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幽かな希望掻き集め 光に変える

宮廷へと潜り込んだ甘香かんか達一行。

天帝に、国に、そして熊星ゆうせいに迫る危機を打ち払えるか?


どうぞお楽しみください。

「……上手くいきましたね」

「私、姫様の真似、頑張った」

「本当に上手でしたよ玄流ちゃん。お作法とか教えたらすぐ覚えちゃいそうね」

「見て真似するの、得意」


 外套で顔と髪を隠していた甘香かんかが、息を吐いて顔を上げました。

 隣で村から贈られた豪華な衣装に身を包み、甘香の装飾品を付けた玄流げんるが、得意げな顔をしていました。


「しかし桃白殿の策は本当に奥が深い。玄流殿に姫のふりをさせる事で、万が一門番が他の者に報告しても特徴の違いで混乱させられるとは……」

「私はこの桃銀の髪がどうしても目立ってしまいますから……」


 青風せいふうの言葉に、甘香は恥ずかしそうに自分の髪をいじります。


「ともあれ無事に宮廷に入れました。後は時間との勝負ですね」

「……はい。桃白の予想通りなら大変な事になります。熊星ゆうせいよりも先に首謀者を見つけないと……」


 甘香は膝の上の手を強く握り締めます。

 その脳裏には、熊星と別れた後の会話が流れていました。




「桃白! 熊星が嘘を吐いていたとはどういう事ですか!?」

「落ち着きな姫さん。まず一つ目。旦那は『万夫不当ばんぷふとうしゅ長夏ちょうかを知ってる」

「えっ!?」


 桃白の言葉は、勢い込む甘香を止めるのに十分でした。


「俺の問いに、一瞬目が上を向いた。記憶を探る時に無意識にやる動作だ。つまり知らねぇってのは嘘」

「……」

「しかし旦那には動揺は無かった。つまり朱長夏を知ってなおやり合う自信か、出し抜く策があるって事だ」

「そう、ですか。良かった……」


 しかし甘香の安心は、次の桃白の言葉で崩れました。


「だがもう一つの問い、姫さんのところに戻るのかの問いに、一瞬目が逸れた。戻る気は無いって事だ」

「……! そんな……!」

「つまりあの策自体嘘だな。まぁ天子様を連れ出してもいくさを止めるまでに快復するか分からねぇから当然だが」

「それは……、考えたくはないですが……」

「だがここで旦那がとんずらこくとも思えねぇ。つまり旦那は天子様をお連れしないで、事態の解決を図る決意をしてたって事だ」

「そ、そんな方法ありますか!?」

「ある。それは……」


 桃白は一瞬言い淀んで、それでもはっきり口にしました。


「暗殺だ」

「!」


 甘香の頭に、熊星の豪快な笑顔が浮かびます。

 その顔が返り血で紅く染まる想像に、甘香は身震いしました。


「旦那の事だ。相手構わずって事はないだろう。忍び込んで首謀者を探り、確信が持てたらばっさり、だろうな。これなら天子様を連れ出さなくても戦は回避できる」

「で、でもそんな事をしたら……!」

「……宮廷の中でお偉いさんを、確たる証拠もなく斬る……。捕まりゃ死罪。逃げても生涯お尋ね者だろうな」

「そんなの、見過ごせません!」


 甘香は勢い良く立ち上がります。


「おいおい姫さん。まさかとは思うが、旦那を止めに行くのかい?」

「いえ! 熊星は熊星の覚悟でそうすると決めたのでしょう! ですから私は、熊星が首謀者を見つける前にそれを突き止め、血を流さずに解決します!」


 その迷いのない言葉に、桃白は息を呑み、そしてゆっくりと吐きました。


「……旦那を止めるんじゃなくて、旦那に勝つ気かい」

「はい!」

「姫さんは今宮廷に行ったら身柄を拘束されるのを分かって言ってるのかい?」

「元々白邑(はくゆう)を抜け出して来た身、まともに入れるとは思っていません。皇族とごく僅かな側近のみが知る隠し通路から入ります」

「……ははっ、成程。勝算はある訳だ。なら俺も乗らせてもらうかな」

「え?」


 驚く甘香に、桃白は悪戯っぽい笑みを向けました。


「旦那可愛さに戦を止めるのを諦めるって言うかと思ったが、あの旦那に勝つっていう気概が気に入った。手伝わせてもらうぜ」

「で、でも……」

「俺は旦那に一度一泡吹かされてるんだ。やり返さない内にお尋ね者になられちゃ困るんだよ」

「桃白……」

「それに、さ……」


 桃白は軽薄な笑みを消して俯き、声を落とします。


「俺は戦で親と家を失った孤児だ」

「!」

「生きる術がなくて、盗みやら詐欺やらで飯を食ってきた。今更恨み言を言う気はねぇが、新たな戦で俺みてぇな奴が増えんのは我慢がならねぇ」

「桃白……!」

「おっと、義侠心とかじゃねぇぜ? 商売敵が増えると俺の上がりが減るからな!」

「ふふっ……。では桃白、力を貸して下さい」

「心得た!」


 すると黙っていた玄流が手を上げました。


「姫様、私、手伝う」

「え、でも玄流ちゃんは危ないから、青風と白邑に……」

「姫様、助けたい。熊星も、助けたい。私、頑張る」

「……有り難う」

「俺も玄流がいた方が助かるな。策の幅が広がる」

「桃白、私、役に立つ?」

「当たり前だ。見たもの聞いた事何でも覚えられるなら、情報集めにぴったりじゃねぇか」

「うん、私、頑張る」


 そこで青風もおずおずと手を上げました。


「私も天子様のお加減を見たいので……」

「お願いします青風。お父様が快復されれば、きっと全てが収まります」

「そうと決まったら遅れを取っちゃいられねぇな! 乗りな! すぐ出発するぜ!」


 そうして一行は熊星を追い、都へと到着したのでした。




 隠し通路の中で、桃白は三人に最後の確認を行います。


「さてと。じゃあ俺と玄流はそれぞれ情報収集に当たる。姫さんと薬師の旦那は、天子様の部屋に忍び込んで、見つからないように看護しつつ、情報を集めてくれ」

「分かりました」

「天子様のお身体の事はお任せ下さい」

「玄流、さっき教えた事覚えてるな?」

「私は特級女吏とっきゅうにょり。宮廷内に天子様に叛意持つ者ありと聞いて調査に来た。知る事全てを話せばその罪は免じると約束しよう」

「凄い……。本当にお役人のようですね……」

「おっと、疑うのは構わないが、ここで隠し立てをする事は後ろ暗い事があると判断せざるを得ない。こちらも無実の者を裁きたくはないのだがな」


 その堂々とした姿に感心しつつも、甘香は心からの心配を玄流に向けます。


「玄流ちゃん、危なくなったらすぐに隠し通路に逃げてね」

「大丈夫。桃白、受け答え、教えてくれたから。意地悪な質問も、大丈夫」

「おいおい、それじゃ俺が意地悪みてぇじゃねぇか」


 押し殺した笑いが零れます。


「じゃあお互い自分の安全を最優先にな」

「はい」

「分かりました」

「うん」


 こうして甘香達は、戦を止める為、熊星を救う為、動き出しました。

 朱長夏が宮廷にいる事を知らないままに……。

読了ありがとうございます。


縋るのではなく上を行くという発想。

甘香は武闘派じゃないけど戦うヒロイン。

私の趣味もりもり第三弾がここに。


次話『旅が紡いだ光集い 黒きかすみ払って』

残り二話、よろしくお願いいたします。

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