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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第3章 電脳戦

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第12話 九頭の龍

 そして、良いムードのままボスゾーンに辿り着いたとき――僕たちは同時に固まった。


「な、なんですかアレは?」


 僕たちの前に立ち塞がる巨大なドラゴンは、20メートル近くもある。

9つの頭があり、目は真っ赤で牙は鋭い。様々な色を持つ鱗がとても輝いている。翼は6枚もあり鋭利な刃物のようにも見えた。

まさに日本の神話に出てくるようなヤマタノオロチのような風格があり、目の前にいるだけで圧倒されている。


「ギュオオオオオオス!!!!!」


 龍の咆哮だけで吹き飛ばされそうなほどの威力だ。

これは――とんでもないレアボスだ。


「だ、大丈夫。これは見掛け倒しだよ」

 

 見掛け倒しでないことは僕が一番よく知っている。1万匹に1体と言われるほどの激レアであり、それに相応するだけの強さを持っている。

 次々と倒された後に湧き出てくるそんじょそこらのモブボスとは訳が違うのだ。


 そんな風に僕たちが怯んでいる中、別のチームが挑戦した。


「ギィヤァァァァーーーー!!!」


 ――まさに一瞬だった。先に挑戦したチームは1分もしない間に龍の連続攻撃により壊滅したのだ。

 見掛け倒しでないことが名実ともに証明されてしまった……。


「こ、これは……稀に見るボスですね……」

 

 クリーさんも口をワナワナさせながら圧倒されたのか、一歩二歩と後退させた。


「ど、どうしましょう……ここは退いた方が良いんでしょうか?」


 例え倒せなくともHPを削った割合に応じて報酬が貰える。

 だが、ほとんどダメージを与えられないと全滅した時のドロップアウトしてしまうアイテムの方が大きい可能性もあるのだ。

 チェリーさんの提案と言うのは安全かつ無難な選択肢と言えた。


 だが、僕としては戦いたかった。例え負けても何か収穫を得ることができる。

 なにより、強い相手を目の前にすると武者震いが起きる。

 2人に対して改めて向き直った。


「確かに次元が違うレベルのボスで僕もあまり相手にしたことのないレベルだ。

でも、確率は低いけど勝ち筋はある。

 ここは、僕を信じてくれないか? ここで何もせず退いて後悔したくないんだ

 仮に失敗したら何か補填するから」


 しかし、僕個人のモチベーションとは関係なく2人がどうしても戦いたくないというのなら、止めた方が良いと思う。

1人でも士気が低い状態で戦いを挑むのは、一番技術がある僕の武器がしょぼい以上、単独スタンドプレイで勝つことは難しい。

つまり、勝率はゼロになってしまうからだ。

だから無理には言わないつもりだが、僕の中ではある程度の道筋はたっている。

ここで何も提案などもせずに退くのならプロでは無い。


「そ、そうですよね。ここでもし、HPを0にできたら大きな利益になります」


 チェリーさんは目が少し潤んでいるようで少し不安なのかもしれない。

だが、さっきの技術を再現できるなら勝機はある。


「テルル中将さんが私たちのリーダーです。リーダーの決断に従いますよ。私も全力で戦います」


 HPの割合以外の報酬として、『ラストアタック賞』という倒した時に貰える報酬が圧倒的に大きい。このドラゴンの体力は残り約3割というところか。

僕の頑張り次第というところはあるのだが、上手くいけばラストアタック賞を狙える十分射程圏内と言えた。

 

「ありがとう。2人の気持ち、絶対に無駄にしないよ」


「それにしてもどうすればいいんでしょうか? 何か方法があるんですか?」


「先程のチームを見て分かる通り一見するとそれぞれの首が連続の波状攻撃をしてきて勝つのはかなり難しいように見える。

 しかし、HPゲージが7割削れているのを見て分かる通り、全くの無敵では無い。

これは、プレイング次第ではどうにでもなるんだよ」


「そ、そうなんですか……?」


 2人の表情が冴えない。しっかり説明していかないとな。


「まず、特徴としてあのドラゴンから見て一番近い相手を攻撃する。これは統計データ上の確定行動だ。

 ただし、その攻撃はどの口から出てくるか分からないのが厄介だ。

 でも、安心して。僕がその相手の攻撃を引き付ける相手をする」


「それでは、テルル中将さんがとても大変じゃないですか……?」


 僕はポンと胸を叩いた。


「任せて。1回は撃破したことがあるんだから。倒せなかった時もHPマックスの状態から7割削った時もあった」


どんなボスであっても行動パターンを把握しておけばある程度の対処は可能だ。

そして、どんなにレアなボスであっても動きのパターンを僕は把握している上にそれを超えるだけのスキルを持っている。


「そ、そうなんですね……流石の実力です。戦術なども全て任せます」


 確かに大変ではある。相手の動きを観察しつつ、状況次第ではかなり神経を使った繊細な動きをしなければいけないからだ。

だが、その瞬間こそが他の一般人とプロの動きとの差の見せ所と言える。

 

「注意して欲しいのは、メインとなる連続の攻撃は僕に集中するんだが、それ以外の“付属的な動き”に関しては後衛にも影響が及ぶ。

 一定時間ごとに飛び上がって攻撃をしてくることがあるんだが、

 着地した時に踏み潰されてしまうことがある。

 次に、あの大きく鋭利な6枚の翼だ。アレに触れただけでダウンしてしまうから羽ばたくだけで危険なんだ。この2つに注意して欲しい」

 

「なるほど、極めて冷静な分析ですね」


 クリーさんは落ち着いてきたのか、いつもの調子で答えてくれた。


「どういう時に、“付属的な動き”をしてくるかは僕が指示をするから、2人はその時に避けて欲しい。“来るぞ!”とか叫ぶことにするからその時は横に逃げて欲しい」


「はい」


「チェリーさんは龍の首が少しだけダメージがより多く受けるから、そこを狙って欲しい。

 出来れば、首が青めのところに狙ってくれると更にダメージが上がる。水属性だからね

 今回のメインダメージソースはチェリーさんになる。

重荷かもしれないけど頑張ってくれ」


「分かりました。やって見せます! 絶対に挽回してみせます!」


 気負い過ぎないか気になるが、先ほどのクオリティを再現してくれれば大丈夫だろう。


「クリーさんはかなり難しい動きをしてもらう。どちらかというと僕の様子を見て欲しい。

僕が前に踏み込んでいる間だけ前に出て攻撃して欲しい。

攻撃対象になっちゃうからね」


「なるほど……何とかやってみます」


2人の顔に一歩近づき、肩を組んだ。ちょっとした円陣だ。


「よしっ! 絶対勝つぞ! 僕たちの最高の連携を見せる時だ!」


「はいっ!」

「ええ!」

 

 2人の表情は良い! これなら勝てる可能性は十分にある! 

 円陣を解くと僕たちはボスへのエントリーゾーンと力強く足を踏み入れた。

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