第15話 憎悪
黒騎士に追い詰められた裕二。ボロボロの体でなんとか戦うが、裕二は勝つことはできるのか?
裕二の攻撃を受けた黒騎士が、頭を抱えて、ふらつきながら立ち上がった。その黒騎士の周りを今度は無数のウォンツマンが取り囲む。
「全部、幻だろ。まとめて消せば、もう俺に通用しない!」
黒騎士は持っている盾を振り回し、周りを囲む裕二の幻を、手当たり次第消していく。
「ボンッ!ボンッ!」
「熱っ!」
黒騎士が消した幻は、イバターの炎で作られており、消された幻が次々と爆発していった。
「ハハハ、俺はここだぜ!アホ騎士くん」
いつの間にか裕二は、黒騎士からだいぶ離れたところにいた。
「ぐっ…てめえ」
連続で、炎の幽霊爆弾攻撃をくらった黒騎士は、片膝をついて荒い呼吸をしている。頭部に受けたダメージも含め、かなり消耗しているようだ。
それでも反撃したい黒騎士は、なんとか立ち上がると再び、とぅーふさんのカードをアップロードスロットに挿入しようとした。その時、美香が黒間からの伝言を裕二に伝えた。
「聞いて前川さん!アイツの能力は、相手の憎しみの感情を、自分のエネルギーに変えるの」
「なんやと?どうすればいいんだそれ」
「アイツを倒そうと、考えなければいいのよ。何か、別のことを考えて!」
「別のこと…か」
裕二は美香に言われるまま、何か別のことを考え始めた。
――これが終われば、美香とヤれるんだよな。なら早く倒さないと……あ、ヤバい、また倒そうと考えてしまった。ちゃうちゃう、美香のこと考えればええねん。エッチしたい、エッチしたい、エッチしたい……――
「今さら何しても変わらねーよ!」
「ヘイトアップロードブレイク!」
……………
カード挿入後、裕二と黒騎士には沈黙の間が訪れた。落ち着きのない黒騎士は、その沈黙に耐えられず、焦ってドライバーを拳でガンガン叩いた。だが、やはり何も反応はなかった。
「反応がないだと…」
「フッ、なるほどわかったぜ。お前の倒し方」
裕二は半笑いをすると、かけていたサングラスを外し、モグレーザーを黒騎士に向けて発射した。
「ビィィィィィ―――――――ン!」
レーザーは、さっきの攻撃の熱でやわらかくなっていた、黒騎士の鎧を真っ直ぐに貫通した。
「どわぁー!!」
レーザーで体を貫かれた黒騎士は、血を吹き出しながら後方にぶっ飛ばされた。
「おい、今の俺は、お前に感情を操られたりはしない。これで止めだ!」
「ぐっ、やりやがって…もう仕事なんか知らん!おい、いるんだろ?剣を持ってこいよ」
鎧がボロボロの黒騎士は、大声で誰かを呼びつけた。すると、二階の窓からさっき持っていた大剣が降ってきた。
「どっから来たんや」
「ファンの思いを、受け入れないなら死ねよ、キモグラ男」
怒りが頂点に達した黒騎士は、アップロードスロットに、2枚のカードを挿入した。
「エモーションコラボバズルフィーバー!!」
黒騎士の持つ大剣〈ヘイトバスター〉にオーラのエネルギーが集まり、巨大な光刃を作り出した。そして巨大になった剣を、両手で持ち上げた。
「俺に殺された奴らの怨念が、この剣に集まってくる。最大威力でキモグラ、お前への贈り物としてやるよ」
「オールジャンルバズルフィーバー!!」
「ならこれが、お前に贈る、俺のファンサービスだ!アホ騎士」
裕二は、いつもの攻撃をする態勢を取る。
「前川さん!!」
「モグラ男!!」
美香と八雲が大声で呼ぶ。2人の呼びかけが合図となって、裕二たちは同時に必殺技を放った。
「ダブルウームスラッシャー!!」
「ヘビーヘイトバスター!!」
黒騎士の振り下ろした大剣が、先に裕二を一刀両断したかのように見えた。衝撃で地面が割れ、大きな亀裂が出来ている。
「捉えた…感触が…ない?」
だが黒騎士は、攻撃の手応えを感じられずに、すぐ辺り一帯を見渡す。すると突然、死角となる後ろ方向からきた、裕二の鉤爪攻撃をもろに受けた。
「何、いつの間に……」
「周りをよく見ることだな、クソガキ」
攻撃を受けた黒騎士は、一瞬で全てを察した。自分が斬ったのは、裕二が作った幻だということ。そして自分が敗れて死ぬことを。
「ズド―――――――――ン!!」
裕二の必殺技を受けた黒騎士が、ゆっくり後ろに倒れ、大爆発して死亡した。
爆発した敵を見ながら、裕二はそっとフュージョンコラボを解除した。
――――――――――――――――――――――――
『六本木東署』PM.23:54
「やったぜ!」
「すごいよ前川さん」
美香たちが、大喜びしながら裕二の元に駆け寄ってきた。
「さすがにヤバかったぜ。自然回復が間に合ってなかったから、あと一撃くらったら逝ってたな」
「良かったですよ、無事で。ところであの時、何を考えて、敵の能力を無効化したんですか?」
「それ、俺も気になるな」
2人は戦いの時、何を考えていたのかを、裕二に聞いた。
「あー、エッチなことだな。美香の万個の締まり具合とかを想像してた。憎しみに勝てるのは、エロしか男には無いで多分」
「…最低ね」
聞いて損したと美香は思った。それに、生きるか死ぬかの戦いで、ろくでもないこと考えて戦う裕二に心底呆れた。
「まぁそんなことより、あんたらがいないと、あの化物共、どうしようもないことはわかった。マスコミ対応は任せて、今は行けよ」
「ありがとうございます。この件が終わったら、必ず全てをお話します」
「サンキューやで」
「でもこっちは、独自でこの件追うけどな」
八雲はグッと拳を出した。裕二と美香は会釈をすると、足早に警察署を去って行った。
「八雲さーん」
「おー葛城、無事だったのか?」
2人が去った後、八雲の元に、部下の葛城が走ってやってきた。
「ええ、鑑識のところにいましたんで。途中、例の男が来ましたけどね。それより表、マスコミヤバいですよ」
「そうか。こりゃしばらく帰れそうもないな…」
やれやれといった表情の八雲は、葛城と共に戦いの影響で、今にも崩れそうな警察署に戻っていった。
――――――――――――――――――
東京某所 『ウォンツ東京工事』
「どうするサトシ?裕二くんはまだ、無職の因子に完全には目覚めてないだろ」
「あと一押しなのは、間違い無いです。そろそろ、私自ら行きましょうかね」
うす暗い部屋で黒間と岩田が、因子について話し込む。
「それはまだ早いだろ。あと一押しなら、もう一体ぐらい改造ニート作れないのか?」
「候補はいます。前川さんと同等の、因子の力を持つ者。ただ…」
「ん?何だよ」
「覚醒には、ちょっと根回しが必要です。協力してくれませんか?」
岩田は黒間にある計画の協力を頼んだ。
「まぁ、いいよ。一緒にバッチリな世界をつくる約束、したからね」
「やっぱり、持つべきモノは仲間であり、同士であります」
うす暗い部屋で、2人の男たちは静かに笑いあった。