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鐘楼の白い鳩が飛ぶとき (When the white dove in the bell tower flies)  作者: 湖灯
*****202号機救助作戦(Unit 202 rescue operation )*****
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【国防省へ②(To the Ministry of Defense)】

「ウクライナ軍第14独立ヘリコプター部隊Mi-24 202号機ユリア・マリーチカ中尉。義勇軍G-LéMATのナトー中尉に救出され只今帰りました!」

 ユリアは、いきなりドアを開けると、集まったギャラリーをけん制するように大きな声で堂々と言って機から降りた。

 威張るように胸を張り、腰に当てた手の指がピコピコと動き、私を誘っている。

「義勇軍偵察部隊第2班ナトー中尉、過激組織の容疑者5人を然るべき部署に引き渡したい」

 ユリアの隣に並ぶと、キャビンのハッチが開かれて202号機のクルーに続いて、モンタナたちが縛った5人を連れて降りて来た。

 人だかりの中央が開き、何人かがこっちに向かって来るのが見えた。

 知っているメンバーが見える。

 第1班のコルシカ空挺団のメンバーと、陸軍参謀総省のイザック准将、それにニルス中尉だ。

「この野郎!来た早々派手な手柄を立てやがって!」

「なんて奴等だ!」

「さすがに俺達空挺団を差し置いて特殊部隊を名乗るほどの事はある!」

「しかも着任の土産が捕虜とは、恐れ入ったぜ!」

 空挺部隊の奴等が、まるで自分の事の様にように喜んで出迎えてくれるのは有り難いが、その都度体のあちこちをバシバシと叩かれるのだけは勘弁してもらいたい。

「やあ、ナトちゃんお帰り。ほんと、君って凄い」

「ナトー中尉、ご苦労様。で、この捕虜は?」

「容疑者です。1人は特殊部隊、あの2人は警察のパイロット、そして隣の2人は民間人」

「容疑者?捕虜ではないのね?」

「その扱いについては、今ご説明した方が?」

「いや、あとでいい。夜の会議には君も出席してもらいたい」

「はい……」

 汚れた服に気兼ねがあった。

「君たちの宿舎は40㎞程離れた場所だが、直ぐに近くのホテルを手配するから、そこで待機していて欲しい。20時に迎えを寄こす。いいかね」

「はい」

 イザック准将は腕時計を見ると秘書官に、急いで近くのホテルに予約を取るように言った。

 ユリアたちの方を見ると、こちらも知り合いたちに揉みくちゃに手荒い歓迎を受けていたが、ホテルではなく直ぐに病院から迎えが来た。

「いやぁね。斜め向かいの病院にお泊りですって。そっちは?」

 ユリアが救急車に乗る時に話し掛けて来た。

「私はその隣のホテルだ」

「あら、100m程しか離れていないじゃない。今夜遊びに行っていい?」

「今夜は、どうやら会議らしい。その前で良ければ、こちらから見舞いに行く」

「ありがとう。じゃあ、また後でね!」

「ああ」

 モンタナたちと一旦分かれ、義勇軍の仮事務所で報告書を書いてホテルに入ると、部屋には真新しい礼装用の軍服にカッターシャツとネクタイ、それにシューズと帽子の他に着替えの下着などが置かれていた。

「早いな」

 先ずシャワーを浴びてから、新しい下着を着て窓から外の景色を見ていた。

 1年前ユリアを訪ねてここに来た時に見たのと同じ、平和な街の風景が広がる。

 まだ大分時間があるので、少しベッドで横になった。


 こんなに高級なベッドではなかったが、小さい頃なかなか寝付けなかった私に義母のハイファがよく色々なお話を読んでくれたことを思い出す。

 夕食を終えた後にギャルマーベ(イラクの公衆浴場)に行っていた義父のヤザが帰って来て、寝付けない私のおでこにキスをして微笑んでくれる。

 ハイファの話を聞きながら、ヤザに手を握ってもらわないといつも寝られなかった。

 何故小さい頃の私は、なかなか寝付けなかったのだろう?

 思い出そうとしても、自分の事なのに思い出せない。

 家の外が真っ白に見えるほど明るい日。

 その日は昼前からタンタンとかドカンとか大きな音が近くで鳴っていた。

 何の音か聞くとハイファは“外に出ちゃダメ、恐ろしい悪魔が子供をさらうために太鼓を鳴らして歩きまわっている”と教えてくれた。

「さらわれたら、どうなるの?」

「呪われて、悪魔の子になるの」

 ドーン!

 その時、直ぐ近くで大きな音がして、女性や子供たちの悲鳴が聞こえた。

 窓の外を見ようとした私に「見ちゃ駄目!」とハイファが言って、いい子にして待つように言いキスをしてくれた。

「いい!?絶対に窓から外を見たり、外に出たりしては駄目よ!」

「ママは!?」

「ママは、外の子供たちが悪魔にさらわれないように助けに行く。直ぐ帰って来るからベッドの下に潜って待っていて頂戴。いいわね」

「うん」

 ハイファはもう1度キスをして笑い、そのまま外に走って行った。

 いつもは優しくドアを閉めるハイファが、珍しく勢いよくドアを閉めた。

“何かある”

 子供心に嫌な予感がして、約束を破って窓の外を見ると、黄色いバスが燃えていて車の中で子供たちが泣き叫びながら助けを呼んでいた。

 ハイファをはじめ、バスの周りには数人の大人たちが集まり、バスの中から子供たちを外に運んでいた。

「アパートの中に運んで!」

 男の声がして向かいのアパートのドアが開けられると、ハイファが抱きかかえた子供を中に連れて入り、そして直ぐに出て来てまたバスの中に消えた。

 2人目の子供を運ぶハイファがアパートに入る時、一瞬こっちを見たので慌ててベッドの下に潜る。

 ハイファはいつも優しいから怒られることは心配しなかったけれど、約束を破ってしまった罰に悪魔が呪いを掛けに来ると思って慌ててベッドの下に潜ってドキドキしていた。

 その時ヒューっと悪魔が来る音が近付いてきたかと思うと、太鼓が破裂するような物凄い音が響いた。

「ハイファ!!」

 ベッドから飛び起きると、そこはイラクではなく、ホテルのベッド。

 窓の外を見ると、時折車のクラクションの音が聞こえるだけで、街は平和そのものだった。

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