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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第3章 電脳戦

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第13話 龍の不思議な行動パターン

 ふぅーっと深呼吸をして、龍に向きなおる。頭がクリアになる。

龍そのものは圧倒的なスケールと威圧感があるが、今は自分のパフォーマンスをいかにして発揮できるかどうかだけを考えた。


 ピー! ッとスタートの合図が鳴るとすかさず龍が僕めがけて波状攻撃をしてくる。

 

「ふんっ!」


 まず赤い頭が攻撃をしてきたので、サッと右に交わす。

 次に、黄色い頭。その次に緑色の頭と言ったように連続的に攻撃を畳み掛けてくる。


「たあっ!」


 チェリーさんもスピードはさほどではないものの、確実に龍の頭をめがけて当てていっている。


 もう少し踏み込まなければクリーさんの出番がない。避けるだけではダメなんだ。

 多少の恐怖はあるが、思い切って一歩、龍の足元に踏み込んで斬りつけた。


「私も行きます!」


 クリーさんもすぐ後ろで龍に対して斬りつけて来た。


 正直なところ踏み込まずに、単純に龍の攻撃を避けるだけならば、ほとんど無限に近い程の時間を稼ぐことは可能だろう。


本当ならクリーさんはほとんど何もせずに見物してもらう方が僕としてはやりやすいのだが、役割を与えないことは疎外感を与えてしまいチームの状況としては後々のことを考えると非常に危険なのだ。


更に、クリーさんのいる位置や動く速度を計算しておかなければクリーさんが狙われる。これまでこの龍と戦って得た経験から僕が想定したよりも動ける範囲と言うのは限られていた。

 この状況はほとんど“縛りプレイ”に近い形と言えた。


「あっ! 2人とも来るぞ!」


 6つの翼をバサッと動かしながら攻撃をしてきたのでいよいよ飛び立つ瞬間が来ると察知した。


「はいっ!」


 ドーン! という龍の着地する轟音と共に砂埃が舞い上がる。

 その砂埃が収まらないうちに、再び龍が僕をめがけて攻撃をしてくる。


「危なっ!」


 ちょっと、砂ぼこりで見えない状態になったので間一髪だった。

 7割削って倒しきれなかった時もこういう僅かな隙を突かれて負けてしまったのだ。

 この隙が一番怖いと言える。


 体勢を立て直した後は、前と同じように避けながら攻撃を繰り返す――まぁ、僕の与えている1発あたりのダメージでは0.1%にも満たないのでアリバイ作りレベルのあまりにもショボすぎる攻撃だけど(笑)。

 

 チェリーさんが相変わらず、的確に攻撃を繰り返している。

 元からセンスがあるとは思っているが、

正直、僕が見ていない時の方がクオリティが高いという不思議なことをやってのけている。


 龍が今度は羽の動き方を変えてきた。


「皆! 羽が来るぞ! 横に!」


 僕は横跳びに避けた頭上を通過した直後すぐに立ち上がる。

周りを一瞬見ると2人とも無事に回避できたようだ。

だが、安心している場合ではない。通常の攻撃が再び飛んでくるからだ。


「とうっ!」


 こっちの方が衝撃が少ないので割とすぐに体勢を立て直せる。

 今の状態でループが続けば何とか勝てそうか?

 今のところ僕たちが戦い始めてからHPゲージは5%削れてのこり25%だ。

 これをあと5回続けられるかどうかは僕が耐えられるかどうか次第と言える。


「この調子なら行けそうですね! 流石です!」


 チェリーさんの声が後ろから聞こえてくる。


「チェリーさん! 油断しないで! 集中して臨んで欲しい!」


 ある程度のループに入った時は気の緩みが一番の敵だ。


「済みません!」


 この攻撃のループを3回ほど繰り返したところで、龍の動きが今までにない動きをしてきた。

 何と、同時に複数の龍の首から攻撃をし始めたのだ!


「何ッ!?」


 辛うじて避けたが危なかった……。


 残りHPは10%ほどだ。

 中にはHPが減少するごとに行動パターンを変更してくるタイプのボスも存在している。

 しかし、この龍にはそう言った傾向は僕のデータの上では無かったはず……仕様が変更されたのかそれとも今のはバグでも発生したのか……。


「!?!?」


 次に、複数の龍の首から攻撃があった時僅かではあるがグラフィックに歪みが生じたような気がした。

 僕が横っ飛びで避けたので映像が乱れたような気がしただけなのかもしれないが……。


「皆! 気を付けてっ! 龍の動きが想定と変わった!」


 ところが一歩声をかけるのが遅れた。


「しまった……」


「キャッー!」

「うわー!」

 

 チェリーさんとクリーさんは攻撃をもろに直撃しあっという間にHPゲージがゼロになってしまった。


 龍に思わぬ動きをされたので、僕の動揺が判断をする速度を下げたのだ……。

 規格外の動きを敵がしているから避けられたか分からないが、次回から気を付けなければいけない。


「ふぅ……これはかなり難しくなったな」


 まず、僕の攻撃がしょぼすぎることからここから普通に10%の体力を削ることが難しい。

 そして、攻撃は時間を追うごとに激しくなってきている。


 ついに全ての口から攻撃が出てくるようになった。バク転しながら、後ろに下がることで何とか交わしたが――これはもう僕の技術をもってしても捉えられるのも時間の問題が……。

 今は最後の勝ち筋に賭けるしかない!


