第6話 暴君
父を殺された裕二は、ウォンツマンになり仇を討とうとする。ついに始まる、ドメスティックマンとの戦い、はたして裕二は、勝つことができるのか。
「ドンッ!!」
グシャ、ボキッ!というグロい音と激痛が裕二の右手に走る。
「うわああああーーーー!!!いてぇーーー」
ドメスティックマンと拳を突き合わせた裕二は、右手を粉々にされ、ぶっ飛ばされた。持っている力が全く違う。そして、あまりの痛さに裕二は地面をのたうち回った。
「おいおい、こっちはまだ、全然、本気じゃあ、ないぜ。ヒョロガリニートくん」
「なんなんだよ、コイツ……マジ、化物かよ。てか、クソ痛いやんだが」
裕二は、プラプラして動かない自分の右手を見て驚く。体当たりでコンクリートの壁をぶち破るウォンツマンの攻撃が、あの暴力男には全く効いていないことが信じられなかった。
「おいおい、一撃で終わりかよ?もっと、ほら、足掻けよ。殺すな、生きて連れてこいと、言われているんだからよ」
そう言うと、暴力男は裕二に向かってすごい速さで突進してくる。
「うぐっ!!」
裕二はまたも真っ正面から、攻撃を受けてしまう。あまりの衝撃に体が思いっきり吹き飛ぶ。
「なんて、パワーだよこれ」
パワーの違いに苦戦し、折れて痛む右手をかばいながら裕二は戦うが、ドメスティックマンに片手だけの打撃攻撃は効かず、一方的に殴られ続けた。
「あーもう、お前、殴るの飽きたわ。仕事はお前を社長のところに連れてくこと。もういいかなぁ」
暴力男は気だるそうに言うと、バックルからTKQ朴のカードを引き抜き、ベルトの右側に付いてるアップロードスロットにカードを挿入し、ボタンを押した。
「パワハラアップロードブレイク!」
男の右の拳に真っ黒なオーラが集まる。戦闘経験の浅い裕二でもわかる。この一撃を受けたらヤバいと。なんとか力を出して、全身の痛みをこらえながら立ち上がる。
「オラぁーーー!!!」
ドスの効いた声と共に、一直線に男が突っ込んで来る。裕二はとっさの判断で真上に思い切り、ジャンプした。
「ズガーーーーーンッーー!!!!」
とんでもない衝撃音がなったが、間一髪で男の攻撃を交わした。後ろにあった建物が跡形もなく消えている。
「なるほど、ビビって動けなくなっているかと、思ったが、まだかわす余裕あるのか。だが、次はどうかな?」
「あん?寝ぼけたことぬかすなや。誰がてめえにビビるかよ」
裕二は強がりを見せるが、本当は適当にジャンプしたら運よく、よけることが出来ただけだった。ウォンツマンの力をわかっていない裕二と、完璧に力を使いこなす相手では現状、誰が見ても勝負にならないことはわかる。
「ん?そういえば、右手が痛くねぇ」
裕二にはなぜかわからないが、プラプラしてた右手が完全に治っている。どうやら回復機能があるみたいだ。
「なるほど、ダメージ受けてもある程度、時間経てば回復するのか。段々、力がわかってきたぜ」
「あん?なら、回復が間に合わないように、一撃であの世へ送ってやるよ」
そう言うと男は、TKQ朴のカードをバックルに再び挿入すると、今度はマポトのカードをアップロードスロットに挿入した。
「セクハラアップロードブレイク!」
ドメスティックマンの周りにまたオーラが渦巻く。そして、黒いオーラが4体の女の姿に実体化した。実体化した女幽霊は裕二の手足に絡んできた。幽霊みたいな女とはいえ、裕二に向かってくる女性なんか今までいなかったからつい見とれてしまった。だが、裕二は体の自由を奪われ身動きが全く取れなくなってしまった。
「なんなんこれ?ヤバい、ヤバい、怖い怖い。助けて、美香ーー」
「ハハハー、そいつらは100年前、マポトにヤり捨てされたセフレゴーストさ。マポトの言うこと、つまりその力を使う俺の言うことをなんでも聞く、顔と知名度で男選んで失敗した、哀れなバカ女共の亡霊さ」
「なんだよそれ!そんなのアリかよ」
そして、男は再びスロットにTKQ朴のカードを挿入しボタンを押す。
「ハラスメントコラボアップロード!バズルフィーバー!!」
「これで終わりだ。バイオレンスメテオ」
男の周りから今まで以上にどす黒いオーラが溢れ出す。そして、大きく上空にジャンプすると男の体がオーラと一体となり、巨大な黒いエネルギーの塊となった。しかも、こちら目掛けて落下してくる。上から目線で弱い立場の人間を攻撃してくる、マウンティングの極みのような必殺技だ。
