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鐘楼の白い鳩が飛ぶとき (When the white dove in the bell tower flies)  作者: 湖灯
*****202号機救助作戦(Unit 202 rescue operation )*****
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【三人目の狙撃手①(Third sniper)】

 敵の狙撃手を見つけた。

 いぶり出されて居心地が悪くなったのか、右に移動して俺の視界に飛び込んで来た。

“チャンスだ!”

 ズドン!

 Alligatorのトリガーを引くと、奴が倒れて見えなくなった。

“やったか!?……いや、距離は1400mもあるから、まだ銃弾は届いていないはず”

 続けざまに奴が倒れた場所に撃ってみた。

 転んだのか、あるいは俺を撃つために伏せたのか……。

 当たればラッキーだが余り長く見ていると頭を吹き飛ばされるかも知れないので、顔を引っ込めて銃を仕舞おうとしたときに、その銃が持っていた手からスルリと抜けて行った。

“何っ!?”

 慌てて拾おうとする俺の肩を、レーシ中佐が抑えて止めた。

 土の上に転がっている銃は、バレルを支えるためのバイポッドラック(二脚架)が根元から千切られていた。

 もうこうなれば、この10㎏以上もある重い銃を使って狙撃することは困難だ。

 地面に横たわる銃を見て、はじめて気付く。

 敵の狙撃兵が俺を狙わなかった訳を。

 おそらく、1400m離れた場所からバイポッドラックの付け根を狙って来るようなやつだから、今までに何度も俺の命を奪う機会はあっただろう。

 だけど、この命を奪わなかったのは、俺が死んだ後にナトー中尉がこの銃を使う事を嫌がったからに違いない。

 しかし何故ナトー中尉は俺の銃を使わなかったのだろう?

 組織は違うと言え、俺の階級は3等軍曹だから中尉が使いたいと言えば、銃をあずけただろう。

 仮に俺が拒んだとしても、ユリア中尉やレーシ中佐とは既に顔馴染みのようなので、そのルートを使えば必ず手に届く。

 なのに何故?

 遠慮……。

 いや、ナトー中尉は戦闘にシビアだから、遠慮と言う筋は無いだろう。

 現に作戦に関しては、レーシ中佐にズケズケと指示をしているくらいだから他に何か理由があるはず。


 Alligator狙撃銃の無効化に成功した直後に、また2台のDozor-B軽装甲兵員輸送車が重機関銃を撃ってきた。

 この2台に備え付けられてある重機関銃は、車内から機械式リモート操作で撃つ事が出来るから止めようがないが、この距離なら例えば居場所がバレていたとしても先ず当たることはない。

 どこを狙っているつもりなのか分からないが、上からバシャバシャと木から引き千切られた枝が降り注いでくる。

 幼稚な攻撃で、正直ウザい。

 弾薬が切れたのか、そのうち2門とも静かになった。

 1台の軽装甲兵員輸送車のハッチが開き、ウクライナ兵が弾薬の補充を試みるが、黙って許すはずもなく撃った。

 相手も撃たれることを想定していたらしく、上手く体を弾薬ケースの後ろに隠していたので、銃弾はケースに当たりその衝撃で車の屋根から下に転がり落ちた。

 Alligator狙撃銃は壊れ、重機関銃は弾切れで、AKM自動小銃では射程が短過ぎて役に立たない。

 彼等の対抗手段としての選択しは3つ。


 1つ目は、車両ごと、ここから逃げる手。

 車両で逃げるためには、先ず逃げる車に乗り込む必要がある。

 T-5000狙撃銃が、この距離からでも装甲車の防弾ガラス1枚なら突き破る事は既に立証済み。

 逃げようとする車のドライバー、もしくはタイヤを狙い打たれれば車は動くことが出来なくなり更に被害は増えるだろう。


 2つ目は、直接森の中から俺を攻撃する手。

 2つの分隊を左右別々の森に向かわせ、森の中を通って直接この場所を叩く方法。

 何故2分隊必要なのかは、彼等の今いる位置から森までの距離が、左右どちらに行っても200mほど離れていると言う事。

 どんなに速く走っても、武器を持っている以上森に辿り着くまでには30秒程度時間が掛かる。

 その間に、俺に狙われた方の分隊は森に着く前に全滅してしまうから。

 そして俺は無傷で森に入った敵を待ち伏せながら、1人ずつ片付けてしまえばいい。


 3つ目は、ドラグノフ狙撃銃の射手に賭ける手。

 有効射程800mとは言え、奴は既にその銃で1200m先に居た俺の仲間を1発で射殺している。

 奴なら更に200m増えた1400mでも1発は無理にしても、必ず当ててくるはずで、この1対1の勝負は絶対に俺が有利だとは限らない。

 俺が有利になるためには、俺の持つT-5000の有効射程外で奴の持つドラグノフの有効射程距離の3倍にあたる2400mを超えないと無理だろう。

 つまり簡単には勝たせてくれない相手と言う訳だ。

 恐ろしく腕はいいが、古参兵ではないのだろう。

 ある程度の年齢なら、あの軍曹からAlligatorを取り上げているはず。

 まだ若い兵士。

 髪の色は何色?

 金髪か、ブロンドか、黒か……。

 瞳の色は?

 ブルー、グリーン、ブラウン、ブラック……。

 背の高さは?

 肌の色は?

 体格は?

 まだ見ぬ好敵手にワクワクしながらドラグノフを持った狙撃兵を探す。

“まさか既に俺を狙っている!?”

 そう思うと、急に背筋に冷たい汗が流れた。

 だが、直ぐに安心した。

 奴を見つけた。

 いや、正確には、奴の影を見つけた。

 さっき重機関銃を撃ってきた装甲兵員輸送車の影に、バレルの長いドラグノフを手に持って座っている兵士の影が伸びていた。

 上官の指示を待っているのか、それともただ休憩しているだけなのか。

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