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鐘楼の白い鳩が飛ぶとき (When the white dove in the bell tower flies)  作者: 湖灯
*****サン・シール陸軍士官学校(Saint-Cyr Military Academy)*****
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【統合参謀本部から来たスカウトとルームメイト①(Scouts and roommates from the Joint Chiefs of Staff)】

 そんなある日、俺の所に軍服を着た年配の男が訪ねて来た。

 丁度サン・シールに来て3ヶ月が過ぎた頃。

 年配と言っても年のころは50前後といったところか。

 背の高いガッチリした体格の男。

 顔立ちは極めてジェントルマン。

 国軍の制服の胸には勲章がジャラジャラと付いている。

「やあ、ナトーさんですね」

「はい、貴方は?」

「私はこういうものです」

 男が差し出した名刺には、EMAT(陸軍参謀本部)と書かれてあった。

 名前はイザック准将。

「なんの用ですか?」

「スカウトに来ました」

「スカウト?でも俺はフランス外人部隊ですが」

「知っています」

「まだフランス国籍は取得していませんが」

「知っています」

「でたらめの経歴書で、入隊していますが」

「それも知っていますし、貴女がもしかするとあの中東で世界一の狙撃兵として名を馳せたグリムリーパーかも知れないことも実は薄々感じています」

「根拠は?」

「もちろん、なにも有りません」

「では、准将の勘違いでしょう」

「……そうですか」

「何故私を?」

「おたく(フランス外人部隊)のトライデント将軍とは旧知の仲でして、以前から貴女には注目していたのですよ。リビアでのザリバン無血掃討作戦、メヒアによるパリでのテロ阻止に、コンゴでのナイジェリア軍救出作戦、ザリバン高原での活躍にPOCのフランス支部壊滅、そしてアメリカとザリバンの和解調停阻止を阻んだ活躍に、コロンビアでの人質解放作戦。おっとコンゴではナイジェリア軍の救出だけではなく、未然にクーデターも阻止しましたよね」

「そこまで知っていて、何故EMATなのですか?私が担当者ならGIGN(フランス国家憲兵隊治安介入部隊)からスカウトに来ますが」

「現状の貴方の能力のままなら、そうでしょう」

 准将は笑って話を続けた。

「でも貴女はGIGNに誘われて行きますか?」

「行かないでしょうね」

「それは私も同じ意見です」

「何故それが?」

「目的が違うから、ですよね」

「目的?」

「そう。ナトーさんは、友達思いです。貴女の戦い方は常に仲間を守る事が第1の目的となっていますよね。だから友達から離れて違う組織に入ることはない」

 今度は私が笑う。

「准将、言っていることがおかしくありませんか?それなら私はEMATにも行かないじゃないですか」

「いいえ、理論が違います参謀本部は陸軍の作戦全体を司る部門。ですからEMATに居ても貴女の大切な仲間は守れます」

「……」

「今まで外人部隊は国軍が行きたがらない“地獄”と呼ばれるような戦闘地域にばかり派遣されていたのはご存じのとおりです。ですがEMATに居れば、それを変える事だって出来るのです。つまり戦地での待遇も国軍並みに改善されるわけです」

「それは外人部隊の性格上、ある程度仕方がないと思っていますし、もし准将の言う通りになれば外人部隊を存続させる大義名分が無くなるのではないですか」

「これは手厳しい」

 イザック准将が笑う。

 大人は、必ず年下の者を甘く見て騙そうとして来る。

 そしてバレると、必ず笑って誤魔化す。

「声を掛けて来たのは、成績のことですね」

「ざっくばらんに言うと、その通りです。確かに貴女の入隊時にはそれを阻止しようとするグループから超難題な筆記試験が行われたと聞きましたが、所詮は外人部隊でのことだと思っていました。大変失礼ですが、何しろ貴女には学歴がない。ところがこのサン・シールでの成績を見て驚きました。丸4年かけて習得する試験内容を、たったの半年足らずで習得するとは思ってもいませんでした。そこで我々はホンの少し小細工をして貴女を試してみました」

「それで、今月は2回も試験があったのですね」

「ご名答。しかも試験結果は大変に良い結果でした。しかも勉強だけでなく、学生同士の人間関係も非常にいいですね」

「それで?」

「どうです。4年のカリキュラムを半年で習得すると言う慌ただしい契約を解除して、他の学生と同じようにチャンと4年かけてジックリ習得してみませんか?半年で習得しても少尉止まりの契約ですが、普通に卒業すれば中尉として配属されますし、学生生活ももっと楽しめます。私たちEMATは、それだけ期間貴女を待つ準備があります」

 さすがにこの言葉には心が揺れた。

 折角できた同年代の友達。

 特にルームメイトの3人とは、もっと長く付き合いたい。

 さすがにエリート中のエリートだけのことはある。

 ナカナカ人の心をくすぐる、良いクロージングを掛けて来たものだ。

「答えは今でないといけませんか?」

「いいえ、貴女がここに居る間ならいつでも構いません」

「それでは6ヶ月間の最後の日でも?」

「大丈夫ですよ。是非良い返事を期待しています」

 そう言ってイザック准将は去っていった。

 屹度、以前ジョルジェ総長が言っていた“男”と言うのは、今日来たイザック准将の事だと思った。

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