【立て籠もり犯との対決⑤(Confrontation with a standing-up criminal)】
コンコン。
モンタナがノックすると、向こうからドアを開けてくれた。
親切な人を殴るのは申し訳ないが仕方がない。
開けてくれたドアから、フランソワと並んで勢いよく中に入ると、予想していた仲間と違い驚いた顔で見上げる敵に間髪を入れず容赦のないパンチを入れてOKした。
思いがけず1人だと思っていた見張りが2人居たのでチアッパを用意しておいたが、その2人ともが見事に2つあるドアのこちら側に揃っていてくれたのは好都合だった。
そして次は扉の向こう。
今度の敵は決してこのドア傍にはいない。
奴等は市役所の庁舎へ向かう、最後のドアの前に立っているはず。
だから、ドアを開けた途端に気付かれてしまう。
モンタナが立ち止まりフランソワに聞く。
「なあ、ナトー中尉だったらこんなとき、どうすると思う?」
「ナトーだったら、一旦窓から外に回って、敵の裏をかいて外から針直すか?」
「そりゃあ確率が低くなる。ナトー中尉だったら上手くやってみせるだろうが、俺達じゃ敵に見つかる確率が逆に高くなっちまう」
「たしかにそうだな。じゃあモンタナはどう考える?」
「俺?俺だったら……この天井に付いている点検口から天井裏を通って、奴等の居る隣の部屋に進入して、横から不意打ちを食らわす。どうでい、いい考えだろう?」
「たしかにナトーなら、そうするだろうぜ。しかし、同じことが俺達2人に出来ると思うか?」
「あー……」
モンタナが天井を恨めしそうに見つめる。
「俺達2人じゃ、先ずあの狭い点検口の出入りが難しい」
「それに、天井が100㎏を越える俺たちの体重を支えてくれるのかと言う問題もある」
「踏み抜いて、オタオタしている間に敵に気付かれちまったら御仕舞だろうな」
「ああ」
「俺たちは、俺たちなりの流儀でやるしかねえってことだな」
「そういうこと」
手に持っていたチアッパを構え、2人で一気にドアを蹴破ると、外のドアの両端に居た敵の見張り2人が驚いて振り向く。
2人ともドアの前には立たず、その横にあるコンクリート製の柱を背にして立っていた。
そして奴等が銃を構える前に、モンタナとフランソワは素早くチアッパで敵の2人を打ち倒して直ぐに後ろに待機しているはずの救急隊を呼んだ。
「向こうの2人は重症だから早く病院に運んでやってくれ、こっちの2人は俺達のためにドアを開けてくれた親切な方々だから、くれぐれも失礼の無いように縛ってやってくれ」
「音が出ないのは良いが、それにしてもこれじゃあ絵にならねえな」
「ああ、俺達はやはり機関銃やショットガンが良いぜ」
「これじゃあ、まるでサーカスで器用にボールの上に乗って玩具のラッパを吹く熊だな」
「違えねえ」
2人は顔を見合わせて苦笑いをした後、とりあえずの勝利を祝いお互いの肘をぶつけ合って喜び、レシーバーのボタンを2回押した。
「いいか、もし敵に見つかった時は、タンッと大きく床を蹴って知らせろ」
「分かっているって」
「いちにのさんで行くぞ」
「OK」
「いち」
「にの」
「「さん!!」」
2人が逆方向に分かれて摺り足で音を立てないように進む。
スピードは早歩き程度。
残り10m。
8m。
5m。
“上手くいきそう”
そう思ったとき、トーニの方からタンッと大きな音がした。
慌てて駆け出したブラームは、得意のハイキックは使わずスライディングの体勢から相手の金的を思いっきり蹴り上げて、そのままトーニの方を振り向き最悪の事態に備えチアッパを構えた。
トーニの西側なら、窓がないからガラスが割れて大きな音が立つ心配はない。
“トーニ!??”
見ると、トーニは敵の真ん前で転んでいた。
しかも転び際に“溺れる者は藁をもつかむ”よろしく、相手のズボンを掴んだのだろう、
敵は銃を手から離してズボンを押さえている。
“何故?”
一瞬、不思議に思ったが、それもそのはずでトーニが転んだ弾みでズボンを脱がしかけたのは大学生くらいの若い女だった。
女は俺がチアッパを構えているのを見て、思わず両手を上げ、そのために押さえていたズボンが足首まで下がってしまった。
「Oh my god」
彼女が、そう言ったかどうかは聞こえないが、俺は心の中でそう呟いた。
“トーニ、お前はなんて間の良いドジなんだ”
「面目ねえ……」
今にも泣きそうな顔のトーニが謝るが、俺だってこんな若い娘さんを叩きのめすなんてことは出来っこない。
そう考えれば、トーニ、お前のした行為は正しかったのかも知れない。
ただし、それは俺には決して思いつくことはできない才能。
複雑な心境で女の口に猿ぐつわを噛まして、縛り上げてからレシーバーのコールボタンを3回押した。