「死ぬ死ぬ、ヤバいーー死ぬ、死ぬ、死ぬ。美香、早く来てくれーー」
裕二は情けない声で美香に助けを求めた。どんなに強い力を持っていても、使う人間がバイトも務まらないニートでは宝の持ち腐れでしかない。
「もう、本当に世話がやけるわ。てか、何よアレ。嘘でしょ?」
ひょいと現れてきた美香が、上空の大きな黒い塊を見て驚く。
「美香、早くピカキンのカードをスロットに入れてくれー」
「自分で入れられないの?」
「幽霊の力で動けないから、お前に頼んでんだよ、見たらわかるだろ!バカかよ、お前」
美香はこの状況で威張る裕二にイラっとしたが、バックルから光の力を持つ、ピカキンのカードを抜きアップロードスロットに挿入した。そして、裕二を置いて猛ダッシュでその場から逃げだした。
「おい!美香だけ、ズルいぞ、俺も連れてけよ。美香ーーおいー」
「シャイニングアップロードブレイク!」
ものすごい強い光が辺りを照らす。セフレゴーストはあまりの強い光に消えてしまった。裕二はオーバーグラスをしているので、何も影響はなかったが周囲は光の熱で燃えてる。
「とんでもなく、ヤバいぜ、これヤバい」
ピカキンのスターオーラの力で、体の自由を取り戻した裕二は猛ダッシュで走り出した。
「ズドーーーン!!!ズザザザーーーーズバーーーン!!!」
黒いエネルギー体は地表に直撃爆発した。周りは爆風に巻き込まれて破壊された。泉南リンクモールは一瞬で消し飛んだ。
「さすがにヤツら死んだか、殺すなと言われてたのにどう言い訳するかな」
元に戻ったドメスティックマンは首を鳴らしながら辺りを見回す。すると背後からレーザー光線が飛んでくる。
「ビイイイーーーン!!」
「ッ!!?」
予想外の一撃に、ドメスティックマンは、かわしきれず、背中に光線が直撃した。
「グッッ、なんで、生きているんだ?あいつ、身動き取れず、死んたはずなのに」
「フンッ、あの女幽霊共は、俺の魅力にめまいを起こしてどっか消えちまったぜ」
美香を右腕に抱え、ドヤ顔をしながらオーバーグラスをかけ直し裕二が叫ぶ。
「なるほど、連れの女が、助けたのか。そして、女抱えて直撃前に上へジャンプして逃げたのか」
裕二は間一髪で美香を捕まえ、思い切り力を込めて大ジャンプをした。おかげでギリギリ直撃をかわした。
「早く、下ろしてよ」
「俺置いて全速力で逃げたこと、許さないからな」
少し爆風が当たったらしく、美香の服はチリチリになっている。裕二もやはりかわしきれず、軽く火傷をしているがすぐに治った。
「私がピカキンのカード入れなかったら、あなた死んでたじゃない」
「それもそうか、なら今回は特別に許してやるよ」
「なんで上から目線なのよ」
美香は立ち上がると暴力男の方を向き、睨み付けながら問いかける。
「なんで、こんなにひどい暴力ばかり振るうの?ここにいた人達がどうなってもいいわけ?少しは他人を思いやる、優しい気持ちあなたにはないの?」
「あん?暴力、力こそ全てだろ。誰かを殴れば、気分がスカッとする。力でねじ伏せれば、みんな、俺の言うことを聞く。欲しいモノがあれば、持っているヤツを殺して、奪えばいい。こんなに自分に良いことばかりの便利なモノ、他にあるか?」
両手の拳を合わせて、満面の笑みでドメスティックマンは答える。この言葉で、この男がどんな男かよくわかる。
「自分さえ良ければ、他はどうなってもいいとか、前川さんといい、あなたといい、ニートて、なんでみんな身勝手な人ばかりなのよ!!人は1人で生きてるんじゃない。支えあって日々を生きてるんだから。そんな身勝手な考えは許されないわ」
「おい美香、俺のどこが身勝手なんだよ!」
美香は、ろくでもないことばかりする改造ニート達に関わることが嫌になってきた。でも、仕事だからと自分に言い聞かせた。
「このクソアマぁー、マジ、ムカつくなぁ。俺に意見していいのは、俺の言うことを聞くヤツか、俺より強い、岩田社長だけだ」
「ほーん。なら、お前より強い、俺の言うことも聞いてもらおうか。お前、ウザいから早く死ねよ」
「あん?てめえが俺より強いだと、もう、ムカつくヤツらだ。全員死刑確定。痛めつけてあの世に送ってやるよ。そこの女はたっぷり辱しめて、それから殺す。」
