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鐘楼の白い鳩が飛ぶとき (When the white dove in the bell tower flies)  作者: 湖灯
*****ウクライナの危機(Ukraine crisis)*****
61/301

【L115A3狙撃銃①(L115A3 sniper rifle)】

 午前中はニルス中尉の仕事を手伝い、お昼休みを利用してユリアのお見舞いをするため病院に寄り、午後から部隊に合流するため定期便に便乗させてもらった。

 車両は先導車のハンヴィーの後ろに輸送用のトラックが1台と、その後ろに2台目のハンヴィーが続く。

 ここから部隊のある郊外の駐屯地までは約40㎞ある。

 先頭のハンヴィーに乗ることを薦められ、一旦乗ったものの急に疲れが出てきてしまい、途中の信号で降りて後ろのトラックの荷台に乗った。

 荷物と一緒だけど、こっちの方が暗くてくつろげる。

 車が動き出す。

 荷物を積んだ状態のトラックは、意外に寝心地が良い。

 今頃ハンスは何をしているのだろう。

 会議かな?

 それとも訓練?

 ハンスと過ごした甘い時間を思い浮かべる。

 朝焼けは雨……。

 朝一番に晴れ渡った空を見て素晴らしいと感じ、今度は逆にこの天気が崩れてしまうのではないかと不安になる。

 何の科学的根拠もないと否定した私自身が、そのことに一番怯えていた。

 ハンスの腕に抱かれ幸せに浸っていた。

 快楽と言う誘惑だけではなく、もしかしたら今この時が自分の人生で一番の幸せのピークなのではないかと思ってしまった矢先に言われた言葉。

 それがハンスの言った“朝焼けは雨”。

 だから私は……。

 少しの間目を瞑っていた。

 閉じた瞼の裏に映し出されるのはまだハイファが活きていたころの幼い時の思い出だったり、サオリと一緒に過ごした赤十字難民キャンプの事だったり、エマやハンスたち外人部隊と過ごした楽しい思い出ばかり。

 3つの楽しい思い出の間には、辛いこともあった。

 でも、その一つ一つを乗り越えていくたびに、手にする幸せは大きくなっていった。

 目の前にある幸せが、あまりにも大き過ぎて、このまま逃げ出してしまいそう。

 トラックの幌を支えるフレームがビリビリときしむ。

 郊外の道に入ったのだろう。

 横にしていた体を起こす。

 少し横になっているだけで、大分疲れが取れた。

 積まれている荷物は何だろう。

 大きな木箱には ”AKM”と書かれてあり。

 その隣に幾つも積み上げてある木箱には “7.62x39mm”と書かれてあるから銃弾だろう。

 このケースは?

 ケースには “AWM”と書かれてある。

 L115A3狙撃銃だ!

 この狙撃銃は、M82などに代表される10㎜以上の弾丸を使い有効射程2000ⅿを誇る対物狙撃銃ではなく、より実戦での実用性を重視した8.58㎜弾を使用する対人狙撃銃。

 有効射程こそ10㎜弾を使用する対物タイプの2000㎜には及ばないものの、.338ラプア・マグナム弾の初速はM82の12.7㎜弾の853m/sを大きくしのぐ936 m/s。

 有効射程も約1700mとほぼ互角の性能持つだけではなく、A3シリーズにはサウンド・サプレッサーが付いているから発射音も抑えられ、且つ実包の火薬量も少ないので硝煙も殆ど出ないので発見されにくい。

 確認されている戦闘中の最長射殺記録2475mも、このL115A3によるものだ。

 ケースを開けてみると、ビニールに包まれた新品のL115A3が入っていた。

 もちろん.338ラプア・マグナム弾も2箱入っている。

 このセットを個人で購入すれば30,000ドルは下らないだろう。

 軍で購入したとしても15,000~20,000ドルと言った所か。

“何故これが……”

 良い物を見つけて嬉しくなっていたものの、誰が何の目的で使うのだろうと思った。

 しばらく眺めてから銃を元に戻す。

 こういう物を使わないで解決できればいいが、おそらくそうはいかないだろう。

”朝焼けは雨“

 ただの迷信。

 何の根拠もない。

 打ち消そうとするたびに、思い出してしまう。

 あー駄目、もっとポジティブにならなきゃ!

 ところが、そう考えた矢先、嫌な予感がした。

 いや……予感ではない。

 これは現実のものだ。

 RPGの発射音と、そのロケットブースター噴射音が聞こえ、慌てて幌を潜り抜けて走行するトラックの側面にぶら下がった。

 ブースターが切れて約0.7秒後に爆発音がした。

 トラックが急ブレーキを掛け、その拍子にトラックの側面から振り落とされた。

“トラックじゃない!?”

 路上に投げ出され、前を見ると先頭を走っていたハンヴィーが黒煙を上げていた。

 そのまま前にかけて駆けて行き、乗員の救助にあたるが、運転手と後部座席の3人は即死。

 助手席いた軍曹も気を失い、左上半身の服が剥がれ落ちて露出した皮膚が焼けただれていた。

 もし、この車に乗っていたら……。

 パーン、パーン、パーン。

 救出にあたっている最中に、遠くから銃声が響く。

 敵の待ち伏せだ。

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