第13話 責任
警察署に凸してきた、ブラックナイトマン。大量殺戮を行う危険な黒騎士を止められるのは、ただ一人、前川裕二だ。
「ウォンツマンどこですか――――?もうあなたは寂しくない!俺がいる―――――ウオオオオオ――」
黒騎士は意味不明なことを大声で言いながら、署内を徘徊する。手に持った剣は血で赤く染まっている。
「ここから一歩も出すな」
応援に駆けつけた機動隊が、大きな盾を持って敵を足止めする。しかし、黒騎士にはそんなことは通じなかった。
「ウオオオオオ――――ウォンツマンどこですかー?」
叫び声をあげながら黒騎士は、機動隊の列に突っ込んでいく。そして剣を振り回して、次々と斬りつけていく。窓や壁には血がべっとりと付いており、斬られた隊員の体が、あちこちに転がっている。
一方で美香は、八雲の案内で、黒騎士よりも一足早く裕二のところに到着した。
「前川さん」
「おう、美香か。早くここから出してくれよ……」
裕二は泣きそうな声で美香に頼んだ。ニートは自由を奪われることが、何よりも耐えられないのだ。
「一応、確認ですけどこのまま釈放ということで、いいですね?」
「仕方ないです。でも我々は必ず、内諜が何をしようとしているのか、あの化物やウォンツのこと、真実にたどり着いてみせます」
「ご自由にどうぞ」
八雲は鍵を使い、裕二を留置所の檻から外に出した。
「遅いんだよ。お前、本当に仕事できないな」
「うるさい。それより、新しい改造ニートが、あなたを探して今、警察署で暴れているわ。被害も大きいから急いで戦って」
「さっき詐欺師倒したろ。もう無理や戦えん。今日は帰ってもらえよ」
裕二はスキャムマンと昼間戦い、そして留置所に入れられるという激動の1日だったため、体力も精神もさすがに限界だった。
「敵に帰れってと言って、帰るわけないでしょう。やらなければ、私たちがやられるわ」
「ドライバーはそこの刑事がどっか持っていたから、どのみちフュージョンコラボ出来ないし、戦えんよ。刑事さん、適当に裏口から俺たちを逃がしてくれよ」
大勢の人が犠牲になっているのに、全くやる気を出そうとしない裕二に、美香は困った。美香はものすごく悩んだ末に、ある提案を裕二に持ちかけた。
「戦ってくれるなら報酬金、私の来月の給料分も上乗せしてもいいわ。これでどう?」
「美香、お前大した給料もらってないだろ。年収分よこせよ。そしたら考えもいい」
美香も一度大金を手にしたニートが、数十万ちょっとの上乗せで、やる気を出すとは最初から思っていなかった。だが美香は、裕二にやる気を出させる切り札として、とんでもないことを裕二に言った。
「なら、改造ニートを倒してくれたら、私、あなたに抱かれてもいいわ」
「なんだと?それ本当か?」
美香は何度もセクハラしてくる裕二が、欲求不満なのはわかっていた。ニートにやる気を出させるために、美香は女性として大切な何かを差し出したのだった。
「お前、刑事の前で堂々と売春するなよな。見逃せないなこれは」
「お互い同意しているし、金銭のやり取りはないから、問題はないわ」
「いいだろう乗った!美香、あとで忘れたとか言うなよな」
「もちろんよ」
裕二はついに童貞を卒業できる、しかも美香でときたものだから、急にやる気を出し始めた。
「で、ドライバーとカードはどこや?」
「鑑識課だ。ちょっと遠いからまた、アイツに気をつけて行かないとな」
再び、八雲の案内で裕二と美香は、ドライバーとカードを取りに向かうことにした。
ガシャ、ガシャ
黒騎士の鎧の足音が、署内に響き渡る。その姿を遠くから確認した3人は静かに移動を開始する。
「ウォンツマンさ―――ん、どこですかー?寂しくない!俺がいるからー!」
黒騎士は大声を出しながら剣を振り回し、周りの壁やガラス窓を破壊して歩き回る。無差別に斬り付けられた警官たちの血で、黒い鎧も汚れが目立ってきていた。
(おいおい、あの、ヤバそうなのが敵か?)
