第18話 3つの道
3階層目への扉を開けると、意外とそれまでとあまり変わらない洞窟だった。
「ふぅむ、まだこのジメジメしたような洞窟が続くのか……」
「暗いとそれだけで何だか嫌ですね……」
「ところで、このダンジョンの時点でかなり難しいんですが、後いくつ階層があるんですか?」
チェリーさんが振り返りながら僕に行ってきた。
「5階層目まではあると思う。まぁ、4まで行ければ上等だろう。
僕も過去に挑戦した時は5の途中でリタイアしたんで(笑)」
5階層目はどうなっているのか分からず、カオス過ぎてヤバかったからな……。
「そ、そうなんですか……クリアできないレベルとは……」
「まぁ、ランダム性があるからさっきのダンジョン2階層目にしては難しい方だと思う。
逆にこれから簡単になるかもしれないしね
ただ、5階層は多分ヤバいと覚悟した方が良いだろうね(笑)」
「テルル中将さんが踏破したことが無いのなら誰も踏破できないのでは……?」
「いや、そんなこともないと思うけどね。ギミックさえ解ければクリアできるはずだから。
純粋に僕の能力が足りなかっただけと言うこと……」
ギミックが分からないと不毛に歩き回るだけだからな……あの時は時間を節約するためにサッサと次に向かってしまった。
そんな会話をしていると3方向への分かれ道が見えてきた。
「どうしましょうか……」
クリーさんが困惑の声を上げるのも無理もない。3つ股に分かれている通路に到達したのだ。
「うーん、これは正直何とも言えないな」
どの道も正直特徴が無く、何のヒントも無い……どの道も深淵が広がっており遠くまで見渡すことができないので、コスモニューロンによる望遠レンズでも先が見えない。
“カンで行く他ない”のだ。
「テルル中将さん決めて下さい。リーダーなのですから」
チェリーさんがそう促してきた。
「えー! 困るねぇ……」
運命の分かれ道のような気がしてならないが、状況的にはどれを選んでも変わらないと言われればそうなのだ……。
目を瞑って何秒か真剣に考えるがどれに行くこともなんとも言えない気持ちだ。
「それじゃぁ、じゃんけんで決めよう! チェリーさんが勝てば左の道、クリーさんが勝てば右の道、僕が勝てば中央の道ということで」
「えー、テルル中将さんそれじゃ完全に運じゃないですか」
「よく全部の道路を見て見るんだ――ぱっと見違いが分からないほど同じような道が続いている。正直これじゃどれを行っても運だ(笑)。どうせ合理的には決められそうにないんだよ
なぁに、もしもダメそうな道ならまたここに引き返せばいいんだ。
気軽に考えればいいよ」
「その決め方でテルル中将さんが納得されるなら問題ないですが」
2人ともどのみち決められそうにないので渋々と言った感じだ。
「よし、じゃぁ行くぞ! 最初はグー! じゃんけん! ポン!」
僕とチェリーさんがパーでクリーさんがグーだった。
「それじゃ、チェリーさん行くよ!」
「じゃんけんポン!」
チェリーさんはノリノリの掛け声で、出してきたのはグー。僕はチョキだった。
チェリーさんの顔に笑顔の花が咲く。
「ふぅ……分かるかね? 僕のチョキはグーをも切り裂くのだよ……」
「は、はぁ……」
チェリーさんは笑顔のまま固まる。
「いや……そんなことをおっしゃるなら最初から真ん中の道を選べばよろしいのでは?」
クリーさんは呆れ顔でポリポリと頬をかいた。
「いやぁ、何と言うか勝負ごとになるとどうにも譲れなくなってね。
まぁ、さっきのは嘘だよ。左の道を進もう」
僕が左の道を率先して進み始めると2人もそれに続いた。
5分ほど進んでみると徐々に肌寒くなっていくのを感じた。
「な、何だか寒くないですか?」
チェリーさんは比較的薄着をしており、とても寒そうだ。
「こんなところまでリアルに再現しなくていいのにね(笑)。
折角だから僕のを使ってよ。僕はそんなに寒く感じないほうだからさ」
防具でも何でもないただのオプションは貸し借りできる。
僕は寒さどころか暑さもそんなに感じないので、“神経が死んでいるのでは?”
と正平やカーターによく言われることもあったなぁ(笑)。
「そ、そうなんですか? 悪い気もしますけど……」
「大丈夫大丈夫、気にしないで良いよ」
いったん押し戻した僕の上着を、渋々とチェリーさんは着てくれた。
1歩進むたびに何となく寒くなっていくような印象を受けるが、僕の方がきっと我慢が出来るだろう。
更に数分歩くと、氷が一面に張られた部屋に辿り着いた。
どちらかというと、川が凍り付いたと言った印象だがね。
「うわー、こりゃ寒いはずだよ」
部屋に着くとさらに寒さが増していくのが分かった。2人とも体を震わせている。
「よし、試しに歩いてみるか。2人とも僕のバランス感覚を見ていて欲しい!」
そう言いながら第1歩目を踏み出した瞬間にツルッと滑りその場で倒れた。
「ゲフシッ! お、お尻を打った……」
「だ、大丈夫ですか……?」
2人に支えられながらようやく立ち上がる。2メートルぐらいしか歩いていないのに、氷の地帯から普通の地面に戻るだけでも一苦労だった。
「しかし、どうやってここを渡っていくべきかな……」
この氷の間はかなり広く虻利邸宅の庭の広さぐらいある――正直かなり難しいと言えた。
「私は雪国での歩行の経験がありますが、あまり急に歩き出すと危険だと思います。
経験則から行くと歩幅は小さく、一歩一歩、足の裏に重心位置が来るように膝を上げて踏みしめるような歩き方だと転倒しにくい感じがしますね」
チェリーさんがそう言いながら、1歩1歩踏みしめながら歩き始めた。さながらロボットのような歩き方だ。
「ロボットの歩き方や、宇宙飛行士が他の星で歩いているような歩き方だね」
「動物で言うとペンギンのような歩き方でしょうか?」
「そうです。それらのイメージが近いように思えます」
チェリーさんは慎重な歩き方だが、スタスタと進んでいく。
僕もチェリーさんを見習ってロボットやペンギンのような歩き方で進んでいく。
そんな中、もうじき向こう岸が見えてきてゴールが近いところで、前の方で金属製の何かがキラリと光ったような気がした。
「チェリーさんストップ! 何か罠があるかもしれない!」
僕が叫ぶとチェリーさんは足を宙に浮かせた状態でピタリと停止する。
「あっ……確かに、私の目の前にある氷の塊に何か得体のしれないモノがあります!」
チェリーさんが叫ぶ! 僕が腰を落としブツを確認した時、ギョッとした!
「ゆっくり離れるんだ。それはセンサー式爆弾だ。ヘタに通過すると爆発する」
氷の光り方ではないと思ったが爆弾とは……。
「は、はい……」
顔面蒼白状態でチェリーさんが僕の下にやって来る。
「ど、どうしましょうか……」
クリーさんも不安そうな顔をしている。
「問題は、僕たちの足の耐久力が怪しいので正直なところ時間が限られているという点だ。
ここで戻るか何とかして向こう側に無事に渡り終えるか。その決断を迫られることになった」
僕の足はプルプルと震え始めている。あまり長い時間氷の上に立っていると取り返しのつかないことになりかねない。




