第8話 偶像
次なる敵、石橋が行っている投資セミナーに参加するために、東京に来た裕二と美香。石橋のセミナーに向かう途中に謎の少女と出会い、そこで問題が起こる。
東京『品川駅』AM.9:27
「やっと着いたで。新幹線てホンマすごいな、こんなに早く着くの感動やで」
「あれ、初めて乗ったの?」
「いや、前に乗ったかもしれんわ。しらんけど」
なんだそれと美香は心の中でツッコむ。本当は声に出してツッコミしたかったが、最近クールな女子という設定が崩壊してきてる気がするからやめた。こんなに他人を振り回す人、なかなかいない。
「ここから、六本木まで電車で行くわ」
「六本木になんか用あるのか?」
「もう、セミナーは六本木でやるからでしょ。あとやっぱり、私たちに関係するモノといえば、ビーム本社かな」
「ビームね。知っとるで」
ビームとは六本木にある、110年ぐらい前にあのピカキンが創業した、日本最大級の動画クリエイター事務所だ。今もたくさんの人気動画クリエイターが在籍している。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
東京『六本木タワー貸し会議室』AM.9:44
「もうそろそろ着きますかね?」
「さすがに着いたんじゃないか?」
「そうですか、いやー楽しみにしてましたよ。ウォンツマンと戦える日をね。私から、ささやかなプレゼントも用意してありますし」
「そうか健闘を祈るよ。あとサトシが悲しむから、死ぬなよ」
「もちろんです。それでは」
謎の男との電話を切ると、チャラ男は窓から東京の街を見下ろす。
「気に入ってもらえると嬉しいです。前川裕二さん」
チャラ男は、怪しい笑みを浮かべながらアタッシュケースを持ち、セミナー会場を出た。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
東京『六本木駅』AM.10:24
「ハアハア……もういないよねり消しはコーラの香り?」
裕二よりも一回り小柄な若い女性が、走りながら六本木駅内にやってきた。フリフリな服を着た派手な格好の女性はかなりの距離を走ってきたのか、両手を膝の上に乗せて肩で息をしている。
〈ドンッ☆〉
「キャ!」
「おっ」
小柄な女性に、前方不注意の男がぶつかってくる。
「あっ、ごめんそうめん私は蕎麦派」
「ん?あー、すまんやで」
女性にぶつかってきたのは、中学生時代の修学旅行以来、久しぶりに東京に来てはしゃぐ三十路ニートの裕二だった。
「何してんのよ、バカ。本当にすいません」
「いえ、私もボーっとしてまいあひーまいあはー」
「えっなに?」
遅れて美香がやってくる。旅行に持っていく荷物が多いタイプの美香はスーツケース持ちなので、ビニール袋に財布と下着だけつっこんできた裕二とは違い、移動は一苦労だ。
「ホンマごめんよ。んー、しかし派手な格好の姉ちゃんやな。ぼったくりバーの勧誘でもしてんのか?美香、知ってるか?東京の飲み屋は全部ぼったくり価格らしいで気をつけろよ」
「あっいえこれは…」
「こんな朝から普通、飲み屋の勧誘しないでしょ。それより早く行きましょう」
(いやツッコむところ、そこじゃねーだろア〇ズレンコンは霞ヶ浦産。そもそもお前の連れの男、初対面に失礼すぎるだろーが)
フリフリ女子は、どう見てもアイドルのステージ衣装なのにぼったくりバーの勧誘と勘違いする、この田舎カップルに少しイライラした。
「対象を捕捉。これより警備バッチリモードから、戦闘バッチリモードに移行します」
突然、3体の警備アンドロイドが、裕二たちを取り囲む。そして、持っている警棒が変形して電撃がほとばしる。
「何やこれ一体?」
「ウォンツが一般に売ってる警備アンドロイド、『バッチリマモルくん』ね。テロリスト対策用に、武装戦闘モードがあるタイプのアンドロイドよ」
「そういうば、これ俺作ってたから知っとるな」
