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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第3章 電脳戦

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第17話 宝を棄てる勇気

「微妙にジメジメしていて嫌な感じですね……」


「確かに、何だか気分があまり良くないな。ただ、足元には気を付けたほうが良い」


 中は非常に暗いので僕たちはコスモニューロンの暗視機能を使って何とか下に降りている。かび臭い匂いもしてきて徐々に不快指数が上がっていく。

 

「あ、皆さん止まってください! 何やら道が細いです!」


 よく見て見ると道が細く、足1本分の幅しかない。それがおよそ30メートルほど続いている。

そして、横は何十メートルの崖となっている。

 ちなみに、ダンジョン内での対人戦以外での“物理的な死”は、強制的にダンジョンの外に出されてしまう。つまり1人がダウンすることはチーム全体の機能不全を意味する。


「ヒィ……皆大丈夫? 僕はプレイング次第で何とかやるけど」


 ただし、リアルじゃ絶対にここを乗り切れねぇ……。ゲーム内だと絶妙なバランス感覚を保てるけど(笑)。


「多分大丈夫です……」


 2人ともあまり自信は無さそうだ。


「まぁ、ここで落ちても本当に死ぬわけじゃないし、ダンジョンの入り口に送り込まれるだけだからそんなに責任を感じなくていいよ」


「は、はぁ……」


 この様子だと逆に緊張感を強めてしまったか……。


「それじゃ、僕が先頭に行ってお手本を示そう」


 ここはリーダーである僕が行かなくてはいけないだろう。

 僕は深呼吸をしてしっかり渡り切ることをイメージした。


「ふぅ~!」


 1歩目が一番緊張したがその後は、スルリスルリと歩いて思ったよりも簡単に渡りきれた。


「最初の1歩以外は大丈夫だったよ~!」


「つ、次は私が行ってみます!」


 クリーさんが手を挙げた。

 クリーさんは僕より遅いペースではあるが、丁寧に歩くことで危なげなくこちら側にやって来た。


「ふぅ……緊張しました」


「流石だねぇ……」


 緊張している様子はあまり感じられなかったがな……。


「私も頑張ります!」


 チェリーさんが渡り始めるとその後ろから声が聴こえてきた。


「ま、まさか……!」


「アイツ落としてやろうぜ!」


 他のチームだ! 相手は弓攻撃でチェリーさんを狙撃していこうとしている。


「くっ! 後ろを気にするな! 前だけを見るんだ!」


 チェリーさんが振り向きそうになったのでそう叫んだ。敵を見ると決定的にバランスを崩す可能性があるから。


「死ね!」


「ぐっ!」


 敵の放った弓がチェリーさんの背中にあたり、大きくよろめく。

 僕とクリーさんのいる岸までは後5メートルほどだ。


「チェリーさん!」


 僕は思わず、細い道に踏み出しチェリーさんを支えようとする。しかし、僕まで巻き込まれて更に2人同時にバランスを崩しそうになる。


「とうっ!」

 

