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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第3章 電脳戦

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第5話 玲子のからかい

「それより、今日も訓練するの? 流石にここ数日の疲労が凄すぎてそろそろ休みにしたいんだが……」

 昼食を食べ終わったところで僕はそう切り出した。

今日の昼食はいつもの玲姉健康食ラインナップがちょっとが豪華になったような感じだった。


 いい加減体を休めるかゲームをして切り替えないとやってられない……。

 体がボロボロだからVR系統のゲームをやるかな。

あれは慣れれば疲労をあまり感じずにゲームができるかな。慣れないとボロボロに疲れるけど……。


「そうねぇ、流石に今日は訓練は無しにしておいてあげるわ~。今回の件ではよく頑張ったしね~」

 玲姉が珍しく空気が読めた発言をする。

この短期間の間に為継が美甘経由か何かで連絡をしてくれたのだろうか……。

それにしても不気味なほどあまりにも理解が良すぎる。

 

 はっ! 逆に言えば何か裏があるのでは!? “妙に優しい日”というのは僕が考えられるレベルの範疇の外に“狙い”があるはず。


「輝君、今日は本当に休んで良いわよ。美甘さんから聞いたわ。

半日ぐらい休みがあったほうが良いでしょう?」

 僕の思考を読んでの発言だろう。すかさずそんなことを玲姉が追加してきた。


「あ、ああ……」

 ニッコリしているその表情が逆に怪しいんだよ……。


「別に自由にしてもらって構わないんだから。別に何を食べても良いし、何のゲームをしてもらっても構わないんだからね」


 それなら流石に大丈夫だろう……肩の力が抜けたのが分かった。妙に疑り深くなってしまった……。


「ふぃ~。お菓子でも取ってくるか~」

「それなら、私は紅茶でも淹れてあげるわ」

 僕と玲姉がほぼ同時に立ち上がってキッチンに向かう。そこで何となく思い出したことが一つあった。


「そういや、三浦さんがまどかや島村さんと僕を一緒の部屋にしたんだよ。案の定、騒動になったし大変だったよ。

 全くヘンな勘違いしないで欲しいよな」

 そのせいで島村さんに記憶を吹き飛ばされるほど殴られたしな……。

 まぁ、責任転嫁しているだけで僕のせいだけど……。


「私達もよく勘違いされるわよね?」

 玲姉と僕も“付き合っているのではないか”疑惑が2人でいるところを目撃されるたびに持ち上がる。全く、いい加減にして欲しいよな……。


「玲姉もいい迷惑だろ? 僕なんかと付き合っていることにされていてさ」

 ところが玲姉はすぐに返答しない。玲姉の方を見ると何とも言えない神妙な表情をしている。

厨房の方から烏丸が料理の作ってくる音が妙に聞こえてくる。


「別に私は迷惑じゃないけどね」

 は……? ようやく返事をしたと思ったら何を意図しているのか全く不明の返答だ。

例によって、冗談で言っているのかどうか分からない。僕はどう捉えたらいいのか……。


「あ……そうなの……」

 とりあえず玲姉の出方を窺う。何か逆鱗に触れる可能性もあるので慎重に……。


 烏丸のトントンという包丁の音がやけに耳に付く。

奴は自分の料理に集中しているせいかこちらの“異変”については全く察知していないようだ。


「輝君は私と恋人同士に思われるのは嫌?」

 玲姉が上目遣いで見てくる。妖艶な視線に魅入られたかのように心臓の高鳴りが止まらない。心臓に耳が直接付いているのではないか? と思えるほどだ。


「い、いや……嫌じゃないけど」

 気が付けばパリパリに乾いていた口からようやく発した言葉はそれが精一杯だった。

 

「私には、あなたしかいないの……」

 玲姉が体を密着してくる。2人の眼が合った。


「れ、冷静に考えてみてよ。僕じゃ玲姉と釣り合いが取れないって……」


「私はそうは思わないけど……もし輝君がそう思うならそう言う男になって欲しいかな……」

 玲姉が耳元で囁いてくる。頭が何も考えられなくなりバグり始めてきた。


「ねぇ……今日はフリーになったんだし。空いてるでしょ? 私と一緒にどこか行かない? 2人きりで。ね?」

 玲姉が僕の腕に絡みつきながら僕の耳元に甘く囁く。それは、超えてはいけない一線のような気がした。


「で、でも、やっぱり姉と弟でしょ? そう言うのは流石に……ね?」

 玲姉の甘い香り、柔らかい感触の前に体が勝手に硬直してきた。

これに一つ今何かされれば“とんでもない行動”を起こしかねない。


「フフフ……真に受けちゃって、可愛いわね~。ホントからかうと反応が面白いんだから」

 玲姉が僕からサッと離れると口元を隠しながら笑っている。

ほ、ほらね。やっぱりからかっていたんだ。危ない危ない。とんでもない選択をしてしまいかねなかった……。


「もぉ~からかわないでくれよな~。心臓が飛び出しそうだったじゃないか~」

 “この手の出来事“は一度や二度では無いのだが、その都度”本気ではないのか?“と思えてしまうのだから玲姉の演技力はとんでもない。


「だって、輝君の反応を見ていると楽しいんだから仕方ないじゃない~」

 玲姉はいつもの笑顔に戻る。更に少し離れてくれた。

ふぅ、ようやく心の底から肩の力が抜けるってもんだ……。


「他人にはやるなよ。真に受ける馬鹿が出てくるかもしれないからな」


「あら? もしかして嫉妬かしら~?」


「そ、そういうつもりでは……」

 思わず後ずさりしてしまった……。顔も赤くなっていないか心配だ……。


「大丈夫よ~。輝君にしかこんなことをしないから~」

 また玲姉がフフフと笑いながら去っていく。皆の元へ一足先に行ったのだ。この様にして僕は玲姉に弄ばれ続けるのだ。


 しかし、玲姉も気の毒だよな。全てにおいて完成され、ハイスペック過ぎるがゆえに釣り合うような相応しい男がいないんだからさ。



 玲姉から紅茶を受け取りお菓子を持って部屋に戻って1人になる。

ふと、玲姉は空いた半日を使って構って欲しかったのかな? と思ってしまった。

ちなみに、VR空間からお菓子だけを食べに一瞬だけ戻ってくることは可能だ。


「まさかな。僕の思い上がりも良いところだろう。自惚れるのもいい加減にしよ……」

 しかし先ほどは、思わずヘンことを口走ってしまったが、

よく考えて見るとそもそも玲姉に交際相手が僕の知る限り全くいないことは異常なのだ……。

そのことを指摘すると僕の記憶が吹き飛ぶほど殴られるので完全にタブーではあるのだが……。


 トントン。カチャ!

「輝君、19時にはご飯だから必ず戻ってくるのよ――というか無理やりにでも戻ってきてもらうからね」

 玲姉がドアから顔を覗かせた。玲姉のことを考えていたから心臓が体から飛び出そうになるほど驚いた!


「わ、分かった。絶対に19時には食卓に付けるように戻って来る」

 玲姉は満足げな表情をして部屋から出て行った。


 ふぅ……玲姉は心の中で凄く楽しんでるだろうな。

 例え玲姉が僕のことを好きだとしても、一線を越えたいとは思わない。

この玲姉との微妙な距離感を僕としても保ちたいのだ。まるで本当の姉と弟のようにいつまでも……。

それがお互いのためになるのだと僕は信じている。

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