「そんな~ソナーは魚群探知機ー。あずあずは、関係ナッシー、ラッシーはヨーグルト風味」
3体の警備アンドロイドは、一斉に裕二たちに襲いかかった。裕二は上手く警備アンドロイドの隙間から、タイミングよくダッシュでかわし囲みから逃げた。美香はとっさにスーツケースを盾にして、攻撃を受けようとした。フリフリ女は頭を抱え、しゃがみこんで震えている。だが、警備アンドロイドは美香とフリフリ女には攻撃はせず、すぐに裕二のいる方向に体勢を変えた。
「狙いはやはり前川さんね、フュージョンコラボして」
「わかってるよ」
「ほえーー助けてよー泣」
裕二はダッシュで逃げ回りながら、持っていたドライバーを取り出し腰に装着し、フュージョンコラボした。
「シャム!ピカキン!光と闇のレジェンドライバーコラボ!ウォンツマン!オールジャンルコラボ」
「えーー何これは?何、何、驚き桃の木高木のブーなんですけどー」
フリフリ女は目の前の男が突如、グラサンかけたキモいモグラ男に変身したことにものすごく驚いた。
「さぁ来いよ、ガラクタ共」
敵はフォーメーションでの連携攻撃を仕掛けてきた。どうやら1体が裕二に突進して気を引き付け、残り2体が背後から攻撃をしようとしているようだ。
「ガキンッ!」
裕二は突進してきたガラクタの、電撃警棒攻撃を右手の鉤爪で受け止める。しかし、背後はがら空きだった。
「バチっ!」
「バチっ!」
「んぐっー!」
前方の敵の攻撃を受け止めたが、背後の2体の攻撃を背中でモロに受けてしまった。
「ぐっ、痺れるねーだが、俺がそこの女に受けたハードプレイは、もっと痺れる一撃だったぜ、ガラクタ共!」
「お二人さん、そんなにハードなプレイをしてるとは……びっくりくりくりいじらないでくりやまさん」
「ちょっと!誤解招く言い方禁止!」
女は田舎カップルは、きっと刺激が少ない毎日を過ごしてるから、刺激を求めてプレイがハードになりがちなのねと解釈した。
「ふっ、消えろ、ガラクタ」
裕二はあえて攻撃を防がなかった左手で、ピカキンとシャムのカードを素早くスロットに挿入した。
「オールジャンルアップロードコラボ!バズルフィーバー!!」
「ダブルウームスラッシャー!!」
裕二はオーラの光刃を両手の鉤爪に纏わせ、一気に高速で回転し、取り囲んでいた3体の警備アンドロイドをまとめて切り裂いた。
「ズバーーーーーン!!!!」
切り裂かれた敵は、ヨロヨロと後ろに下がっていき倒れて爆発した。
「ズドーーーーーン!!!」
「キャーー!!」
「何が起きたんだ?」
混雑する六本木駅内で、なんと警備アンドロイドが暴走し爆発するという事態に、駅はパニックに陥っていた。通報を受け、駆けつけた警察官たちが現場の対処にあたり始める。
「ヤベ、ここは逃げよう」
「警察や一般の皆さんに申し訳ないけど、それが一番ね」
裕二は急いでコラボを解除して、美香と一緒に騒ぎに紛れ、全力ダッシュでその場から逃げた。
「ちょっと、待ってクレイトン・カーショー」
女も何故か、裕二たちの後を追った。
「まぁ、これぐらいやってもらわないとね。クズニートくん」
そう言い残すと、駅での騒ぎを遠くから見つめる、怪しい影がその場を立ち去った。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
東京『六本木タワー前』AM.11:14
「私も少しうかつだった。街中での、戦闘はなるべく避けましょう」
「でもコラボしてなかったら死んでたで。間違った判断やないやろ」
猛ダッシュでセミナー会場まで来て、二人はハアハア言っている。
「間に合ったか?」
「開始は13:00でしょう。まだ時間あるわ」
「そこのカフェで少し休みましょうが焼きにはエバラのたれ」
「そうですね……て、何故、あなたがここにいるんですか?」
「あっ、さっき、宗教の勧誘してきた女じゃん」
