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ウォンツマンZERO  作者: ビヨンド裕P
モグラ激闘録① 黎明
6/20

第4話 協力

覚醒したウォンツマンの力で岩田を倒した裕二は、美香と共にウォンツの工場を脱出した。その後、美香の協力者と今後の話をするため2人は集合場所に向かうのだった。



 翌日、大阪某所 AM11:37


「着いたわここが、協力者のいる場所よ」


「おう、ここか。ようやく着いたな」


(……なんか、喫茶店みたいやな。機密情報だかなんだかが、含まれる話を、こんな民間人のいそうなところでするのか?)


 いかにも町中にある、レトロモダンな雰囲気の喫茶店『アルガスタ』に、2人は到着した。


「待て、準備中の札出てるぞ。この店休みじゃないのか?」


「大丈夫、構わないわ。何故なら、この店のマスターが協力者だから。この店を情報交換の場所として使っているの」


「それなら大丈夫か。てか、もっと早く教えてほしいもんだな」


「……」


 なんか言えよ!裕二はそう頭の中で思ったが、必要最低限のことしか話さない美香に、何を言っても無駄なので言わなかった。


 美香は持っていたカギで、ドアを開けて店の中に入った。裕二も続いて中に入ると、長身で少し猫背の男が、コーヒーを飲みながら店のカウンター席に座っていた。店に他の客はいなかった。


(なんや男か…モチベ下がるでホンマ)


「待ってたよ、お二人さん」


「すみません、連絡が遅れて」


(途中のあの電話、この人にかけてたのか)


「構わんさ。それより彼が、ウォンツの洗脳を受けなかった前川裕二くんかい?」


 男が、俺の方を向いて聞いてきた。男の問いかけに、美香がうなずく。


「そうです、彼が前川裕二さんです。前川さん、こちらは内閣諜報局の黒間映未さん、私の上司です」


「よろしくね、前川裕二くん。下の名前で呼んでもいいかい?」


(なんか馴れ馴れしいな。俺より歳上だと思うけど、初対面の人には敬語使うべきやろ。エリートのくせにマナーがなってないな、コイツ)


 他人とコミュニケーションを取る機会が少ない裕二は、フレンドリーな感じで接しても、こう受けとる。


「別に、何でもいいですよ。それより、上司てことは美香さんもその、なんとかの人なんですか?」


「そう、彼女も我々と同じ、内諜と呼んでる国の機関の職員で、私の部下さ。彼女が研究員として、工場に潜入し、ウォンツの情報を探る。そして、月一回ここで会って、僕に現状を報告してくれてたのさ」


 なんだかよくわからないが、この人らは国の役人らしい。美香は敵の内部に潜入して、テロ活動を見張ってたのか。よくそんな危ないことできるな。


「ここでの話は、くれぐれも、他言無用でお願いするよ」


「わかりました」


「まず、我々、内諜がなぜウォンツを調べてたかというと、実はウォンツが、国のサーバーに攻撃を仕掛けてきたからなんだ」


 国のサーバーに攻撃とか、ウォンツは本当に危ない会社なんだな。裕二は、自分を誘拐した時と同じで、岩田は手段を選ばない、恐ろしい男だということを改めて思い知った。


「そして、サーバー攻撃の証拠を集めるのと、目的を探るために、美香くんが製造工場で、僕が本社に潜入することにしたんだ」


「私は派遣社員として工場を探ってる時、岩田から女性の意見がほしいと言われて、デザイナーとして、ウォンツドライバーの制作チームに入ったの。そこから、ドライバーの設計図なんかのデータを、黒間さんに送ってたの」


 ずいぶんと危ない潜入活動してたんだな。何が長身スレンダー美女に、そこまでさせるのか?ろくに働いたことがない裕二は、不思議でしょうがなかった。


「そしたら、このドライバーのデザインは、美香さんがしたんか?」


「いえ、私はデザイン案を出しただけで、ほとんどを開発リーダーの石橋和成という男が開発したの。でも、彼も突然いなくって、あなたへのドライバー起動実験を私が引き継ぎすることになったのよ」