裕二は前回の詐欺師と違い、ドメスティックマンと同じ自分よりも、フィジカルが強そうな敵が相手なので、ちょっと戦いたくないと思った。
「よし、行くぞ」
八雲が小声で合図すると、静かに早歩きしながら、ちょっとずつ前へ進んでいく。
「止まれ!」
「うわ――――――」
警官たちの声が響く。いつの間にか3人がいる階の下に、黒騎士はいるようだ。
「クソ、鑑識課はこの下なのに…アイツ待ち伏せしてるのか?」
「そんな知能ないやろあれ。うろうろしてるだけやで」
「どうするの?こちらにまた戻ってきたら、マズいわよ」
3人は階段前で動けなくなってしまった。そこへ下の階段の方から奇声をあげる、黒騎士が近づいてきた。
「ウオオオオオ――――――――――――――!!!」
「どうするんだこれ?」
「私が引き付けるから、その隙に2人はドライバーを取ってきて」
「ざけんな美香。お前が死んだら、約束はどうなるんだ?刑事さん、あんたがおとりになれや。パンピーにばっか助けられて、警察官としての誇りと責任はないんか!」
自分のことは棚に上げて、裕二は刑事を怒った。どんな状況でも、身勝手な振る舞いをする裕二に美香は呆れた。
「自分はさんざん戦いたくないと、責任放棄してワガママ言っていたくせに何言ってんだ。だが、言っていることも一理あると思う。わかった、俺が引き付けるよ。鑑識課は、降りた階段左に真っ直ぐだ。あとは頼むぜ」
「よし、行くぞ美香」
「もう、本当に嫌」
八雲は「ヨシッ!」と気合いを入れると、階段を駆け降りた。そして黒騎士を大声で呼ぶ。
「来いよ、化物!」
「ホ〇ガキ発見!待て逃げるな――――」
八雲は階段に隠れる2人に、合図を送ると右方向に走り出した。その後、ガシャガシャと音を鳴らしながら、黒騎士が八雲の後を追っていく。
黒騎士が通りすぎたのを見た2人は、階段を一気に駆け降りて、猛ダッシュで反対方向の鑑識課の部屋に向かう。だが、足音に気づいた黒騎士が後ろを振り向く。
「あれがウォンツマン、前川裕二さんです。追うのですブラックナイトマン!」
黒騎士を通して、現場の状況を確認していた岩田は、黒騎士の脳内に直接指示をする。
「俺は、〇モガキ退治に忙しいんですよ社長。邪魔するなよな」
裕二もそうだが、持っている因子の力が強いと、教育プログラムの影響を受けにくくなる。岩田は命令するのを諦めて、状況を静観することにした。彼の真の目的は戦いの中で、裕二の無職の因子を覚醒させること。身柄確保は二の次だった。
八雲が引き付けてる間に、2人は鑑識課の部屋に到着した。だが、ドライバーの姿が見当たらない。どうやら段ボールに仕舞われてるようだ。2人は手分けして、探すことにした。
「あったか、美香?」
「ないわ。一個ずつ見ていくわよ」
「時間ねぇぞ」
八雲もアレにすぐやられるだろう。2人共それがわかっていたので懸命に探す。
「何か探しているんですか?」
物陰から男性警官が出てきた。どうやら騒ぎから逃れるために隠れていたらしい。
「この男から預かった、変な機械とカード、どこにあるの?」
美香は警官に詰め寄る。警官はそこですと段ボールを指した。
「あった!前川さんこれ」
「やっと見つけたで。よし、行くぞ。美香、終わったら最高の夜を過ごそう」
「いいから、早くしなさいよ!」
裕二は腰にドライバーをセットした。そして、急いで2枚のカードをバックルに挿入する。
「エラー」
ドライバーから聞いたことがない音声が鳴った。
「あん?なんやコレいったい」
「カードの組み合わせが違うんじゃない?ベストコラボ、前川さんの場合は、ピカキンとシャムじゃなければフュージョンコラボ出来ないわ」
美香に言われて、よくカードを見たら詐欺師の使っていたカード、イバターとピカキンのカードを挿入していた。
「ありゃ、俺ったらもう、おっちょこちょいなんだから」
「キモいから、てか早くしてよ。八雲さんが危ないんだから」
裕二は年下の女にキモいと言われてムッとしたが、今度はしっかりカードホルダーから、シャムのカードを抜きバックルに挿入した。
「シャム!ピカキン!光と闇のレジェンドライバーコラボ!ウォンツマン!オールジャンルコラボ」
ウォンツマンの姿になり、勢いよく部屋を飛び出す裕二。しかし廊下には誰もおらず、さっきまで聞こえていた黒騎士の奇声も聞こえない。
「どこ行った?あのヤベーやつ」
裕二がキョロキョロと周りを見ていた次の瞬間、天井にヒビが入った。
「ズドン!!グッシャーン!!」
ヒビ割れた天井が崩れて、上から黒騎士が落ちてきた。穴が空いた天井上から八雲が顔を覗かす。
「ハアハア、おい、モグラ男、あとは頼むぞ」
「よく生きてたな。不死身かよ」
「まぁな」
八雲が逃げ延びたことに裕二はちょっと感心した。そして黒騎士がヨロヨロと立ち上がる。
「しまったぜ、剣振り回しすぎて床が抜けた。てっ、あれ、もしかしてウォンツマン?やっと会えて嬉しいよ。俺ファンなんだ」
「おい黒いの、とりあえず落ち着け」
ついに探し求めていた、ウォンツマンに出会えたブラックナイトマンは喜びの表情を見せる。ここに危険人物たちが出会った時、想像を絶する戦いの幕が開く。