第20話 見えない道の行き方
「観察してみても床が動く法則性があまり見えませんね……」
チェリーさんがそう呟いた。確かに法則性が見つかれば突破できそうだが、どうにも僕もパネルの動きの法則性を見いだせない。
もしかしたらコスモニューロンで何分も映像を保存して、それを分析すれば見つかるかもしれないが、僕はそこまで頭が良いわけでは無いからな――学校の勉強すらも絶望的なのだから(笑)。
「ふむ……もしかすると、“これ”なのかもしれない。
ちょっと、通り道から石を拾ってきてくれない?」
ふと、法則性が感じられない動きをしているカラフルの床パネルを見ながらあることを思い立った。パネルを追っていてはいけないのではないか――と。
「テルル中将さん。どうぞ」
チェリーさんに石を貰うと、
「ほいっと」
僕は目の前に来たパネルに石を投げた。すると予想通りのことが起きた。
「えっ!?」
2人は当惑した声を出した。無理もない、石はその場で空中で“浮いている”のだからね。
「こ、これはもしかすると動いている床は“ブラフ”なのですか?」
チェリーさんも気が付いたようだ。
「その通り。実を言うとこれは透明の道があり、この動いているパネルの方が嘘なんだ。
パネルを目で追って行ってその通りに動けば確実に真っ逆さまさ。
さぁ、この見えない道を攻略するために石をたくさん集めよう!」
「分かりました!」
僕たち3人は石を集めるために一度洞窟に戻った。
「なるべく、色がはっきりしていそうなのを選んで欲しい。カラフルなパネルと違った色をなるべく投げるから」
これまで使ったアイテムの入っていた袋を利用してそこに次々と石を入れていく。
「しかし、よくあの動いているパネルが本来の通り道でないと気が付きましたね」
クリーさんがそう僕に言ってきた。持っている袋には石が沢山入っている。
「まぁ、この世の中も似たようなものだとは思うけどね。
虻利家が良い世界を作っているように見せかけて裏では色々と噂されているみたいだからね。表向きで語られている世界と実情とは全く異なると言うことだね」
「は、はぁ……」
ちょっと言い過ぎてしまっているだろうかと心配になるが……まぁ、これまでこのレベルの事なら今までも許されているから大丈夫だろう。
「目の前で起きている出来事に向き合うことも勿論大事になるけど、
同時に常識として語られていることを疑うということも大事になると思うんだよね。
そこら辺を見極めてバランスを取ることが大事になるからちょっと難しいんだけどね。
あまりにも疑い過ぎていたら何も全く進めなくなってしまうからね」
「なるほど……しかし、その“バランスを取る”というのはどうしたら良いんでしょうか?」
チェリーさんの言葉はもっともだが、正直こればかりは言葉にするのは難しい……どう表現したらいいものか……。
「正直、“カン”としか言いようが無いんだよね。これまでの経験というか、本能がそう教えてくれるというか……」
思い立ったことを口に出してみた。これ以外に表現がしようが無いのだから仕方ない。
「は……はぁ……」
「私は聞いたことがあります。直観力と言うのはこれまでの経験を瞬時に引き出す能力だと――テルル中将さんはその能力が秀でているのかもしれませんね」
「クリーさんのその表現はちょっと照れるねぇ……もう石を集めるのはこんなもんで良いかな。
基本的には先頭を歩く僕が石を持つけど、“もしも”の事態が起きるかもしれないから皆もちょっとずつは持っておいてね」
先程のように誰かから攻撃を受けて、はぐれて孤立するといったケースもあり得る。
リスクについてもある程度見ておかなくてはいけない。
「分かりました。基本的にはテルル中将さんがどこを通っているのかをよく見ることにします」
2人とも理解が早くて助かる。
先程の攪乱床パネルの部屋に戻ると、石を撒きながら進み始める。石が下に落ちていったら、そこは道ではない。そう言った感じで判断していく――思ったよりも上手く見分けがついていた。
「リアルの社会でもこんな風に石を投げることによって皆に道筋を付けられたらいいんだけどね。
どうにも今の世の中は良さそうに見えながらも、本当に生きているとは何か? 人生とは何か? そう言った道筋が見えない感じがするんだよね」
「……確かにそうかもしれませんね。自分のやりたいこと、それがしかも社会に直結することを見つけられた人は政府からの支援を受けられますが、秀でた能力がないと厳しいように思えます」
チェリーさんの声が後ろから聞こえた。
「だろ? 社会的貢献ができない人達は不満を貯め、スラムのようなところで生活しているらしいじゃないか――まぁ、こうして遊んでいる僕たちが言うのもアレだがね(笑)」
