【立て籠もり犯との対決③(Confrontation with a standing-up criminal)】
「中尉!市役所の裏の建物に敵は5人配置しています。裏の建物から、市役所の裏口迄は約6m」
「正面玄関を見張る敵は3人」
「建物の西側にある通用口の見張りは2人で、付近の樹の下にあるマンホールが、この裏にあるマンホールと地下道で繋がっています」
「西側に屋上に登る梯子が掛かっています。西側には3階に窓が1つ有るだけで、そこにも1人見張りが居ますが、屋上にも敵は5人見張りを置いています」
「東側は1階にある3つの窓に1人ずつ、2階から4階までの3つある窓にそれぞれ1人ずつ見張りを置いています」
「赤外線反応は1階が最も多く、2階と3階には見張り以外いないようですが、4階には10名程度いる様です」
「敵の連絡手段は無線ではなく携帯を使っている様よ。今政府に作戦開始の合図で一斉に切れるように通信基地局の停止を依頼しておいたわ」
「敵はボディーアーマーを装着しているか?」
「いいえ」
「服装は?」
「見える範囲の者たちは、全てグリーンの迷彩服です」
状況を調べていた仲間から次々に入る連絡に、コヴァレンコ警部は目を丸くしていた。
「コヴァレンコ警部、すみませんが各隊員の要請で直ぐに怪我人の救急搬送が出来る状態を整えていただきたい。それと市役所のフロアマップは手に入りますか?できれば詳細な建築図面があれば有り難いのですが」
「り、了解した。直ぐ手配する」
驚くのも無理はない。
現場に到着して、私が警部と話をしている間の、たった5分で各員が的確な情報収集を済ませたのだから。
これにより敵の大凡の配置が分かった。
屋上に5人、4階に10人、3階に2人、2階にもおそらく2人、北側の別棟に5人。
敵が40人居るとするなら、1階に居るのは16人。
このうち1階で所在が判明しているのは、正面玄関を守る3人と西の通容口を守る2人、東の窓を見張る3人で、あとはブラインドを降ろされているので分からない。
裏口を2人に見張らせたとするなら、あとの数名が1カ所ないし2か所に押し込められた人質を見張っているのだろう。
警部が市役所の建築図面を持って来たので、皆で見て頭に入れた。
「救急体制は?」
「手配しておきました」
「それでは作戦会議を始める。警察も協力してもらえますか?」
「勿論です」
「いいか、作戦の終了まで無線は禁止する。使っていいのは確実に失敗して命の危険にさらされた時だけ。それ以外はミッションの第1段階終了の合図として各班の番号分だけ短くコールを鳴らすこと。ただしコールはマナモードでイヤホンを装着する事。いいな」
「了解しました」
作戦会議は3分で終え、それぞれが2分以内に持ち場に着くように指示し、最後に全員の時計を合わせて解散した。
班を3つに分けた。
1班は私とカール。
2人で西側にある隣のアパートの3階に向かい、2班のモンタナとフランソワは救急隊員を連れて裏に回り、3班のブラームとトーニはマンホールから地下道に入って行った。
運転手に抜擢したニール1等兵にも協力してもらう。
「いいか9時55分00秒に、市役所の東南にあるあの街路灯に車をぶつけろ」
おそらくこの作戦の成否の大部分は彼が握っている。
“9時54分50秒”
予定通り市役所前の通りをDozor-B軽装甲兵員輸送車が疾走する。
タタタタタ。
予想通り、敵は兵員輸送車を近づけないように激しく銃撃をし、バランスを失い電線の付いている街路灯にぶつかって止まる。
時刻は9時55分01秒。
この衝突を合図にエマが携帯基地局の電波を封鎖して、ついでに送電も止めた。
実は作戦は、この1秒前から始まっていた。
敵の銃撃が始まり、車が街路灯にぶつかるまでの間に、私とカールはアパートの3階からチアッパを使い3階の手前と奥の見張りを射撃して倒し、手前の見張りを倒したカールは2発目を発射し鍵を壊した。
注意が道路側に向いた一瞬のスキを突いて、ブラームとトーニがマンホールから飛び出し梯子を駆け上り3階の窓から侵入する。
裏の建物では、銃声と衝突音に気を取られた裏口の見張り2人に対して、既に窓から侵入していたモンタナとフランソワがパンチ1撃でKOして外に放り出し、待機していた救助隊員が拘束して連れ去っているところだった。
私はカールと急いでアパートから抜け出して、一旦裏を周ってブラームたちが上った梯子を目指して駆けていた。
3階に進入したブラームとトーニは、私とカールに撃たれた敵を縛り、傷の手当をしていた。
2人とも右の肺に穴が開いて、殆ど呼吸が出来ない状態だったので、テープで貫通した穴を塞いで鎮痛剤を注射して眠らせて部屋の中に運んだ。
最初のミッションは私とカールで敵を倒した後に進入すると言う簡単なものだったが、彼等が大変なのはこの次のミッション。
建物の中央に位置する階段を下に降りて、次はだれの援護もなく25m離れた1本の通路の端に居る見張りと素手で戦わなければならない。
銃を使えない理由は、銃弾が貫通して窓が割れるから。
この段階で既にこちらの作戦が実行中であることが敵に知れれば、作戦は非常に困難になるばかりでなく、敵の間に潜り込んだブラームとトーニには逃げ場はなくなる。




