第9話 炎上
東京、六本木にやってきた裕二たちは、駅でスキャムマンの刺客に襲われるも撃退する。そして裕二と美香は、いよいよセミナーが開かれる六本木タワーに凸を開始する。
東京『六本木タワー入口前』PM.13:02
「しゃあ、行くぞ」
「ええ、気をつけて行きましょう」
美香は裕二にしては珍しく気合いが入っているなと思った。おそらくさっきの少女に、自分のペースを乱された鬱憤を石橋にぶつけたいのだろう。
気合いの入った裕二は、ウォンツドライバーにピカキンとシャムのカードをセットする。セミナー凸に最初からエンジン全開だ。
「シャム!ピカキン!光と闇のレジェンドライバーコラボ!ウォンツマン!オールジャンルコラボ」
「待ってろ詐欺野郎!」
「キュイイーン、バーン!」
裕二が自動ドアの入口に片足を踏み入れた瞬間、前方からレーザービームが発射された。
「危ねっ、なんだよこれ」
「罠が仕掛けられているのね」
裕二は間一髪で罠をかわした。しかし、かわしたことで後方のスターボッタカフェにレーザーが直撃して店の外が燃えてしまっている。
「わー!!」
「何よこれ!」
カフェの客たちは突然の炎上に、パニックになり外に出てきた。近くの通行人は野次馬と化し、あたりは騒然としている。
「あの化物がやったのか!」
「そうだ!きっと」
「そうよ!」
店から出てきた客たちは、この炎上騒ぎは目の前に立っているキモいモグラ男のせいだと勘違いした。そして店の客たちや大勢の通行人が一斉に、裕二と美香の周りを取り囲む。
「ちょっと私たちは関係ないわ。てか、タワーに入る前からこれとか、どうするのよ」
「知らんがな」
取り囲まれた裕二と美香は、想定外の事態に何も出来ず立ち尽くす。すると上空から、炎を身に纏い体の真ん中を紅白カラーでセンター分けした、ツートン魔法使いがカッコよく着地してきた。
「フレイムアップロードブレイク!」
魔法使いの出した炎がリング状となって、周囲を取り囲むように広がっていく。そして次の瞬間なんと、リングの炎が爆発して群衆たちに燃え移りだした。激しく燃え広がった炎は、一気にあたり一面を火の海に変え群衆たちを燃やしてしまった。
「ギャ―――――――熱い!」
「助けて熱い!!」
「うあああー」
「あついよーママー」
クソなんて攻撃しやがる。裕二は目の前に立つツートン魔法使いに切りかかった。しかし手応えはなく、ヤツは炎と共に消えてしまった。
「道をふさぐ、邪魔な奴らは燃えましたよ。次はあなたが燃えて死ぬ番ですねクックク」
「なんてことするのよ!どうしよう助けないと!!とりあえず、消防車、消防車」
「チックソ、外したか」
「クク、それは炎の幻ですよ。本物の私は、このタワーの屋上で待ってます。そこまでたどり着けるかな?ハッハッハー」
突然どこからか聞こえてきた、ちょっと癪にさわる甲高い陰キャボイスが響き渡った。
「美香、とりあずここから出してやる。あとの対応は任せる」
裕二は美香を抱き上げると、そのままジャンプして火が燃えてないところに美香を避難させた。
「なんで……どうしてこんな、ひどいこと平気で出来るのよ…許せない、絶対に許せない!!」
裕二の父親を殺したドメスティックマンに今回の石橋の行為。自分の目の前で行われてきた、改造ニートの数々の凶行に美香は怒りを爆発させた。
「前川さん、必ず…倒して…お願い…します」
美香は怒りに震えながら、なんとか自分の願いを絞り出して裕二に伝えた。
「いいけど、500は安いから報酬800万な。黒間さんに言っとけよ。今回の敵、めちゃ強そうだし」
美香の必死のお願いを受けた裕二は、報酬の引き上げを要求して再び火の海に飛び込んでいった。
「こりゃすごいことになっているぜ。俺、超運がいいな。今日の動画のネタ、これで確定だヒャッホー」
独り言を話す全身黒ずくめの怪しい男が、機嫌良く目の前に広がる悲惨な光景を所持しているカメラに収めていた。
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「入口前に罠があるなら、横の壁ぶち抜いて入ればいいんだろ!」
