第14話 迷いのピラミッド
回復アイテムや回避アイテムなどを購入した後、新しいダンジョンの前に立つ。巨大なピラミッドのような形をした特殊な外観だ。
「このダンジョンの特徴について説明すると、前後左右の方向感覚を破壊することで有名だ。
いつでも離脱可能だが到達した階層に応じて報酬が貰えるか没収されるかというステージになっている」
「なるほど……結構難しそうなギミックですね……」
クリーさんが渋そうな表情をする。
「まぁ、基本探索するだけだからそんなに重く考える必要は無いよ。
前回同様、僕が難しい判断である進むか退くかの判断は行うよ。
2人はとにかく周りからの奇襲に注意して欲しい。
このダンジョンは謎のオブジェが多く、死角になる位置が非常に多い。
かなり対人戦が多いことでも有名なんだ」
「なるほど、それなりにスリルはあるわけなんですね」
チェリーさんは余裕が出てきているのかスリルや戦い好きな本性が最近見え隠れしてきている……。
「また、ドロップアイテムが特徴的で一定のラインまで行くと宝箱が存在している。
今回は装備も充実していないし、ここで装備の補強しておきたいところだ。
ちなみに宝箱の開錠のための鍵はアイテム屋で先ほど買ったので大丈夫。
ただ、それなりに値段はするがね。
鍵の値段要素があることから一番最初に攻略するべきダンジョンでは無いんだよね」
逆に序盤は空いているから奇襲されにくいというメリットも存在するが、宝箱を開けられないというデメリットがあるためにそこは天秤にかけられるべきところだろう。
ただ、僕としては稀に階層を突破するギミックにお金や鍵が関わることがあるので、途中で挫折してしまうデメリットを重く見ている。
今みたいにゲーム内通貨がある程度ある時にしか向かわないことにしているのだ。
「流石にお詳しいですね。本当にその知識量と判断能力と実際のスキルにつくづく感心させられます」
まぁ、世界5冠王だからねとチェリーさんに返しそうになるのをグッとまた堪えた。
「では行きましょうか。解説は有り難いですが、時間もあまりありませんから」
「そうだね。このダンジョンも上手くいくと逆に時間がかかるからね
ただ、上手くいっていればその分のリターンも大きいので時間投資効果は大きいのでそこは安心していい」
ダンジョンに入りながら僕はそう解説した。
「敵はどのあたりに潜んでいるのでしょうか? あの像とか……」
古代エジプトらしき頭だけが動物の謎のオブジェとかが並んでおり隠れられる場所は確かに無数にある。
「そうだねぇ……どこかに神経を集中させるというより、視界に入る全体に対して平等に注意力を向けていった方が良いね。
そうじゃないと、集中して見ているところ以外から敵が出てきた際に対応できないから
適度な緊張感を視界全体にかける感じかな?」
TPSやFPSでは少なくともそうやっている。それで何度も修羅場を潜り抜けてきたのだ。
「なるほど……」
「後は、僕たち以外の発する物音に注意を向けたほうが良いね。
ダンジョンのNPCの可能性もあるし、対人戦になる可能性もある」
「大先輩プレイヤーの意見は参考になりますね」
2人の反応が適度に僕の自尊心を埋めてくれてとてもありがたい……。
カチッ!
「あっ!」
頭がそうやってフワフワしている間に何かトラップのようなスイッチを右足で踏んでしまった!
油断しないように注意をしていてこれだよ……。
ピーッ! ガラガラッと上から音がした
「2人とも横に飛んで!」
バリバリッと天井が音を立てながら上から100本ぐらいの槍が降ってきた……間一髪皆無事だった……。
「ひぃ~! あれを1本でも直撃したら即死だっただろう……。
す、済まない……視界に入る範囲を万遍なく注意しろと言っておいて直後に僕が速攻でトラップに引っかかった……」
2人ともやっとの思いで立ち上がっていた。本当に悪いことをした。
しかも初歩的なトラップ過ぎて、普通の精神状態ならまず事前に回避できた。情けなさ過ぎた。
「そ、そう言う日もありますって。ミスをしたことは次で挽回していきましょう?」
チェリーさんは“挽回”という言葉が好きなのか特に強調して言っているような気がする。
いずれにせよ、未来志向で素晴らしいなと思った。
「そ、そうだね。終わったことは確かに仕方ない。切り替えていこう……」
世界大会の全世界同時中継でこういうやらかしをしてないだけまだマシだろう……。
ただ、見ているのがたった2人でも信頼を裏切るようなことはしたくないと思った。
2度ほど迷路の中にあるトラップを食らいそうになったが未然に回避することに成功した。
そして1階層目の最終地点の宝箱まで無事に到着したのだ。
行き止まりになっても冷静に引き返したりしたので、比較的に短い時間で攻略することに成功した。
「ふぅ、なんとか槍の雨が降ってきた後は何事も無く終わることができた」
凡ミスをした後は正直、いつもより警戒を強めながら先に進んだのもあった。
二度同じことをしていては流石に情けなさ過ぎる。
僕はそんなことをモヤモヤと考えながらここに来る前にショップで購入した鍵を使って開けた。
「あ、アクセサリですね」
チェリーさんが気が付けば僕の真横にいて、ちょっと興味を持っているような表情をしている。。確かにちょっと可愛い感じの紫色の髪留めだ。
「折角だからチェリーさんが持っていなよ。初心者にしてはかなり頑張っているしね。
ステータス的にも攻撃した後のラグを少し少なくするタイプだから武器との相性は良い」
「ありがとうございます。とても嬉しいです」
チェリーさんは髪留めを受け取ると髪に付ける。とても似合っていた。
そして、僕の判断能力を破壊しそうなぐらいの笑顔をまた浮かべている。
この人はリアルだとむさ苦しいオジサンかもしれないんだ……ホント落ち着け……。
「それにしても、このダンジョンは思ったよりも簡単な感じがしました。
方向感覚についても特に困りませんでしたし」
クリーさんが笑顔でそう話した。
「階層ごとに難易度が上がっていく。まぁ、1層目はこんなもんだろう。
今後はこんな風には上手くはいかないことを覚悟して欲しい」
「でも、階層が上がっていくとピラミッドの部屋の面積は減って来るのではないですか?」
チェリーさんの言うことは最もだが、ここはゲームの内部と言うことを忘れていそうだ……。
「あぁ、本来のピラミッドの構造的にはそうだろうね。でも、正直なところ見かけと中身は全く違うよ。何と言ってもVR空間だからね。
今回も1階層目こそピラミッドっぽい内装だけどもう2階層目から全く違ってくると思うから」
僕はそう言いながら2階層目の扉を開く。すると、サバンナか? と思わせるような大自然が地平線の彼方まで広がっていた。
草木の匂いや爽やかな風まで本物のサバンナを彷彿とさせるがこれはVR空間である。
この没入感からVR空間でリアルとの境目が分からなくなってしまう人がいるのも分からなくはない。
「う、うわぁ……」
「こ、ここは本当にさっきと同じところなのですか?」
クリーさんは信じられないと言った表情を浮かべている。
僕としてはこのゲームでは初めてのステージだが、「なるほど、このタイプか……」という感じである。
このゲームに関してはそれほどやりこんでいないのでピラミッドダンジョンの多様なギミックをこの目で見ているわけでは無いが、他のゲームをやりこんだ上での経験や勘というのは役に立つ。