「そんな突然、人て、いなくなるもんなんですか?」


「さあ、そこまでは調べてみないとわからないわ」


 従業員が突然、失踪するとかブラックすぎて、もう暗黒企業だよ。


「我々が、調べてわかったことは、本社の方はダミーで特に動きはなく、工場がウォンツのテロ活動の中心地だとわかったんだよ」


 美香があまりドライバー制作に関わってないと知り、裕二は少し安堵した。美女にこれ以上、犯罪に関わってほしくはない。それにしても、自分も働いていた工場がテロリストのアジトだったなんて、本当に恐ろしい話だ。


「それで、ウォンツはいったい、何が目的なんですか?日本の兵器開発会社として、自衛隊やアジア諸国に兵器つくって売ってたのは知ってるけど」


「岩田たち、ウォンツの目的は、改造ニートを使っての世界征服だ。これは本社にも工場にも目標として掲げてあり、岩田も口癖のように言ってるから間違いない」


「そういえば、世界征服ハイ、バッチリ!!とか言ってたな」


「直球すぎる悪の組織で今時、逆に珍しいよ本当」


 黒間がハハハと笑った。おかしい話だが、現実に起きてる以上、笑い話ではない。


「いくら岩田が強くて、部下に人間離れした改造ニートがいるからって、世界征服は無理があるだろ」


 そもそも、いい歳した大人の男が堂々と、世界征服を目的にテロ活動をすることに裕二は驚いた。だけど、自分も30歳で現実を見ずに小説家や作曲家と名乗り、定職に就かずに遊んでいたから、人のことをとやかく言う資格はないとも思った。


「確かにそうだね、とてもヤバい話だ。そして、今日の本題だが、裕二くんには改造ニートと戦ってほしい。もちろん、我々も最大限の協力をする」


 黒間の今までの柔らかい雰囲気が一転、真剣な顔つきで裕二に話かける。


「戦うって、またあのキモいモグラの姿になってか?」


「もちろん、そうだよ。改造ニートの力に対抗するには、同じ改造ニートの力でしか無理だ。それにどうやら裕二くんは岩田たちにとって、貴重な存在らしい。必ず、また裕二くんの目の前に現れるはずだ」


「ええ、岩田はかなり前川さんにこだわっていた。特別な何かがあるのは確実ですね」


 特別な何かとは、岩田が知らない男と話してた無職の因子のことだろう。だが、無職の力なんか戦いの役に立つのだろうか?


「確かに、拘束された時に無職のなんとかが、どうとか言ってたな。ところで、ちょっと話変わりますけど、そいつらと戦うのに報酬みたいなものありますか?俺、タダじゃ戦いたくないですよ」


 裕二は会話の流れを切って、金の話を始めた。自分のことしか考えてないからだ。


「いきなりお金の話?あなた状況がわかっているの」


 美香は少し、表情が険しくなった。


「美香くん、落ち着いて。もちろん、報酬は払うよ。裕二くんにしか出来ない命懸けの仕事だからね。改造ニート、一体撃破につき100万円でお願いしたい」


「少ないですね、命懸けの仕事なのに」


「あなたねぇ……」


 美香の口調が、ちょっと荒々しくなっている。明らかに裕二の空気の読めなさに、イラついている。


「今はこれ以上の額を出せない、本当に申し訳ない。恥ずかしい話、ウチも予算があまり無いんだ。改造ニートがどれほどいるかもわからないし、戦いがいつまで続くかもわからない。今はお手上げ状態なんだ」


「それは、そちらの都合ですよね?その金額で、俺は戦えないです。それに、俺に断られたらあなた方は厳しい状況になるのでは?誠意を見せてほしいです。金額という、一番の誠意を」


 自分にしか出来ない仕事と言われて、裕二はますます調子に乗り始めた。


 だが内諜としても、裕二に断られたら自衛隊の助けを借りなければならない。しかも、改造ニート一体に毎回自衛隊出動では金がかかりすぎる。彼らにしたら、裕二1人に全て任せるほうが、安上がりに済むのは紛れもない事実だ。


「あの、前川さん!国の一大事なんですよ。日本国民の命がかかっているんです。それなのに金、金て、恥ずかしくないんですか?あなたに正義はないのですか」


 もう美香はかなり怒っている。感情がないように見えて、正義感は誰よりも強いみたいだ。だから危ない潜入捜査も出来るのだろう。裕二は勝手に納得した。


「あなた方は、特別な力を持つ俺に助けてほしいんだろ?誠意の見せ方次第で仕事を受けると言ってるだけ、人としての優しさが見えてると思うけどな」


 今までタダ飯食らいだの役立たずだと、家族に言われ続けた裕二にとって、生まれて30年、初めて自分を必要と言ってくれる人が現れて、とても気分がよかった。しかも、自分より下手に出てくるものだからなおさら調子も勢いづく。弱みにつけこみ取れるだけ取ろうという、両親に寄生するニートらしい本人の乞食根性も垣間見える。


