第11話 特訓の成果
僕たち3人は30分ほどミッチリとシミュレーターで訓練した。
基本的な動きの復習に加え、この攻撃ごとの回避の仕方や、効率よくダメージを与える方法などを逐一教えたつもりだ。
「す、凄いですね……プラチナランクだとこういうことも分かってくるんですね……」
クリーさんは感嘆の声を上げた。
あぁ、標準的なプラチナランクだと絶対にここまで分かっている人は少ない。というか皆無だろう。どう言おうか……。
「ま、まぁ皆がこうでは無いとは思うけどね。僕は比較的ゲーム全般が好きだから。
それについては何でも極めたくなっちゃうんだよね。
結構ゲームに関することならなんでも調べて1回で覚えちゃうんだよ。
学校の勉強に関しては絶望的に何も覚えられないんだけど(笑)」
マジでゲームのデータだけは一瞬で覚えられるんだけど、テスト勉強に関しては目から入って耳や鼻から抜けていくんだよな……。
「それでも、虻輝さんのアバターを使っているぐらいですからやはり相当自信があるんでしょうね」
チェリーさん、何度も言いたいけど本人だけどね。
「規約上素性は言えないけど、あらゆるゲームをやりこんでいるのは間違いないね。
それなりに自信があるのは間違いないね。
さぁ、いよいよ行こうか。ボスのいる所に」
下手に話すとボロが出そうでホント怖い……次の瞬間強制追放になっていないか本当に注意しないと……。
本人だと名乗って高笑いしたい欲望を何とか抑えないと……
「は、はい」
チェリーさんが肩も足もガチガチに緊張した面持ちだったので肩を叩いて励ましてあげた。
「大丈夫だよ。最後はしっかりと動けるようになったんだしさ。
精一杯やってくれれば結果は気にしないよ」
そうは言ってもチェリーさんはセンスがあるのは間違いない。
やはり、リアルでも武術を嗜んでいるというのは本当らしい。
まぁ、僕に象徴されるようにリアルがヘボイ奴でもアバター操作が格段に上手い奴って言うのはいるけどね……。
「そうですよね。やれることはやりましたものね……」
「俊敏に方向を切り返す動きに関しては僕より精度が高いと思うよ。
初心者とは思えないレベルだから自信を持っていい」
「私もチェリーさんはとても素質があると思います。
と言うよりテルル中将さんがちょっと全体的に動きが凄まじすぎますよね。
指示しながらアレが出来るなんて相当な腕前なのであんまり比べることは良くない事かと……」
クリーさんはそう言ってくれた。
「そう? これでもちょっと武器がしょぼすぎて困っているんだけど……」
流石にランク2や3の武器防具だと心許なさ過ぎる……。
とにかくボスクラスになるとダメージが入らないので相手の攻撃を逸らさせると言ったサポートに回る形になっていた。
「そこのチーム! 勝負しないか?」
あと少しでボスゾーンというところで今回は正々堂々と正面から挑んで来るチームが出てきた。
いわゆるRPGです! と言った感じの戦士と魔法使いとヒーラーと言った感じのメンバー構成だ。
「やりましょう! 任せて下さい!」
チェリーさんが前に出て行こうとしたのを制止した。
「まぁ、焦らず役割に徹して欲しい。後ろから隙を見て攻撃して欲しいんだ。
その隙は僕が作るから」
「わ、分かりました」
サッと僕とクリーさんが前に出て、3人の攻撃を2人で上手く受け流し始める。
「とりゃ!」
クリーさんの風魔法が僕たちの間を縫うようにして相手に直撃して魔法使い風の1人をダウンさせる。
更に畳み掛けるようにしてヒーラーのような相手に対してクリーさんが斬りかかる!
「うわー!」
隙が出たところで更に僕も援護攻撃を加え、ヒーラー風の男をダウンさせることに成功した。
「くっ! これならどうだ! ラストインパレス!」
戦士風の奴は先ほどのように逃げずにあまり無いタイプの特殊攻撃をしてくる!
何をやって来るか分からんがとりあえずは、最低限のダメージで済むような避け方をした。
「うわっ!」
しかし、クリーさんはヒーラーを倒した後の体勢を立て直すタイミングが遅れたので攻撃が直撃してしまった。
あっという間にHPがゼロになってしまう。
あれは確か、仲間がいなくなればなるほど威力が上がり、攻撃範囲も広がる特殊なタイプのスキルだ。
クリーさんの防御力はかなり高いはずだがHP満タンの状態から一発だったのもそのためだろう。
僕も直撃をしていればまず一撃でダウンしていただろう……。
「よくもやってくれましたねっ!」
チェリーさんもうまいこと交わしたのか戦士風の男に攻撃を加えた。
「ちっ!」
戦士風の男は辛うじて交わしたがバランスを崩した。
「これでどうだ!」
僕は連続攻撃を戦士風の男に加え、更に僕の体を縫って再びチェリーさんが攻撃を命中させる!
「ガハッ……!」
戦士風の男が倒れ、相手のチームメンバー3人が強制的に街に送還された。間一髪だった……。
「やりましたね!」
チェリーさんが駆けつけてくる。ついにチームとして完全に勝利した。
報酬は先ほどの仲間がいなくなればなるほど威力が上がるスキルだ。
このスキルは着脱可能だから局面次第ではあるがとても役に立つだろう。
「す、すみません……ダウンしてしまって……」
クリーさんが全快アイテムを貰いながらそう言った。
「大丈夫、大丈夫。しっかり勝てたんだしさ。それぞれが役割を果たしてくれたのが一番大きいよ。
後はチェリーさんが素晴らしい働きだった。
僕に当てずに敵に着弾させるだなんて並みの初心者の動きでは無いね」
正直なところ、一番驚いたのはその点だ。味方が目の前でチラつくと初心者だと“当ててしまうのではないか?”という気持ちが強くなり攻撃できなくなってしまうからだ。
「さっきお時間を頂いて、いっぱい練習しましたからね。
成果を出せなかったらむしろ申し訳ないです」
責任感や度胸もあるのだろう。このゲームに関しては初心者というだけで、非常に高いポテンシャルを感じた。
「僕たちのチームとしては初の完全勝利だったのも良かったね。
この流れをもってボスに挑めば勝てるかもしれないね」
結構、人に依存したプレイングが多いのでとにかくムードが大事になって来る。
チェリーさんのモチベーションや気負いについてもケアしたのもそのためだ。
雰囲気がいいときはドンドン進んだ方が良いのだ。
「はい! かなり自信になりました!」
「ドロップしたスキルについてはどうしようか? これは結構強めの着脱式の地属性スキルだけど」
ちょっと、攻撃するタイミングが大事になるけどね。
「テルル中将さんが持っていてください。判断力が優れているリーダーが弱い装備なのが何とも言えないです」
「私もそう思います。攪乱向きなのは本来は私なのに……」
クリーさんがそんなことを言ってきたのにチェリーさんも同調した。
「うん、分かった。装備がタフなクリーさんが持っているのが相応しいような気もするけどね。その常識を覆すぐらい何とかうまく活用してみせるよ」
2人は能力も高い。その上に僕に対する期待や信頼も大きい。
何とかこのチームで少しでも上に行きたいな。個人的な目標は度返しして久しぶりに心の底からそう思えるメンバーだった。




