【L115A3狙撃銃②(L115A3 sniper rifle)】
「敵は!?」
「確認できません」
負傷した軍曹を担いでトラックに戻ると、こっちの運転手も既に腿を撃たれて重傷を負っていたので、怪我をしていない助手席の兵士と2人で車内から外に引きずり出した。
ついでに、こっち側のタイヤを全て銃で撃ちパンクさせた。
「何をするんですか中尉!これでは、車が使えないではないですか!」
「車より、負傷者の命の方が大切だ。手伝え!」
幸い後ろのハンヴィーは無傷で、反撃を始めて出した。
その間にパンクして傾いたトラックの荷台から積み荷を降ろし、狭くなった道路と車体底部の隙間を埋めた。
これで負傷者2名を寝かせる事が出来る。
パンッ、パンッ、パンッ。
暫く止んでいた狙撃手の銃声が、再び活発に鳴り出した。
狙撃手が連射するときは威嚇射撃が主で、狙いは甘くなる。
「2人、こっちに来い!」
ハンヴィーの5人のうち2人をこっちに来させようとした直後にRPGの2発目の発射音が聞こえた。
「全員車から離れろ!!」
ロケットブースターの音が一瞬途絶え、1発目と同じ丁度0.7秒後に弾頭がハンヴィーを捉えた。
ドーン!!
「うわぁっ!」
銃座にいた兵士と、あと2人が逃げ遅れて爆風に吹き飛ばされたが、私が呼んだ2名は無事だった。
素人ではない。
プロだ。
次は、このトラックが狙われる。
「負傷者を回収しますか!?」
「後だ!」
「では反撃を?」
「その前に無線連絡。ハーネスを3つ持ってこさせろ」
「ハーネスですか!?」
「そうだ」
それから負傷者の対応を指示して、トラックの荷台に上がる。
「我々も反撃を手伝います」
「AKMでは無理だから、じっとしていろ!」
傾いたトラックの荷台に乗り、ケースを開けてL115A3狙撃銃を取り出す。
距離700m。
L115A3なら余裕。
問題はRPGを撃たれる前に敵を見つけ出し、射殺しなければならないと言う事だけ。
ヒューン。
直ぐ荷台の下を、敵の狙撃兵が撃った銃弾が通り過ぎて行く。
敵の狙撃手が使用しているのはT-5000。
それは運転手の怪我の状態で分かった。
かなりエグイが、あの傷は7.62㎜弾で出来たものだ。
同じT-5000を使うのであれば、昨日戦ったスペツナズの3人の方が腕は格段によかった。
一旦荷台から降りて、車の隙間から敵の狙撃兵を狙う。
パシュッッ!
それ程サイレンサーが効いているとは言えないが、無い状態に比べれば1/3以下の銃声。
硝煙も殆どでない。
弾は狙った的の左斜め前に落ちた。
スコープを修正して、もう一度狙って撃つ。
今度は狙撃兵が盾にしている直ぐ右の岩に当たった。
飛ばされた石の破片でも食らったのだろう、狙撃兵は何か叫んで姿を消した。
再度スコープを調整して、今度は今当てた石につけた傷を目標にしてトリガーを引く。
銃弾は、同じところに当たった。
これで、スコープのセットアップは終了した。
さて、これからの問題は距離700mからRPGを正確に当てて来た射手の問題。
熟練した射手でも300~400mと言われるRPGの射程を2倍近く上回る700mで当てて来る。
しかもRPGのロケットブースターは500mで切れてしまうので、残りの200mは慣性での飛翔。
それで2発も狙い通りに的を当てた。
こいつはスペツナズじゃなく、テロ上がりの“アサシン(暗殺者)”
RPGの扱いに特化している奴だ。
1台目から2台目のハンヴィーへのRPGの攻撃には時間が掛かった。
それは風の影響。
発射後に音速の2倍の速度で飛ぶ銃弾に対して、音速より遅い秒速280㎞/h前後で飛翔するRPGの弾頭は、それだけ風の影響を受けやすい。
道路から向こう側は牧草地帯が広がっていて、今は所々で草が揺れている。
奴は風が止まるのを待っているのだ。
敵の狙撃手も今はあまり撃ってこない。
つまり狙撃手は奴をサポートするために撃っているのだ。
サポートするからには奴の傍に居るに違いない。
幸い狙撃手の位置は硝煙で確認できている。
あとは風が止むのを隠れたままジッと待っている奴がRPGを構えて現れるのを待つだけ。
確認して、撃つまでの勝負ではない。
確認して、奴が撃つ前に奴に銃弾を当てなければならない。
ザリバン高原での、一か八かの“まぐれ”は通用しない。(アフガニスタン戦線で、ナトーは真正面から発射されたRPGの弾頭へ狙撃を行い、見事にこれを爆破している)
「なあ、この地方は風が穏やかな日は雨が降るのか?」
「風が穏やかな日に雨は降りません。もっともこの時期なら、風が吹いても滅多に雨に合うようなことはありませんが……それが、なにか?」
「いや、何でもない。有り難う」
話し終えて直ぐに草たちの動きが止まった。
まるで私たちの話に、聞き耳を立てているように。
“そんなに興味深い話なのか?”
確かに草たちにとっては雨の話も大切だろう。
彼らも水を飲まなくちゃいけない。
戦車に踏まれたり、焼かれてしまったりしては大変だから、屹度これからの勝負も心配しながら見ているに違いない。
草の向こうで何かが動く。
“奴だ!”
口に煙草を咥え、RPGを持ち上げ、スコープを覗く。
パシュッッ!
銃弾が幌の隙間を潜り抜けるのが見えた気がした。
“奴が撃つ前に届け!!”
弾が届くまで、スコープを覗き続ける。
奴の指がトリガーに掛かる。
「とどけ―っ!!!」