「くそっ! イチかバチかだっ! 喰らえっ! ラストインパレス!」


 大きく飛び上がって先ほどのチームから貰った技をここで使わせてもらった!

 正直、ここで倒せなかったら即ダウンするぐらいの体勢は崩れているが、現時点で出せる最高ダメージを叩き出せる射程と範囲を捉えることは出来たはずだ!


「いけぇっ! 2人の分までっ! ここで! 決めるっ!」


 残る龍のHPゲージが一気に吹き飛んだ! 電子の粒子となって竜は消えていった。


「ふぅ~! やったぁ!」

 

 勝利すると強制的に安全地帯に飛ばされる。勝利直後に対人の奇襲が起きる“ハイエナ事件”が多発したためだ。


「や、やりましたね! まさか本当に勝てるとは!」


 クリーさんは目を丸くしながら喜んでくれている。


「本当に虻輝さんみたいでカッコ良かったです! 尊敬します!」


 チェリーさんは目を輝かせている。本当に僕だとバレている可能性すらあるわ……。


「僕もラストはイチかバチかという感じだった。

最後はこれまでに例の無い思っても見なかった動きだった……。まさか僕が知らない間にアップデートされたというのか……?」


「私には分かりませんが、どうなんでしょうね? ところで、中世アメリカの世界観の筈なのにどうしてヤマタノオロチだったのでしょうか……?」


「ハハハ! 確かにそうだよね。目の前にしている時はそんなことを全く考えなかった」


 チェリーさんはとても面白い人だなと思った。僕は勝つことしか考えていなかったのでそんなことは全く頭によぎらなかった。レアボスだから時代設定とは無視して出てくるのだろう……。


「ところで、ドロップ品は何だったんですか? どれぐらいのスキルや装備品が手に入ったのか気になります」


 クリーさんに言われるまで存在を忘れていた。


「あぁ、そうだね。ちょっと確認してみるよ」


もはやこのゲームでの順位とかそれ以前の問題としてこのチームで勝ちたかったのだ。


「ふぅむ。装備はランク6の防具で思ったより大したことが無いな……副産物がランクSだからこれは中々価値がありそうだけど。ゴールドに当面心配がいらなくなったのが大きいかな」


 先ほどの不意打ちを仕掛けてきた奴らが使った逃亡用の煙玉などを予備で勝っておくのも良いかもしれない。それぐらいの余裕が出来た。


「副産物のランクと言うのはどれぐらい意味があるのですか?」


「Sランクの副産物は非常に安定的に高い評価が得られる可能性が高いんだよ。

 確かデータだと95%ぐらいの確率で高レート帯の評価になるとか」


「それは素晴らしい成果ではありませんか……我々はこれでかなり上位に行ける可能性があるのではないですか?」


「そうだね。現状で帰って寝ても3桁の順位は行けるかもしれない」


 Sランクはそれだけ貴重と言える。


「凄いですけど、せっかくあれだけのボスを倒したのですから、もっと上を目指したいですね。

 どうしたら良いでしょうか?」


「これからは手堅い動きをした方が良いだろう。

 装備については無難なステータスの防具が手に入ったぐらいだから、

 負けた時のドロップアウトが少なく、かなりの高い確率で小さいリターンが得られるダンジョンを選んでいこうと思う。

 後は、リスク回避のために煙玉などを買っておこうと思う」


「そう言う行動方針になるんですね。何だか守りの動きみたいでちょっと嫌ですけど……」

 

 チェリーさんは思ったよりも結構攻撃的な性格なのかちょっと残念そうだった。


「まぁ、全くスリルの無いダンジョンって言うのは無いから安心して」


「それより時間は大丈夫ですか? 1つ目のダンジョン攻略に2時間ぐらいかかっちゃいましたけど……」


 クリーさんはそこを心配していた。とても真面目なのだろう。


「まぁ、訓練もしながらだったしある程度は仕方ないかなと思う。

 それを挽回するだけの成果は出たし、ダンジョン攻略数にこだわる必要は無いかなと思うけどね」


 現在の経過時間は2時間5分ほど。1時間か1時間半で1つのペースが通常だと思っているので流石にこれは時間がかかりすぎだ。

 だが、2人の実力やメンタル面を考慮するとこれが最善だと思ったのだから仕方ない。


「逆に言うとまだ4時間近くもありますからね! ここから挽回していきましょう!」


 チェリーさんが立ち上がり率先して安全なゾーンから出ようとしていく、

 僕とクリーさんは笑いながら後を追った。

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