ドメスティックマンは再び、スロットにマポトのカードを入れる。セフレゴーストがまた実体化する。今度は6体だ。しかし、マポトは一体、何人の女をヤって捨てたのか。三十路童貞の裕二からしたら、目の前の敵よりも100年前のヤり〇ンライバーのが消し去りたい存在だ。もう死んでるけど。
「もう、これで死ね。ウォンツマン」
セフレゴーストが裕二の体を捕らえようとする。しかし、いくら知能の低い裕二でも対処方法がわかれば、同じ手は通じない。
「お前の攻撃は、全て一直線の攻撃。だからこの、女幽霊で動きを封じる必要がある。だが、所詮は幽霊。俺の輝きの前には無力だ!」
裕二は鉤爪で勢いよく地面を堀って、地中に潜り姿をくらませた。
「土の中でも、ゴーストには関係ねぇぞ」
ゴーストたちが一斉に地中に潜りこむ。だが、次の瞬間、地面から光が漏れ出す。
「シャイニングアップロードブレイク!」
再び、強烈な光が地面から発生し、周りのゴーストを一瞬で消し去る。さらに周囲は光の熱で燃え上がりドメスティックマンの足を燃やす。
「あっつ、チッ、クソが、なんだよクソ。なら、これをもう一度くらえ。クソが、まとめて消してやる」
ドメスティックマンは、またスロットにTKQ朴のカードを入れようとする。バズルフィーバーをやるつもりだ。
「させるかよ!筋肉バカ野郎」
裕二は地中から素早く姿を表し、グラスを外し目からモグレーザーを発射する。レーザーは筋肉バカ野郎の右手を貫いた。そして、筋肉バカは右手から朴のカードを落とした。
「ぐわっークソ。クソ、なんでだよ」
「言ったろ、早く死ねって。お前の間合いで勝負しなければ、こんなもんだよ。そして、これで終わりだ。俺と親父、二人の怒りをくらって消え失せろ」
裕二はちょっとダサい、謎のキメポーズをするとアップロードスロットにシャムのカードを入れる。
「オールジャンルアップロードコラボ!バズルフィーバー!!」
「くらえ、ダブルウームスラッシャー!!!」
両手の鉤爪からオーラが実体化した光刃が発生。そして、勢いよく鉤爪が付いた両手を相手に向かって振り下ろし光刃を放った。
「ズパーーーーーン!!!」
飛んでった光刃が、ドメスティックマンの体を切り裂いていった。
「ぐわっ、バカな、体が、そんな、俺が、死ぬ……社長、ウォンツ、ハイ、バッチリーーーー!!!」
「ズドーーーーン!!!!」
ドメスティックマンは悲痛な叫び声と共に爆発して消滅した。まさに必殺の一撃。ついに、改造ニートを倒したようだ。
「ふー、よし、初勝利か。なかなか、いんじゃねーの?」
裕二は一息ついた。そして、ニヤニヤしながらベルトを外し、変身を解除した。
「いいわけないでしょう。泉南リンクモールが吹き飛んだのよ。今回は14時までに避難完了するように要請したから、被害者はいなかったけど、いたら大変なことになったわよ。それに、あなたのお父さん、亡くなったのよちょっと呑気すぎない?」
「くっ、わかっているよ。ところで俺の母親と妹はどこにいたか、わかるか?」
「それが、あなたが戦闘中に、辺りを探してたんだけど、どこにもいなかったのよ」
美香は申し訳ないという表情をする。
「ここにいない、ということは巻き込まれてないて、ことか」
「確証はないけど」
裕二は家族の安否など、どうでも良かったが、美香の前で家族思いなところを見せておけば、自分へのイメージがアップするだろうと思った。ただ、どこに家族が連れてかれたのかはちょっと気になる。
「でも、これでは先が思いやられるわ」
「俺もすぐにケガ治るけど、やっぱり痛いし、もう戦いたくないな。美香、あの話、なかったことに出来ないか?」
「できるわけないでしょう!!」
美香は珍しく感情を出して怒った。ニートは責任感が皆無だ。やっぱりなるべくして、なるんだなと美香は今日とてもよくわかった。
「おっこれ、アイツのカードか。これも使えるのか?」
裕二は足元に落ちている、筋肉バカが使っていたカードを拾い上げる。
「あなたのウォンツドライバーは特別よ。カードは全て使えるはず。いろいろコラボさせてみるといいわ」
「なるほど特別か」
裕二は新たな力を手にいれた。だが、こんなヤツらがまだまだいることに早くも嫌気が差してきた。