「やめよう2人とも。わかった、私が上に掛け合って、裕二くんの報酬が増えるように努力する。必ず、君が納得する金額を提示する。だから、あらためてお願いするよ。ウォンツと戦ってほしい」


 黒間は、2人の言い争いを止めると、なんと床に土下座して頼み込んだ。


「黒間さん、頭をあげてください!こんなヤツにそこまでしなくても……」


「こんなヤツ?まぁいいや。美香、お前も頼むんだよ、土下座でな!」


「美香くん、土下座だ……、日本のため、国民の命を守るためにも」


「くっ……わかり、ました…」


 美香も床に頭をつけ土下座した。体が怒りに震えてるのがわかる。裕二はエリート役人たちが、自分に土下座してる光景に驚いたが、気分は悪くなかった。


「仕方ない、戦ってやるよ。俺の言うことを全て聞くという条件でな」


「ありがとう、裕二くん。そう言ってくれると思ったよ」


 黒間は、ほっとした表情で立ち上がった。美香は尊敬する上司が、無職の男に土下座してることにショックを受けた。感情が抑えられず、床にうずくまり少し泣き出した。


「この店は、僕の実家で、今は空いてるんだ。裕二くん、ここを生活拠点にしてもらって構わない」


「ありがたい話だ。あと美香もここに住んで俺の世話をしろ」


 裕二はさらに要求する。今なら本当になんでも、言うことを聞きそうだからだ。


「美香くん、裕二くんのこと、よろしく頼むよ」


「……わかりました、精一杯、努めます」


「素直になったな、美香。次、歯向かったらもう戦わないからな」


 日本のため、誰かの明日を守るため、美香は素直に裕二の言うことをしばらく聞くことをにした。


「じゃあ、次にドライバーの機能を確かめようか」


「それはお二人に任せるよ。ケースに説明書、あるだろ」


 そう言うと、裕二は奥の部屋に入って寝ようとした。さすがに誘拐、改造手術までされて、もう疲れていた。その時、誰かのスマホが鳴った。


「もしもし、はい白鳥です…。えっ?前川さんに変わるんですか、わかりました」


 美香は自分のスマホを裕二に渡した。


「なんだ?誰だよ、お前」


「フッ、俺の名前はドメスティックマン、ウォンツの社員だ」


「なんだと?」


 まさかの電話相手に裕二は驚いた。


「な、……何の用だ?」


「お前の家族を預かっている。安心しろ、まだ何もしてない。ドライバーを持って、今から言うところに来い」


「何?ふざけるな、家族は関係無いだろ!」


「こうでもしなきゃ、戦わないだろ?今日14時に、泉南リンクモールの駐車場に来い。さもなければ、お前の家族を襲う。お前の母ちゃん、妹との、親子丼動画を撮影してネットにばらまいてから殺す。来なければ辱しめと悲しみを、同時に味わうことになるぜ」


「わかった。今からすぐそっちに行く、おとなしく待ってろ」


 裕二は電話を切り、スマホを美香に返した。ドメスティックマンの名前の通りかなり危ないヤツだ。


「なんて、言ってたの?」


「ウォンツの社員を名乗るヤツに家族を人質に取られた。今から泉南リンクモール行くから、車を貸してほしい」


「なんだって、それは本当かい?」


「今、あなた免許証は家でしょ、私が運転するわ」


「頼む」


「気を付けるんだよ、裕二くん」


「わかってます」


 さんざん、自分のことを邪険に扱った家族なんかどうでもよかったが、敵を倒さなければ報酬は貰えない。裕二は仕方なくドメスティックマンが指定した場所に、美香の運転する車で向かうことにした。


「しかし、予想以上の身勝手さだな。だが、これこそ無職の因子、呪われた力を受け継ぐ男の本質か」


 裕二と美香が店を出た後、黒間は不適に笑いながら、2人の乗る車を見送った。


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[一言] シャムさんの再現度高くて草
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