火の海の中を突っ走ってきた裕二は火だるまになりながら、そのままタワーの壁にニチィ大アメフト部並みの強烈タックルで壁を破壊して侵入に成功した。
「バゴオオオ――――――ン!!」
入口前に設置されていた固定レーザー砲を破壊すると、裕二はエレベーターで屋上に上がろうとした。だが、ボタンを押してもなぜかエレベーターは作動しなかった。
「クソ、屋上まで何階あると思ってんねん。絶対コロ〇からな、あの野郎」
裕二は階段前に行きドアを開けた。すると、目の前から勢いよく生身の人間が3人で襲いかかってきた。
「なんや、コイツら…ゾンビみたいやな」
「これが、先生の言ってたしゃべるモグラ…」
「捕まえよう。そしたら先生にお金を増やしてもらえる」
「んだ、捕まえっぺ」
裕二はこの人たち、何か様子がおかしいと思った。目は白目を向いており、ウォンツマンの姿の裕二を見ても平然としている。
「人間ぽいけど、俺の邪魔するということは、敵だしやってもいいよな。美香いたら怒りそうだけど」
裕二はグラサンを外してモグレーザーを容赦なく目の前のゾンビもどきたちに発射した。
「ビュイイイ―――――ン!!!」
「ぐはっ!!」
「うわ!」
裕二は一応、情けで手や足などにレーザーを撃ち急所を外して相手の動きを止めた。そして倒れるゾンビもどきたちを振り払い、階段をかけ上がって行く。しかし次から次へと上からゾンビが降りてくる。モグレーザーを連発するのは体力的にキツいので、鉤爪で相手の足を攻撃して動きを止めながら屋上に向かった。
「ガガガガガガッ!!」
「いってぇなーオイ!今度はなんだよ!クソが」
ゾンビをかき分けて階段を昇る途中、裕二は頭上から何かに体を撃たれた。ゾンビを盾にしながら、説明書を読んで最近知った機能、ウォンツハイパーグラスのサーチ機能を使い周辺を見渡した。
「あったぜ。なんやこれ?あっドローンか」
裕二を攻撃してきたのはウォンツ製の監視ドローンだった。ドローンの下からは弾丸を発射するバルカン砲が付いており、そこから裕二を撃っているようだ。
クソ、回復するとはいえ知らん敵とこの後戦うこと考えると、あまりダメージくらい過ぎるのはよくないな。そうだ!
裕二は何かを思いだし、ベルト帯の左部分に付いているカードホルダーからマポトのカードを取り出し右のスロットに挿入しボタンを押した。
「セクハラアップロードブレイク!」
マポトのオーラが実体化してセフレゴーストを6体ほど発生させた。その後、ゴーストが上手くドローンを引き付けて裕二から遠ざけさせた。
「意外といけるんだな、これ」
裕二は自分も都合のいい関係のセフレが欲しいと、この時強く思った。
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東京『六本木タワー屋上』PM.14:37
「さすがに遅いな、あのクズニート。ここのタワー従業員を、全員幻覚で操って足止めさせてるからかな?それとも下手こいて死んだのか」
スキャムマンはちょっと心配になってきた。目的の裕二を万が一、罠で死なせてしまったら、自分が岩田に消されるかもしれないからだ。
「誰がクズニートだって、この悪趣味ツートン野郎」
勢いよく屋上のドアを開けて裕二が現れた。体中が傷だらけで、自然治癒能力が間に合っておらずボロボロの状態だった。
「ありゃ、ずいぶん遅いから心配しましたよ。そして、かなりボロボロだな。私とやり合う体力は残ってますかね?」
「てめえのせいでスゲー疲れたよ。だが安心しな。お前を叩き潰す体力も気力も十分にあるで」
裕二は首を鳴らしながら敵と話す。敵の余計な足止めでものすごく体が疲れたから、少し動かして自身の緊張をほぐそうとした。
「いいでしょう。さっきのぬるい炎とは違う、地獄の炎で、クズを焼却処分にしてあげましょう」
「ぬかせ、詐欺師が。嘘ばっか言うお前に、俺が真実を教えてやる。てめえは俺にやられて死ぬんだよ!」
屋上に吹き荒れるビル風が、2人の間を吹き抜ける。東京のど真ん中で、壮絶な戦いが今、始まろうとしていた。