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鐘楼の白い鳩が飛ぶとき (When the white dove in the bell tower flies)  作者: 湖灯
*****ウクライナの危機(Ukraine crisis)*****
62/301

【L115A3狙撃銃②(L115A3 sniper rifle)】

「敵は!?」

「確認できません」

 負傷した軍曹を担いでトラックに戻ると、こっちの運転手も既に腿を撃たれて重傷を負っていたので、怪我をしていない助手席の兵士と2人で車内から外に引きずり出した。

 ついでに、こっち側のタイヤを全て銃で撃ちパンクさせた。

「何をするんですか中尉!これでは、車が使えないではないですか!」

「車より、負傷者の命の方が大切だ。手伝え!」

 幸い後ろのハンヴィーは無傷で、反撃を始めて出した。

 その間にパンクして傾いたトラックの荷台から積み荷を降ろし、狭くなった道路と車体底部の隙間を埋めた。

 これで負傷者2名を寝かせる事が出来る。

 パンッ、パンッ、パンッ。

 暫く止んでいた狙撃手の銃声が、再び活発に鳴り出した。

 狙撃手が連射するときは威嚇射撃が主で、狙いは甘くなる。

「2人、こっちに来い!」

 ハンヴィーの5人のうち2人をこっちに来させようとした直後にRPGの2発目の発射音が聞こえた。

「全員車から離れろ!!」

 ロケットブースターの音が一瞬途絶え、1発目と同じ丁度0.7秒後に弾頭がハンヴィーを捉えた。

 ドーン!!

「うわぁっ!」

 銃座にいた兵士と、あと2人が逃げ遅れて爆風に吹き飛ばされたが、私が呼んだ2名は無事だった。

 素人ではない。

 プロだ。

 次は、このトラックが狙われる。

「負傷者を回収しますか!?」

「後だ!」

「では反撃を?」

「その前に無線連絡。ハーネスを3つ持ってこさせろ」

「ハーネスですか!?」

「そうだ」

 それから負傷者の対応を指示して、トラックの荷台に上がる。

「我々も反撃を手伝います」

「AKMでは無理だから、じっとしていろ!」

 傾いたトラックの荷台に乗り、ケースを開けてL115A3狙撃銃を取り出す。

 距離700m。

 L115A3なら余裕。

 問題はRPGを撃たれる前に敵を見つけ出し、射殺しなければならないと言う事だけ。

 ヒューン。

 直ぐ荷台の下を、敵の狙撃兵が撃った銃弾が通り過ぎて行く。

 敵の狙撃手が使用しているのはT-5000。

 それは運転手の怪我の状態で分かった。

 かなりエグイが、あの傷は7.62㎜弾で出来たものだ。

 同じT-5000を使うのであれば、昨日戦ったスペツナズの3人の方が腕は格段によかった。

 一旦荷台から降りて、車の隙間から敵の狙撃兵を狙う。

 パシュッッ!

 それ程サイレンサーが効いているとは言えないが、無い状態に比べれば1/3以下の銃声。

 硝煙も殆どでない。

 弾は狙った的の左斜め前に落ちた。

 スコープを修正して、もう一度狙って撃つ。

 今度は狙撃兵が盾にしている直ぐ右の岩に当たった。

 飛ばされた石の破片でも食らったのだろう、狙撃兵は何か叫んで姿を消した。

 再度スコープを調整して、今度は今当てた石につけた傷を目標にしてトリガーを引く。

 銃弾は、同じところに当たった。

 これで、スコープのセットアップは終了した。

 さて、これからの問題は距離700mからRPGを正確に当てて来た射手の問題。

 熟練した射手でも300~400mと言われるRPGの射程を2倍近く上回る700mで当てて来る。

 しかもRPGのロケットブースターは500mで切れてしまうので、残りの200mは慣性での飛翔。

 それで2発も狙い通りに的を当てた。

 こいつはスペツナズじゃなく、テロ上がりの“アサシン(暗殺者)”

 RPGの扱いに特化している奴だ。

 1台目から2台目のハンヴィーへのRPGの攻撃には時間が掛かった。

 それは風の影響。

 発射後に音速の2倍の速度で飛ぶ銃弾に対して、音速より遅い秒速280㎞/h前後で飛翔するRPGの弾頭は、それだけ風の影響を受けやすい。

 道路から向こう側は牧草地帯が広がっていて、今は所々で草が揺れている。

 奴は風が止まるのを待っているのだ。

 敵の狙撃手も今はあまり撃ってこない。

 つまり狙撃手は奴をサポートするために撃っているのだ。

 サポートするからには奴の傍に居るに違いない。

 幸い狙撃手の位置は硝煙で確認できている。

 あとは風が止むのを隠れたままジッと待っている奴がRPGを構えて現れるのを待つだけ。

 確認して、撃つまでの勝負ではない。

 確認して、奴が撃つ前に奴に銃弾を当てなければならない。

 ザリバン高原での、一か八かの“まぐれ”は通用しない。(アフガニスタン戦線で、ナトーは真正面から発射されたRPGの弾頭へ狙撃を行い、見事にこれを爆破している)

「なあ、この地方は風が穏やかな日は雨が降るのか?」

「風が穏やかな日に雨は降りません。もっともこの時期なら、風が吹いても滅多に雨に合うようなことはありませんが……それが、なにか?」

「いや、何でもない。有り難う」

 話し終えて直ぐに草たちの動きが止まった。

 まるで私たちの話に、聞き耳を立てているように。

“そんなに興味深い話なのか?”

 確かに草たちにとっては雨の話も大切だろう。

 彼らも水を飲まなくちゃいけない。

 戦車に踏まれたり、焼かれてしまったりしては大変だから、屹度これからの勝負も心配しながら見ているに違いない。

 草の向こうで何かが動く。

“奴だ!”

 口に煙草を咥え、RPGを持ち上げ、スコープを覗く。

 パシュッッ!

 銃弾が幌の隙間を潜り抜けるのが見えた気がした。

“奴が撃つ前に届け!!”

 弾が届くまで、スコープを覗き続ける。

 奴の指がトリガーに掛かる。

「とどけ―っ!!!」

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