているみたいなんだよね。

 今回僕たちはかなり上手くいっているんで、そう言うことをあまり考えなくて良いのは素晴らしいところだけどね。これも2人の頑張りのお陰だよ」


 2人とも照れたように顔を俯かせた。


 当初の装備からしたらここまで順調に来ているのは奇跡的と言って良かった。

 それだけこのチームメンバーである2人が僕の思った通りかそれ以上に動いてくれて優秀だと言うことだろう。


「後つけ加えて言うのなら、この戦いはシステム的に強制的に戦わせられるわけだから、基本的にはゴールドぐらいしかドロップしないし失わないというのも特徴的だね。

 それでも1勝ずつ勝ち抜くことによってこのダンジョン全体での報酬は大きく変わってくることにはなるけどね」


「分かりました。そろそろ時間ですね……胸の高鳴りが止まりません!」

 チェリーさんは本当にワクワクしているようだった。

 気が付けば自然に出場選手が出てくるゲートに向かって歩いていた。


 僕はプロプレイヤーだというのに結構緊張しているんだから情けない――この2人となら行けるところまで行けるかもしれないんだから、僕が頑張らなくてどうするんだ!

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