【統合参謀本部から来たスカウトとルームメイト②(Scouts and roommates from the Joint Chiefs of Staff)】
「ねえねえ、さっきの誰!?」
イザック准将が帰って直ぐにメリッサが飛んできた。
「階級章は星が2つあったから、准将だよね」
ステラも目を輝かせて俺の顔を覗き込む。
「なんでもない。たまたま、通りすがりに声を掛けられただけだ」
「なんて?」
「勉強は大変だろうとか、友達は出来たかとか、当たり障りのない話さ」
「ふう~ん」
嘘をついてしまった。
自慢になるような話は、したくなかった。
ただでさえ4年のカリキュラムを6カ月で済まそうとしている事に対して、良く思わない人たちも居るはずなのに、この上EMATからスカウトに来たなんて分かると闇討ちに会うかも分からない。
一人なら襲って来る奴等を撃退すれば良いだけの話だが、メリッサたちにも迷惑を掛ける可能性もある。
なにしろ私はあと3ヶ月でここから居なくなるかも知れないが、彼女たちはまだ3年以上もここに居る。
だから目立った行動や、人から嫉妬を受けるような事は決してあってはならない。
けれども、やはり嘘はいけない。
話の内容なんて分かる訳もないが、嘘を言った罪の意識が相手に伝わってしまうのか、お互いに何かしら白けてしまう。
正門の方からステラが駆けて来るのが見えた。
メリッサとカーラが明るく手を振る。
私も申し訳程度に、軽く手を上げた。
“悪い気しかしない”
案の定ステラは、私にとって致命的な情報をもたらした。
「凄いよEMATの車!しかも運転手付き!」
「そりゃあ統合作戦本部の准将なんだから、運転手も付くよ」
「EMATの准将が、なんでこんな所に?」
「そうだよねー。何でこんな所に来たんだろう?」
「まさか忙しい時間を割いてまで、ワザワザ見ず知らずの士官候補生と他愛もない世間話もないよね、ナトー」
メリッサの言葉に、DGSE(対外治安総局)のエマもここサン・シール士官学校を卒業したことを思い出した。
だって、私を責めるときのアプローチの仕方が、まるで一緒なのだから。
「ゴメン。嘘をついてしまった」
こういう時は、直ぐに正直に話した方が良い方向に物事が進むと言う事を、エマと喧嘩しているうちに自然に覚えてしまった。
非のある方が、早く謝る事で事態は直ぐに良好な方向へ軌道修正が出来る。
謝らなければ、お互いが意固地になってしまい長引いてしまう。
「どうしたの?」
「ナトーらしくないぞ!」
「悩み事なら打ち明けて。私たち友達でしょう」
3人が順々に俺に優しく言葉をかけてくれる。
俺は迷ったが、イザック准将が俺をスカウトしに来た事を3人に話した。
「凄~い!!!」
「EMATの方からスカウトに来るなんて!」
「しかも准将でしょ!」
最後まで話し終えていないのに、直ぐに3人が歓喜の声を上げた。
「ここを首席で卒業したとしてもEMATに入るには、しばらく実戦部隊に配属されて有能だという評価を得ないと入れないのに!」
「私なんか、絶対無理!」
「ボーイフレンドは、エリートだらけよ!」
「夢みたい!」
「で、どう返事したの?」
「勿論入るって言ったのよね!」
「いや、それが……」
私は残りの3ヶ月間をこのまま頑張り少尉として外人部隊に戻るか、それともイザック准将と契約して卒業までの4年間を過ごし中尉としてEMATに入るのか、この2つの回答を保留していることを告げるとカーラとステラが大喜びして抱きついて来た。
だけどメリッサだけは、喜ばずに、逆に喜ぶ2人をたしなめた。
「なに勝手に喜んでいるの!」
「だって卒業までナトちゃんと一緒に居られるでしょ」
「メリッサは嬉しくないの?」
カーラとステラにそう言われて、たしなめたはずのメリッサが戸惑いながら答える。
「私だって、ナトちゃんと4年間一緒に過ごせると思うと嬉しいわ。でも」
「でも?」
「でも、こんなに良い条件なのにナトーが保留しているのよ。しかも私たちに聞かれるまでスカウトの話も隠そうとしたのは何故だと思う?」
「そ、それは……」
「分からないよね。私も分からないわ。もし私が同じ立場だったら、あと3ヶ月で外人部隊に帰るって選択肢はないもの。保留するなんて考えられないよ。だって私たちはナトーじゃないもの。だから自分勝手に考えないで、聞こうよ。ナトーの本当の気持ちを。話してくれるよね」
「うん」