「いや、ぼったくりバーて言ってませんでしたか?てか、どっちもちげーようかんはようかんで食べろ」
裕二と美香はフリフリ女が自分たちといることに驚いた。
東京『スターボッタカフェ 六本木タワー前店』AM.11:28
「で、あなたたち怪人ですか?それとも宇宙人?」
「ちゃうで、イケボ童顔モデルとそのマネージャーや」
「機密情報が多いので、あまり多くはしゃべれません。ですが、この方が言っていることは違います」
代金は内諜持ちで、セミナー開始前に休憩をとることにした3人。ここでフリフリ女からの追及を受けることになった。
「私は白鳥美香、こちらは前川裕二さん。13時から目の前のビルで投資セミナーがあって、そこの参加者よ」
「そうそう、それ」
「ふーん、化物でも投資に興味があるんだんだだん」
「キミ、歳上には、敬語使うべきじゃん」
裕二はさっきから語尾のおかしい、見た目は歳下のフリフリ女に、なめた態度を取られイライラしていた。
「私は、小豆神凪。あずあずて呼んで。アイドルやってマスかきラスカル」
よく見ると背は低いが、クリッとした目にツインテールの髪型がよく似合うロリ系かわいめ女子。しかも控えな美香と違って巨乳。これで処女なら悪くない見た目の女性だ。OL好きで制服フェチの裕二にはガキすぎて対象外だが、アイドルオタのウケは良さそうだ。だが、恐ろしいぐらいにウザい。
「歳はいくつや?」
「いちごちゃん+さんさん太陽です」
「お前、殴るぞマジで。そのお下げ髪引きちぎるぞ」
「怖ぴー、裕二、土偶みたいな見た目のくせに、怖ぴー。美香たん助け手島優の胸偽乳」
「マジてめえ〇ろすぞ」
裕二はなめた態度をとるクソガキを殴りたくてたまらなくなった。一方、美香はいつも他人を振り回す側の裕二が、小娘にいいように言われているのを見て、心が少し晴れた気分になった。
「18歳でしょ、アイドルなんて大変ね。ところでなんて名前のグループで活動してるの?」
「立てすじマン臭事変て、グループ名だよんよんよん四駆乗り。今は地下だけど、いつかMハゲステに出て、サイボーグタモリと共演するのが夢なのです!」
「地上波アウトやろ、その名前。あとそのウザい語尾なんやねん。キャラ付け、ミスってるやで」
普段のあなたの私に対する下ネタやセクハラもアウトだし、たまのボケも十分にウザいよと美香はとても言いたくなったがこらえた。
「ところで、この件黙っててあげる変わりに、お願いモ〇ラがあるんだけどいいのすけ?」
「俺の股関の、幼虫モス〇がデカイのよく知ってるな。しかも鎧〇スラにもなるで」
「もう、うるさい黙って。それで何、お願いって?」
美香は未成年の前でわかりづらい下ネタを言う裕二に呆れた。最近一緒にいてわかってきたことが、裕二は周りの空気が読めないのではなく、相手の会話の内容をほとんど理解しないで自分の話しを始めるから、少しズレたことを言うのだろう。
「実は私、ストーカーに追いかけ回されてるの。だから、その、さっきの力でストーカー倒してほしいの源」
「別に隠してないから、しゃべってもいいよ。こないだも泉南リンクモール吹き飛ばして、ニュース出たし」
「私たちより先に、そういうのは警察に行きなさいね。わかった?」
2人がお願いをあっさり断ったことに、あずあずはムッとした。
「むぅー、使えなさすぎりぎりを攻めるインリン」
「お前みたいなわがままで、ウザいガキをストーカーするヤツはこの世にはいない。被害妄想乙、ハイ話これで終わり。美香そろそろ、行こうぜ」
「そうね。力になれなくてごめんなさい。1人で帰れる?」
「いや、もういいわ。じゃねット・ジャクソンまたいつか」
不満たっぷりという表情をした小豆神凪は、荷物を持ってさっさと、どこかに行ってしまった。
「行ったかあのクソガキ。よし、いくぞ美香」
「ええ、行きましょう」
いよいよ、石橋のいるセミナーに攻めこむ時間がやってきた。