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鐘楼の白い鳩が飛ぶとき (When the white dove in the bell tower flies)  作者: 湖灯
*****ウクライナの危機(Ukraine crisis)*****
66/301

【自転車歩兵部隊③(Bicycle infantry unit)】

 レーシ中佐の部隊と別れて、ブラーム、フランソワ、トーニと4人で周囲の探索に当たる。

 国防省から出て30分後に攻撃にあったという事は、敵のアジトもここから30分以内の場所で、しかも攻撃を受けた道路の西側であることは間違いない。

 更に駐屯地を攻撃するための人数を集めて、周囲から怪しまれないで済むような場所となると限られてくる。

 とりあえず探索するにしても、軍服に自動小銃を担いでいると敵に出合った仕舞ったときに瞬殺されかねないから着替える事にした。

 丁度会議に出席するためホテルに足止めを食らっていたので、リュックの中には私服もある。

「これからトーニと私で敵のアジトを探す。ブラームとフランソワは、それまで待機していてくれ」

「了解」

「トーニ、着替えるぞ」

「えっ!?着替えるのか?」

「軍服でウロウロしていたら的になるだろ」

「ま、まあ、そうだけど……」

 トーニと一緒に森の奥に入って服を脱ぐ。

「トーニは、これに着替えて」

「お、おう」

 トーニにGパンとTシャツを投げ、自分はスカートに白のブラウスを着る。

 スカートは軍用だけど何の変哲もないオリーブ色だから、そうそう分からないだろう。

 ストッキングはブラウンにして、会社の事務員がよくそうするように紺色のカーディガンを羽織り、靴もハイヒールに変えた。

「さあ、行くぞ」

 着替え終わってトーニを振り向くと、彼はまだ服を脱いでTシャツに袖を通しただけ。

「早くしろ!」


 ナトーに“早くしろ”と言われて慌てて着替えたが、そりゃあないぜ!

 目の前でスタイル抜群の美女、しかも俺が惚れているナトーの生着替えを見せられたら、目を背けなければいけないと思っていてもそう易々と目を背けられるもんじゃねえ。

 逆に釘付けだ。

 吹きを脱ぐために仰向けになると天に向かって突き出された胸が、ズボンを脱ぐときにはそれまで支えていてくれたブラを押し避けるように垂れ下がる。

 ズボンを脱ぐ時だってそうだ。

 服を着ている時は細身に見えるが、いざ1枚脱ぐと日頃から鍛え上げられているボリュームのあるヒップと太ももがあらわになる。

 しかも俺達みたいに鍛えて筋張ったモノじゃなく、ほどよく皮下脂肪に覆われているから“丸まっちく”て何ともエロい。

 シメは茶色のストッキングだ。

 張りのある真っ白な脚を徐々に茶色のストッキングが覆っていく様子は、それだけでもR-18指定にしてもおかしくない程の映像だが、ナトーの場合はそこに“美”と言う芸術性が付く。

 同じ隊員だから襲う事はねえが、この状況で襲わない男は先ず居ないだろう。

 もっとも、襲った所で相手はナトーだから、逆に倒されてしまうのがオチだけど……。


「ブラーム、すまないが後を頼む。銃声が鳴ったら応援に来てくれ。なかったら1時間後に戻って来るから、そのまま待機だ」

「了解しました」

 ナトーとトーニが別々の道に分かれて自転車で去って行った。

 ナトーに預けられたリュックを手に持って来たブラームが、フランソワの隣に座りリュックを預ける。

「なんだ?」

「ナトーの着替えが入っている。匂いを嗅ぐくらいなら見逃してやってもいいぞ」

「まさか」

 フランソワは少しドキッとしながらも、揶揄からかわれた事に気付いてフッと笑う。

「でも好きなんだろう?」

「お前こそ」

「いつからだ?」

「アイツが外人部隊に入隊しにくるのを邪魔するように命令されて、初めて倒されたときからだ。まあ近付いて来たときから凄い美人だったので好みでのタイプだった。もちろん手加減したわけじゃねえが、やられた時にヒロイン物のスーパーアクション映画の出演者になったような気分になり、……それからだな。そう言うブラームだって好きなんだろ、ナトーの事」

「俺は、別に」

「誤魔化しっこは無しだぜ。いつ死ぬか分からねえ者同士だ。いつまでも孤児根性に支配されていねえで、少しは心を開いたらどうだ?ナトーを見習えよ。アイツ大分変ったぜ」

「だな」

「で、いつからだ?」

 ブラームが“仕方ない”と言う様に膝を抱えて下を向いて話し始める。

「トーニに呼ばれて、グラウンドを走っているナトーを見たときからかも知れない」

「かも知れない?」

「俺はキックボクシングをやっていたから走り方も知っている。ところがトラックを走っているナトーの走り方は、まるで素人そのもので、ペース配分も技術も何もない。それなのに我武者羅に走りタイムを刻んでくる姿を見て、コイツに走り方を教えるだけで俺は名コーチとして暮らしていけるんだなって思った」

「オメー、意外に鋭いな。まあナトーから部隊の前衛を任されているんだから、当たり前か」

「でもな、その時はただ美人で凄い女という認識しか持っていなかったんだ」

「それが、どうして好きになった?」

「モンタナの後に、実際に戦ってみてな……お前と一緒だ」

「そう言われても、その時間俺は病院に行っていて、その試合を見ていない。たまには詳しく教えろ」

「ああ。俺の前にナトーはモンタナと戦ったのだが、それを見ていて何かが違うと感じた」

「何かが違うとは?」

「素人に良くある、殺気とか、自惚れが感じられなかった。ナトーはただ純粋に、勝つために何をしなくてはならないのかだけを考えているように思えた」

「それは勝つために必要な事じゃねえのか?」

「それはそうだが、アスリートだったから分かるのだが、実際にそれを身に着けているのは“伝説”と呼ばれるほどのチャンピオンだけが身に着けている資質で、その他多くのチャンピオンたちは、ただ単にパワーや技術、それに反射神経が優れていると言うだけだ。そして実際に戦ってみると、俺の考えは見事に当たった」

「だな。俺たちは共に身長も体重もパワーも、ナトーより遥かに勝っている。それが、成すすべなく打ち負かされたんだ。しかもナトーの奴ときたら、それを自慢にもしやがらねえ」

「どうする?」

「どうするとは?」

「ハンス隊長と勝負して見るか?」

「……」

「どうした?」

「いや、確かに隊長もナトーの事が好きなのは分かるが……」

「なにか、あるのか?」

「ハンス隊長にしても、トーニにしても、俺達にしても、決して届くことはないような気がする」

「エマの存在か!?」

 フランソワが急に持ち出したのは、ナトーとエマが百合ではないかと言う噂。

 まあ百合だとは思うけれど、そっちの方が気になっているのではない。

 俺が気になっているのは、どれだけ素晴らしい愛の力があっても、どうすることも出来ない運命の力によって何かが捻じ曲げられているのではないかと言う不安。

 だが、それが何かは分からないから、こう答えた。

「力では、たどり着けない何かが、既に動いているような気がする」と。

「力では、たどり着けない……」

 フランソワはボソッと呟いたきり黙ってしまった。

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