 その僕の体を思いっきり後ろ方向に引っ張られ、強引に僕とチェリーさんは広い地帯に放り投げられた。

 ムニュっという柔らかいチェリーさんの感触が僕の胸板に当たる……れ、冷静になれ……これはゲームの中だけの話だ。


「た、助かった……。そうだ! チェリーさんこれを!」


 チェリーさんに命中した弓矢を引き抜き回復薬を渡す。


「た、助かりましたぁ……あの3人! よくもやってくれましたね!」


 チェリーさんは風魔法を連発し、1人奈落の底に落ちていった。


「シドー!」


 残る2人も後を追うようにしてダンジョンを離脱していった。僕たちに僅かではあるがゴールドが入る。

一応チェリーさんに使った回復薬よりプラスではある。


「チェリーさんがそんなに連発できるとは……さっきのアクセサリの影響か……」


 僕は力が抜けたように地べたに座る。他の2人も崩れるように座り込む。


「そうかもしれません。でもホントにありがとうございます。テルル中将さんが支えてくれなかったらアウトでした……とても嬉しかったです」


 目をキラキラさせながら言われるとホント照れる……。


「いやいや、クリーさんの力が凄いね。僕達2人を引き上げてしまったんだからね。

 45℃ぐらい体が傾いたような気がしたから流石にダメだと思ったよ。」


「このゲームではあまり役立たないかと思いましたけど、多少は私の腕力がお役に立てて良かったです」


 クリーさんはリアルではかなりのパワー自慢なのだろうか……。


「一息ついたら、先を進もう。ここで撃ち合いになったら不利になる可能性もある。

 遠距離攻撃ができるのがチェリーさんだけだからね

ラストインパレスも遠距離範囲攻撃だけどどうにも全員いると威力が凄く低い上に連発できないから……」


 僕がそう言ってお尻についた小石を払いながら立ち上がる。気合を入れていかないとな……。


「そうですね。すぐに移動しましょう」


 2人も立ち上がる。僕よりは少し丁寧な感じでゴミや小石などを払い落した。


「何か先の方が光ってないか?」


 歩き出して数分が経過すると遠くの方から光が差しているような場所が近づいているような気がした。


「そうですね。もしかしたらどこかに繋がっているのかもしれません」


 僕たちの足取りは自然と早まった。


「あ、ついに見つかりましたね2つ目の宝箱です!」


 宝箱と次の階層への扉にようやく辿り着いた。

 しかし、宝箱に近づくと何故か甘い匂いがしてきた。


「さて、この宝箱には何が入っているかな……?」


 匂いについてはさておき、宝箱に合った鍵を取り出し、差し込みカチッと音が聞こえた時だった。


 ガラガラッ! という音が上から聞こえたかと思うと、日が差し込みそれと同時に、上から何かが降ってきた。

 僕は咄嗟に宝箱から離れた。

 

「ウワッ! 何だコイツら!」


 70センチぐらいの大きなイタチ? みたいな動物が10匹ぐらい降ってきた!

 僕は何とか避けたが危なかった……。


「何でしょうかこの動物……」


 チェリーさんが近づこうとする。


「2人ともその動物から離れて下さい! その動物はラーテルというアフリカに生息しているかなり危険な肉食動物です! 世間では“世界一恐れを知らない動物”とまで呼ばれています!」


 クリーさんが声をひっくり返らせながら叫んだ!


 イタチどころの騒ぎでは無かった! ギョッとしてラーテルと呼ばれた動物を見る。

 1匹がこちらを睨み返してくる。

眼つきは鋭くよく見ると臨戦態勢に入っているようで、生えている牙も獰猛そうだ。

コスモニューロンで分析するとクリーさんの解説に近いことが書いてあった。


「……どうやら宝箱に群がっているようだな。僕たちのところには来ないようだ」


 先程から僕がいた宝箱のところに群がるばかりでこちらには来ようとしなかった。


「恐らくですが、あの宝箱にラーテルの好物の匂いである蜂蜜などが塗ってあるのでしょう」


 僕はラーテルが降ってきた穴をもう一度見ると、更に無数のラーテルが控えているのが分かった。

 これはかなり危ない状況だ。


「なるほど、確かに甘ったるい匂いがした。残念だが、そんなに狂暴な動物ならあの宝箱を諦めたほうが良いだろう。

 命を落とすことにもなりかねない」


「そうですか……テルル中将さんがそう判断されるなら仕方ないですね」


「私もその方が良いと思います。あれだけ数の多いラーテルと戦って無事で済むとは思えません」


 宝箱の中身は僕だけが知っている。ランク8のかなり攻撃的な武器で正直僕としては喉から手が出るほど欲しかったが、全てを損なう可能性があった。

 メンバーが一人も欠けずに10匹も獰猛な動物を相手にできるとは思えない。

 せめて僕の武器が強ければ無双して倒せるかもしれないがああいう動物すらも倒しきれる自信が無い……。

悔しいがやむを得ない決断と言えた。


「宝箱に群がっている状態ですが、念のためにあまり音を立てずに次の階層に向かいましょう」


 クリーさんがそう言うので、僕たちは抜け足差し足で次の階層に向かった。

 あの宝箱の中身については“無かったこと”にして忘れる他ないだろう。

 それが精神衛生上のためにもなる。こういう時は切り替えが早くするのがコツになる。

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