「なるほど、テルル中将さんはそんな人達に対しても道筋を付けさせてやりたいのですね?」
クリーさんがチェリーさんの更に後ろからそう言ってきた。
「うん。ただ、今のところは出来ることが限られているけどね。
ゲームの世界に行くことをサポートしてやることぐらいしかないが……」
悲しいことにそのプロゲーマーすらも虻利家のマインドコントロールの一環、不健康の主だった原因になっているのだから悲しいところだけどね……。
と言っている間に石がどの方向に投げても虚空に吸い込まれて行ってしまう――つまり“道が無い”状態に陥った。
しかし、まだまだゴール地点の宝箱までは遠い。これは一体どうしたのか……。
「……皆ストップ! 道が消えた」
「えっ!?」
2人とも動揺しているようだ。僕は深呼吸をした。
「どこかで道を間違えたのでしょうか?」
僕たちは振り返って石が転がっている地帯を見ているが、改めて思い返してもそんなに分岐があったようには思えない。
「……戻ってみて新しいルートについて検討したほうが良いのでしょうか?」
クリーさんも同じようなことを言っている。
しかし、何となくだが僕はそうは思えなかった。
「もしかすると、ここからはパネルが足場になっているのかもしれない――ホイっと」
そう思って近くのゾーンのパネルに石を投げると石が乗った。そのパネルが石を乗せて移動しているところを見るとたまたまでは無さそうだ。
そして、よく見るとそのパネルの動きは法則性がありそうだった。
「ここからはパネルに乗っていくと言うことですか……」
「そうなりそうだね。厄介なことをしてくれるな……」
何とか気づいて合っていそうだから良かったものの、間違った選択をしていたら危なかった。
「では、僕に続いて欲しい。さっきみたいに、ストップと言ったらすぐに止まって欲しい。よいしょっと!」
問題なく乗れて、しかもある程度自動で動いてくれた。その次のパネルにも石が乗ったので更にその次のパネルも大丈夫そうだった。
後ろを向くと2人とも無事に付いてきているようだ。
「よし、イイ調子で来ている。後ちょっとだ」
ところがあと少しでゴールが見えそうだというところで再びパネルに石が乗らない……。
「あ……また、パネルじゃなくて“見えない道状態”になったようだ。ちょっと待ってね……」
今いるパネルとその周辺を石を投げながら探していくと、再び“道”を見つけることができた。
「ここからは“見えない道“になったから注意してね!」
このようにして遂に3階層目のゴールに到着した。
「あぁ……この階層にも色々なことがあった……」
僕は座り込みこの階層について頭の中で振り返った。
結構地味な感じの洞窟なのだが、こういうタイプは集中していないことも多いので逆に脱落者が多いのである。
「またしても、テルル中将さんのお陰でこの階層もクリアできましたね~。
石を投げながら状況判断するだなんて流石です」
2人も追いついてきた。
「いやぁ、上手く僕の意図が伝えられて良かったよ。チーム戦だから僕だけが到達しても何の意味も無いからね」
僕だけがゴールしていっても他が付いて来られなければ数の差で負けてしまう。
如何に僕が上手くてもスキルが一定程度ある人間が3人いると勝てる要素が限りなくゼロになってしまうのだ。
「宝箱の中身気になりませんか?」
クリーさんがソワソワしている。
「そうだね。見て見ようか」
前の階層のように何か罠が無いか確認したが、今回はそう言った仕掛けは無さそうだった。
鍵を使って開けて見るとランク7の武器だった。黄色の刀身が特徴的な雷属性の刀だった。
「テルル中将さん使って下さい。その技術でランク3の武器って言うのはあまりにも不憫です……」
「そう? ありがとう」
僕の全てのゲームスキルを使って縦横無尽に動き回っても攪乱しかできていなかった悲しい現状からは少しは解放されそうだ……。
簡単に言うと、相手が雷に対しての弱点属性かどうかもよるが、最大出力の火力が3倍~5倍ぐらい違う(笑)。特にボスは一定以下のダメージを寄せ付けなかったりするので、本当に役に立てなかった。
小さいアリからサバンナのチーターぐらいになった気分だった。
「テルル中将さんがアタッカーとしての役割を持てれば鬼に金棒ですね!」
「本当にそうなるよう頑張るよ」
長時間のゲームだとたまにさっきの第一階層みたいに初歩的なトラップに引っかかるから本当に注意しないといけない……。
こういういい武器を手に入れた時の油断が最大の敵だ。気を引き締めなくてはいけない。




